86.友人関係と情報
「…………」
一口、口に入れてからイグルが固まってしまった。
「あの、……イグル?美味しくなかったですか?」
やはり城の料理と比べるとこんな焼いただけの料理はダメだっただろうか……。
そう考えながら、僕もシェリィラも焼いたキノコを口に運ぶ。
うん、いつもより味がしっかりついていて僕は美味しいと思う。隣のシェリィラもうんうんと頷いて美味しさを嚙みしめているようだった。
「……おいしい……」
「よかった……」
その言葉でほっとした。
イグルはじっと暫く目の前の料理を見つめながら、ハッとしてから続きを食べ始めた。
「正直、温かい料理というものはこんなにも心まで温かくしてくれるとは思わなかった」
そう言いながら、イグルは柔らかく話し始めた。
「自分が毎日城で食べている料理が毒見をしてからきていることも知っている。……だからこそ、私たちの暮らしが守られている実感を今、さらに感じた」
温かい、むしろ熱い料理に万が一毒など入っていても、味の変化は分かりづらいだろう。この国の毒見がどういったものかは分からないが、少なくとも毒見役が食べてから変化がないかを確認するために時間を置いて料理が出されるのはどこの国でも変わらないだろう。
このイグルニアという第二王子は、どんな時でも自分の感情に正直な人なんだ。それは、王族としては生きづらいかもしれないけど、僕はそんな人が王族にいると知れただけで少し嬉しくなった。
「無茶を言ったな。感謝する」
「いえ……」
無茶だと分かっているから質が悪いんだなぁと思いながら、食べ終わって帰る準備をしているイグルに一つ聞きたいことがあった。
「あの、イグルの願いには関係ないことですが……聞きたいことがあって」
「なんだ?私に分かることであればいいぞ」
内容を聞いてから答えた方がいいんじゃないかなと思いながらも、流石王子様といった貫禄で聞きなれている。
「……グロッチ」
「なに?」
一言口にしただけなのに、場の空気が不穏なものに変わった。
「いえ、グロッチという言葉を知っているかを……」
「……はぁ、そういうことか。知っているに決まっているだろう。この国に蔓延るものだ」
イグルからぴりっとした視線を感じる。
「あなたがこの国に来たのは昨日ではなかったか?そんな情報一体どこから……」
頭の回転が速いだろうイグルはすでに答えに行きついたようだった。自分以外の誰かの願いということに。
「……あまり詮索することではないだろうな」
「……イグルは本当に賢いですね。本当は僕一人で色々情報を集めたいところだったんですが、あまり時間に猶予がなくて。それで丁度友人に情報通な人がいそうだなと思って」
「……友人……リノはうまいな」
そうにかっと笑ってくれた。
ちょっとした賭けであったし、僕自身料理を作りながらふと思いついたことだったから上手くいったようでよかった。
「……それで、何が知りたい?」
「グロッチの本拠地」
「……今すぐに答えることはできない」
そう易々と国が秘匿する情報を教えてもらえるとは思っていなかったのでここは想定内だ。
「できれば、七日以内に知れたら嬉しいんですが」
「期日まであるのか」
「う……はい」
「なるほど……ひとまず、見回りを強化するよう指示しよう」
「あ、ありがとうございます」
「……ふ、なに、友の頼みだ」
すごい人と友人関係になったなと改めて実感する。
「それと、こちらからも色々調べていいのだろ?」
「!……はい」
「ではまた今度情報共有と行こうじゃないか。この場所で」
来る気満々な発言に笑ってしまった。
そう心強い言葉を残しながらイグルは玄関のドアを開けて帰って行った。
ちなみに開けた瞬間、護衛のギャランが忘れられないほどの怒声だったのは言うまでもなかった。




