85.リノの素材のまま料理進化版
必死に説得をして、刃物は触らないようにお願いをする。
イグルが万が一怪我をしたら、僕はきっと見えないながらに指名手配されると思う。
「……僕自身、いつも料理と言っていいのか……野営で素材の味そのままが多かったので……あまり期待はできませんよ」
「もちろん構わない。それに刃物を使わないなら手伝っていいんだろう?」
初心者が初心者を手伝う図って、大丈夫なんだろうか。
考えてもイグルは帰らないので、ここは素早く作って食べるしかない。そう割り切ることにした。
「では、このキノコを割いて、その器の上に並べてください」
「分かった」
「それが終わったらこのタレを染み込ませるようにうっすらとでいいので付けてください。両面を浸す感じで」
「こうか?」
「それくらいで大丈夫です。最後にこのチーズと香辛料を上から振りかけてください。そのあと熱します」
「できた。温めるのはここでいいか?」
「はい、では焦げないように火の番をしてください」
「分かった」
なるべく刃物を使わず、……と思って考えた料理だったけれど、イグルは文句も言わずに指示に従ってくれた。第二王子なのにこの柔軟性……父親に距離を置かれていたとは思えない真っすぐさだ。きっと周りに善人が多く、きっと元来の素直もあるんだろう。
僕にとっては、調味料があるからできるもので、あまり料理の練習をしているという感じはしない。ただ、イグル(の護衛)を待たせるわけにもいかないので今日はこうすると決めた。
僕は、途中だったサラダ作りを再開していた。食べやすい大きさにちぎった葉物と、根菜は細く切っていく。細く……は難しくて気持ちだけは細く切った。
「リノ、リノ、これは裏は焼くのか?」
木製のへらを片手に楽しそうに聞いてくるイグルを見て、こういう時間が彼にも必要かもしれないと思い直す。
「もう少し焦げ目がついたら完成です」
絶対美味しいと言われて買ったタレなので不味いということはきっとないだろう。
品目は少ないけれど、今日はこの二品で終わりだ。普段から僕も相棒もそんなに食べる方ではないし、イグルも帰ったら何か食べるものがあるだろう。
「焼きあがりましたね。熱いのでこれは僕が持ちます。イグルは、……こちらをテーブルにお願いしていいですか?」
「分かった」
手を布で覆ってから慎重に火に炙られたキノコの器を取り出す。タレの香ばしさとチーズの焦げた食欲のそそる香りが充満する。
そのままテーブルに持っていき、水とカトラリーを三人分用意したら準備万端だ。
イグルは待ちきれないような雰囲気を出しているのに澄ました顔をしているのが逆に面白かった。
「いつもの素材なだけに調味料が足された簡単料理になってしまいましたが、イグルも手伝ってくれたおかげで早く準備ができました。では、食べましょう」
熱いから気を付けて、そう言うとイグルはハッとして頷いていた。
恐る恐る口元に運んでは、湯気に驚いていてふうふうと冷ましている姿が微笑ましくて……つい、僕も相棒もイグルの様子を伺ってしまう。




