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マンションに帰るとすぐ、石鹸の作り方を紙に書きだす。
日本では何とかソーダ(きちんと覚えていない)とか言う
劇物を使って石鹸を作っているが、
エミリーさんのノートに書いてあったのは、
もっと原始的な灰を使った物だった。
温めた油脂に灰水を少しずつ加えながら、よく混ぜるだけで、簡単にできる。
問題はどう言って作ってもらうかだ。
この世界にはもちろん石鹸は存在しない。
ばい菌や殺菌と言った概念もない。
流行病もまだ発生してないし、それに効くと言っても、だれも信用しないだろう。
それにどうやって思いついたか聞かれたら困るし・・・
いろいろ考えた所、
クリームを作る時に出る灰を、
こうして固めて保管しておいて欲しいという、
いかにも怪しい指示しかできなかった。
灰を処分するのに、コストがかかる油脂を使うのを、
おかしいと思われるかとどきどきしたが、
お願いすると、私の指示だからと、
あっさりやってくれる事になった。
父にだけは、これは石鹸という物で、
病気の元を消す力があると説明する事にした。
「灰が病気を防ぐのかい?」
父もきょとんとしている。
「たまたま、偶然なんです!
これを使うと、風邪が治ったんです!」
かなり強引で、無理がある説明でごり押しする。
「ふむ、一度病院で実証してみるか・・・・」
「ありがとう!お父様」
私の怪しい言葉を聞いてくれる父には感謝しかない。
「しかし風邪をひいていたとはな、その方が重要だ!」
そうして、薬を大量に持たされたのだった。
次にラオシャン帝国とのやり取りだ。
ラオシャン帝国とは友好国だが、いかんせん海を隔てているので、やり取りに時間がかかる。
必要なのは、キーリスの実とバルデロナの葉。
両方ラオシャン帝国にしかない薬の原料だ。
他の材料は全て目処が立っているが、
この2つの薬草がないと薬は完成しない。
薬の輸入は教会の領分・・・
口出しが難しい・・・
しばらく悩んでいたが、解決策が思いつかず、
時間だけが過ぎて、焦りが生まれてきた。
ラオシャン帝国との船の輸送を考えると、
本当に時間がない・・・・
「私は頼りない男か?」
フェリクス様の声に、びくんと体が跳ねる。
思わず飲んでいた紅茶を落とす所だったと、
心臓がばくばく音を立てる。
「ずっと悩んでいる事は知っている、
自分から相談してくれる時を待っていたが」
フェリクス様に心配をかけてしまっていたと、
自分の未熟さに情けなくなる。
「申し訳ありません」
「どんな事でもいい、話してほしい」
フェリクス様に手を重ねられ、ぽつぽつと話す。
「エミリーさんのノートですが・・・
キーリスの実とバルデロナの葉と書いてあるように思えたのです。
流行病が流行ると聞いたので、
それらが効くのかなと思ったのですが、
それらはラオシャン帝国から手にいれないといけないですから・・・」
「そうか、なら、ラオシャン帝国から輸入しよう」
あっさりフェリクス様に言われて驚く。
「教会に依頼すれば、さほど難しい話でもない、
薬である事は間違いないし、
新種の薬を開発したいとでも言えばいいだろう」
驚く私をフェリクス様が抱きしめる。
「ノートでそう読めたが、確証がなく、
しかし、流行病に関連しているかもしれないと知って、悩んだのだろう、
単なる気のせいだったとしても、何も悩む事はない。
君が悩んでいる事の方が、何倍も問題なのだから」
私は涙があふれそうになる。
単なる気のせいだとしても、ここまでしてくれるなんて。
心臓がどきどきといって、安心感と幸福に包まれる、
やっぱりこの人が好き、そう思える。
「君の為なら何でもする、その言葉に嘘はない」
狂った時に言っていた言葉にぞくりとなる。
今まで、ピンク色でふわふわしてたのが、
一気に背筋に冷たいものが走る。
王子の時から優秀で、将来賢王になると周りから期待されているし、その期待に十分応えている。
少しぐらい無理をしても、民にマイナスになるような事はしないと信じている。
それでも、うっかりとんでもないお願いをしないように気をつけないと・・・そう改めて思った。




