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王妃様との会話が終わったと思ったタイミングで、
「そうだわ」
と王妃様が手を叩く。
なにかしら?と王妃様を見ると、
王妃様は嬉しそうに。
「ねえ、ぜひフェリクスと会っていってちょうだい」
さも今思いついた!かのように言われているが、
王子にも予定がある、
おそらく計画されていたのだろう。
この王妃様とのお茶会は言わば王子に会う価値が
あるかどうかのテスト。
王子は普段スケジュールに沿って勉強してる為、
決められた場以外(例えば舞踏会など)
令嬢と会う事はない。
学園で女子生徒と交流があるとしても、
側近と一緒で、ある程度距離を取ってるはず。
つまり、今回私が王子に会う事は、
王子の婚約者として、
王妃様が認め、最有力と示すという意味を持つ。
私はいらんイベント来た!
と思ったし、正直少し焦ったが、
所詮伯爵令嬢に拒否権も選択権もない。
笑顔で、
「まあ嬉しいですわ(生顔見れて)」
と本音を心の内に隠して、王子と面会する事になった。
メイドに案内されたのは、王子の部屋。
本来客は接待用の部屋で会話する為、
王妃様はよほど私を気に入られたのだと思われる。
中に入った部屋は、
確かに広いものの、茶色の家具がセンス良く置かれて、
王妃様の部屋と同様、華美さが抑えられている。
所々に見える、剣や旗が、
男性らしさを感じさせていた。
「お招きありがとうございます」
カーテシーをすると。
「こんなに綺麗な人、初めてだ」
とぽうっとした声が上がった。
「嬉しいですわ」
王妃様に見せた淑女の笑顔ではなく、
年相応の笑顔を見せる。
席を勧められ、王子を見ると、
王子は少し下を向いて、もじもじしていた。
あら、可愛い。
王子は成績優秀、文武両道、
次期王として、貴族、官吏の期待も大きいが、
それを受けても余裕で返す程の、
優等生ぶりだと聞いている。
「すまない、普段女性と話す事がなくて」
「まあ、嬉しいですわ」
「綺麗な人だとは聞いていたが、
ここまでとは、妖精と話している気分だ」
「まあ」
そうして会話しながら、あらと思う、
最初少し頼りない感じがしたが、
今は男らしさすら感じる。
猫だと思って手を出したら、
虎の子だっみたいな・・・
さすが王族、舐めてかかると痛い目に合いそうね・・・・
私がレイチェル先生から、
人の裏を読む事、疑ってかかる事、
駆け引きなど様々な交渉術を学んだ。
私が学んだ以上、王子も学んでいるだろう。
怪しいと思うえば、簡単に蹴落とせる、
しかし、今は信頼して話しているよ、
そんな余裕を感じるのだ。
王子との会話の時間は15分だけで、
私のドレスの話や、王都の流行の話で終わってしまった。
そして、そこで違和感を感じる・・・
王子に中身がない・・・・
これは、ほとんどの人が気づかない違和感。
レイチェル先生から指導を受けてなければ、
単なる、いい王子としか思わなかっただろう。
しかし、王子は無難な受け答えをするだけ、
王子の答えは一つもない。
確かに、施政者として、
自分の考えで動く事はできない部分は多い。
多数の人の意見、利害を考え総合的に判断する
必要があるからだ。
しかし、今は婚約者候補とはいえ、
単なる令嬢との会話。
まだ16歳のはず・・・・おかしすぎる。
メイドがやって来る。
「王子時間になりました」
その言葉を聞いて、私は決意する。
いきなり立ち上がり、
王子の横にドンと座り、王子の腕を取る。
「嫌ですわ!もっと話がしたいですわ!!!」
「クリスティーナ嬢」
困惑して、はじめて自然な表情が見えた。
よし!と思う。
「もっと一緒にいたんですの!」
メイド達も困っている。
「王子にはスケジュールがございます」
「では変更して!王妃様に許可を取って頂戴」
そう言って膨れたふりをして、
王子の腕にぎゅっと抱き着く。
婚約者候補と最有力だったのに、
わがまま娘なら、駄目令嬢にされる可能性もある、
という計算もある。
しばらくして、王妃様に許可を取りに行ったメイドではなく、
いかにも偉そうな人物が、
「王子の今日のこれからのスケジュールはすべて
キャンセルされました。
お二人でお好きなようにお過ごし下さい」
と告げにきた。
王子は目を見開いている。
やはりね。
優秀と聞いていた、
それは、スケジュールに逆らったり、
できないと言ったり、
そんな事が一切なかったという事だ。
確かに優秀なのは周りからすれば安心だ、
しかし、それは周りに全て自分を合わせているという事、
その異常さに、誰も気づいてない事になる。
「まあ、スケジュールが空きましたわ、
何を致しましょう」
上使いで、腕を組んだまま王子を見る。
「えっと」
いきなりの事に戸惑っているのだろう。
「では、庭を案内して下さいませ!
私の家の庭は赤い薔薇のみなのです、
薔薇には他の色もあると聞きますわ、
それをぜひ見てみたいんです」
「分かった」
気持ちを切り替えた王子が、
そっとエスコートしてくれる。
さすがリアル王子。
エスコートは優雅そのもの、慣れている。
庭は想像していた以上に素敵だった。
色とりどりの薔薇はもちろんの事、
こっそり咲いている、私の知らない花など、
地味目な花もセンス良く配置され、
庭の調和がとられている。
「素敵!」
私は素敵を何度も繰り返しながら、
庭を散策していく。
「王子はこんな素敵な庭をいつでも見れるのですね、
羨ましいですわ」
「そうだね」
微笑んではいるが、言外の言葉をひらう。
接待で遊園する以外、息抜きで庭に来る事さえ
今までなかったのだろう・・・・
私ははしゃぎすぎる事なく、
王子にこの時間を楽しんでもらおうと、
他愛のない話をしながらゆっくり歩く。
王子の表情が16歳に戻っているのを、
嬉しく見つめながら・・・




