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八甲田山転生 ~現代知識で雪中行軍を生き抜く。犠牲者は、出さない~  作者: 露李鈴
第四章 1902年1月25日(三日目)

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第二十八話 結成、第三索敵隊!

「このまま停滞すれば、ただ、いたずらに消耗する」


 神成文吉カンナリ ブンキチ大尉の力強い声が、

 静まり返った空気を切り裂く。


 無数に並ぶ雪濠の中央。

 将校と下士官が集められていた。



「よって、本日より、周辺の索敵を行う」


 それは、極めて理にかなった判断であった。


 正しい「現在位置」と「進路」を見つけなければ、

 進むことも、戻るすることもできないのだ。



 * * *


 そして、史実の記録の通り、

 焦りに駆られて全軍であてもなく彷徨えば――


 そこに待っているのは部隊の完全な壊滅だ。


 * * *



「部隊は精鋭による三部隊を編成し、

 この野営地を拠点の軸として、


 周辺地形、および、正しい進路を確認する」



 二百十名の大所帯。


 全体で無闇に動けば、雪の泥濘に足を取られ、

 部隊の統率など一瞬で崩壊する。


 そこで、今の『拠点』の活用が出てくる。


 昨晩設けた安全な拠点を残し、

 少数の精鋭だけでみちを切り拓く。


 被害を最小限に抑えつつ活路を見出す、

 指揮官として完璧な選択に思える。



「残りの者は、

 当野営地において、

 拠点の拡充を行うものとする」



 この時、最悪の想定となるのは、

 いつまでも長期野営を強いられる場合だろう。


 いくら、丈夫な「かまくら型雪濠」を築いたとはいえ、

 燃料、食料……手元の物資には限りがある。


 この極寒環境において、

 雪濠だけの野営には、限界がある。



 ただ、それでも……。

 一刻でも、抗う時間を延ばすため。


 事態を軽視せず。

 安易な希望的観測に逃げない。


 腰を据えて、絶望と正面から向き合う。


 それが、神成大尉の決意だった。



「雪濠の増設および補強、負傷兵の手当て、低体温の予防。

 炊事・燃料管理を徹底せよ」


 次々と指示がくだす。


 神成大尉に焦りは見えない。


 表情は、いつも通り。

 厳しくもなく、優しくもない。


 ただ、揺るぎない指揮官の顔だった。



 だが、時間の経過によって深まる緊張だけは、

 いかなる名将にも止められない。


 八甲田山雪中行軍 三日目。


 ここからは、

 時間との勝負となる――



小林守コバヤシ マモル少尉」


「はっ」



「貴官の分隊を第三索敵隊とする」


 一瞬、空気が凍りついた気がした。


「周辺西側の地形確認を命ず」


 ――西側。


 その方角が意味するものを、俺は知っている。



「了解しました」


 敬礼を返す。


 胸の奥が、熱く、激しく脈打つのを感じた。



――――――――――


 三日目の朝の協議が終わり、

 俺は、すぐに分隊のメンバーを集めた。


「我々は当野営地西方面の索敵任務を行う」


 そう告げ、酒井徳次郎サカイ トクジロウ軍曹へ目配せする。

 酒井軍曹は小さく頷き、低くよく通る声で口を開いた。



「総員、装備の軽量化を徹底しろ。


 この雪濠の位置、目印となる地形は必ず記憶しておけ。

 帰還の足跡を残しながら進むぞ」



 兵たちは迅速に応じた。


「「了解」」


 その声は、恐ろしいほど綺麗に揃っていた。


 彼らも、また、

 この極限状態の中で「精鋭」に成長している。



――――――――――


 時刻、午前七時頃。



 やや風雪が緩み、視界がいくぶん回復していた。


 それでも依然として、

 人を殺すに足る悪天候であることに変わりはない。


 この静けさも、長くは続かないだろう。


 山の気紛れに気を許す者など、

 第五連隊に、もう、誰一人としていなかった。



「この任務に、連隊全員の命運が掛かっていると思え」


 選抜された十数名の顔を見渡しながら、

 俺たちは、野営地を後にした。



 索敵任務。


 それは希望の要であり、

 死と隣り合わせの行動でもある。


 もし、この後、天候が急変し、帰還不能となれば――

 その時点で終わりだ。



 連日の暴風雪。


 新雪の蓄積。


 どれだけ注意を払おうが、一瞬で、

 昨夜の山口少佐たちのように雪崩に飲まれる。



 それでも、探さなければならない。


 進むためにも。


 戻るためにも。


 そして――

 全員で生き残るために。



 第三索敵隊は、

 白に支配された世界へ、静かに踏み出す。



 目指すは、西。


 史実の、記録に刻まれた『運命の場所』を、

 引き当てるために――。


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