80.手紙の内容
「改めて、リノとシェリィラ殿に聞いてほしい」
「はい」
僕とシェリィラは同時に頷く。
手紙の内容はお互いに共有しているけど、紙に書けないことを聞くことが基本だ。
特に、何を書いても難しい場合は簡素になりやすい。
「手紙に書いたように、……休んでほしい人がいるんだ」
休んでほしい人。そう、彼は手紙に休んでほしい人がいるとしか書いていなかった。
それが誰なのかも、どうしてなのかも分からない。
「具体的に書けなかったのは許してほしい」
そう、話しながらイグルは続けた。
やはり書けない理由があったようだ。
「休んでほしいその人物とは、父だ」
父、父親……
「つまりこの国の国王なんだが……」
国王…か、やっぱり。
つまりイグルは王子殿下ということだ。王族に連なるどころか、もう王族まっしぐらだった……。
僕がなんとも言えない顔をしていると、イグルは少し驚いていた。
「ん?気づいていなかったのか?」
「いや……王族に連なる人物だとは思ってましたが、王子殿下までとは……」
「ははっ私の名はかなり有名だと思っていたが、奢りだったかもしれないな」
「いえ!……」
否定したとはいえ、とても気まずい。
炎都という巨大都市に入って、国王陛下や王子殿下の名前を知らないというのは確かに致命的なのかもしれない。でも、自分の旅のルールを変えるのも違うと思った。
「こんなことを言うのは不敬かもしれませんが、……あまり調べないようにしているんです」
「王族をか?」
「いえ、そもそもこの世界に関して、いつでも見たままに、先入観なくいられるように……です」
「……いいな、それ」
「……え?」
「私もできるならそうしたいし、そうありたいと思う」
立場上、イグルには見ることができない世界だろう。
為政者とは周辺各国に目を光らせておく必要がある。だからこそ彼がこう言ってくれて嬉しい自分がいる。
「目に入るものすべてが新鮮で楽しそうだ」
「……はい」
否定しないでいてくれる、彼はとても優しい人だ。
「私も簡単にしか名を伝えていなかったからな。イグルニア・ソルヤという。炎都の名が入っていればリノも流石に分かっただろう」
「……でも一番初めにイグルと聞けてよかったです」
もっと緊張したかもしれませんと肩をすくめて伝えると、イグルはくすりと笑っていた。
「すみません、話がずれましたね……国王陛下は休めないほど多忙ということでしょうか?流石に一国の主であれば忙しいのは分かりますが」
休めないことなんてないはずだ。むしろ体調を慮って周囲が放っておかないだろう。
「……分からない。ここ半年以上、会うことさえ拒否されている」
「拒否?」
実の親子で、政務にまで関わっているという息子に半年以上会わないということが可能なんだろうか。
「遠目から見る父は、侍医に付き添われながらふらついた身体を動かし、人目を忍んで行動している」
「今、父に会うことができる人物は二人のみ。侍医と王位継承権を持つ第一王子。つまり私の兄だ」




