17(フェリクス視点)
母上がスケジュールの変更を許可されたのは、
私にとってすごく重い意味を持つ。
普通なら単なる令嬢の我儘に、
王子が付き合う事などない。
そんなありえない事をさせるほど、
クリスティーナ嬢に価値があるという事だ。
次期王妃、そう思った方が良さそうだ。
クリスティーナ嬢には、
王子として最上級の礼を尽くそうと決める。
庭を見たいと希望され、
王宮の庭を案内する事にした。
しかし、庭がある事は知ってはいるが、
必要時以外立ち入る事もない場所だ。
花の知識がある訳でもないが、
それでも上手く案内する必要がある、
場合によっては庭師を呼んで・・・
脳内でいくつかのパターンをシュミレーションする。
庭に出て、花を見ているクリスティーナ嬢は、
ピンクの薔薇がある!
あの小さい白い花素敵!
と楽しそうだ。
あまりにも自然で、こちらも気が抜けてしまう。
いやいや、いけない、
相手は次期王妃、油断はできない。
そう思っている時だった。
「頭を空っぽにすると、
アイティアが閃く事があるんです」
「頭を空っぽに?」
私は常に何かを考えていて、
何も考えないという状態が想像できなかった。
「アイディアの点と、アイディアの点が、
こう、ピンと線で結ばれて、
新しい考えが生まれるのです」
「なるほど」
私は体験した事がないが、クリームを産みだしたのだ、
その秘訣なのかもしれない。
「フェリクス様も一度頭の中を、
空っぽにしてみてください」
私は目を見開く。
「花を見て、風を感じるのです、
五感を研ぎ澄まし、自分の心の声に耳を澄ます」
自分の心?
思いがけない言葉に、返答に困る。
「フェリクス様はどんな花が好きですか?」
反射的にこう答えていた。
「貴女が好きな花が一番好きです」
クリスティーナ嬢が驚いた顔をして、
嬉しそうに微笑む。
その心からの笑みに、ずっと見ていたいと思った。
庭を見た後は、
本来の予定を聞かれ、剣の稽古をするつもりだったと
話すと、ぜひ見たいと希望された。
私は騎士達に交じり剣を振るう。
最後に騎士団長と打ち合い、
何度か剣を交えた後、剣を落とされ負けた。
騎士団長に勝てるはずもなく、
負けて当然なのだが、
クリスティーナ嬢がずっと応援してくれていたので、
負けた姿を見せた自分が少し恥ずかしくなった。
もっと強くなりたい、
クリスティーナ嬢の声援に応えたい、
素敵な男性として見られたい。
今まで一度も感じた事のない感情が、
どんどん沸きあがってくる。
ああ、彼女は自分にとって特別なんだ。
そう確信していた。




