84.王子は突き進む
王子様相手にどう止めればいいのか、困り果ててしまった。
そうこうしているうちに、イグルはキッチンに辿り着いて物珍しそうに見回している。
「おおーこうなっているのか」
「見ることないですよね……」
「あぁ、調理場に行こうとしたら怒られてしまってな」
そりゃあそうでしょう……作っているところなんて王族に見せるものではないと思うだろうし、それこそ料理を作っている人たちの誇りもあるだろう。
「さあ、もう見たでしょう。護衛の人が待ってますよ!」
「……リノは今から何か作るのだろう?」
「……いいえ」
「先ほどそう言っていたではないか」
「……う……」
素直になってはいけない。この人はなかなかに自分の道を突き進む人だと先ほどの会話で学んだんだ。
「リノ、私はな、生きてきてこれまで温かい料理というものを食べたことがない。それは仕方ないことだと理解している。……ただ、一度くらい食べたいと思うことも許されないのか?そう思わないか……?」
「えぇ、まぁ、……そ、うですね」
「リノは私を害さない」
「理由がないですからね」
星人は基本的に自分自身も含めて誰かを傷つけてはいけない。そう根幹にある。
「リノが作った料理が食べたいとは言わない」
「……よ、よかった……」
「私が作りたいんだ」
「よくなかった!!!!!」
この王子様、欲望そのまま口に出していないだろうか。
今までだいぶ我慢してきたのか、僕のことを対等と、友として見て言ってくれているのは分かるけど流石に振り切っている。
王子様に料理させましたって見つかったら怒られるじゃすまない。いや、ここは仮宿だから見つからないけど……!
あわあわと考えているうちにせっかく着直したマントやフードを脱ぎだして腕まくりまでしている。
だめだこの人を止められるのは護衛の人や王家関係者しかいない……!分かりたくなかったそんなこと!
持ち前の手際の良さで、キッチンにある色々なものの使い方を触りながら確認しているイグル。
あまりにも手が早すぎる。
「イグル……!」
「この保存庫開けてもいいか?」
「~~~!……はぁ、いいですよ」
諦めた。僕では止めることは出来ないと悟った。僕にできるのは、絶対に怪我をしないように見守りながらなるべく刃物に近づかせないということ。
「見たことがない物がたくさんだ」
「それは、原型だからですよ。きっと多くの食材が調理されたものを食べていると思いますよ」
二人で保存庫の中を覗きながら、食材を指さし話していく。
「何を作るか決めていた?」
「いえ、サラダ系と……なにかメインになるものを……と。料理が下手なので、せっかくだから練習しようとしていたんですよ」
そう言いながらキッチンに出しっぱなしで水にさらした状態の葉物と根菜に目を向ける。
「なるほど、ならスープとメインは必要か」
「え……」
イグルの頭には王族に出される料理が連想されているんだろう。初心者には絶対に作ることができない料理の数々。
どうしたものかと考えていると、いつの間にかイグルがナイフを握っている。
「わー!どうして、え、そのナイフはどこから!?」
「ん?これは護身用だ」
「護身用のナイフを食品に使わないでください!!」
前途多難だ。




