75.忙しさ
ララナの家を出る頃には、日が傾きつつあった。
仮宿に戻ったら夜には昨日の約束がある。
三通目の手紙の少年に会うまでに今日のララナの願いを考える時間も必要だった。
こういう大都市で願いが多くある場所は、忙しくなるのが常だった。
普段がのんびり……というよりかはスフィの導きによって方向を変える旅が基本の為、一つの街や村では願いが一件だけということが多い。人口に比例しているのかもしれないし、環境もあるかもしれない。
そう考えながら、夕日に照らされている石畳の地面を、ランタンが明かりを帯びはじめ柔らかく光を反射するレンガを見つめる。
炎都特有な街並みに、人々が息づいて、楽しそうな声が聞こえてくる。
火の都、炎都、ソルヤ、たくさんの呼び名があるこの場所は、砂漠では珍しい多くの移国民が集まる場所として最も繫栄している。この国の王族の治世はもちろん、その秩序を守る人々がいるからこそ、こんなにも人が集まるんだろう。
ただ、そんな中にも今回のララナの件であったようにグロッチと呼ばれる集団もいる。
この手の集団は、大きな都市ではどうしても生まれてしまう。平等の中に意味を見出せないものや、孤児や貧困層。誰しもが裕福に、幸せに暮らせることなどありはしない。生まれ持った環境によって違う生き方になるのは当然だった。
誰がなにを正とするか、それは本人以外には誰にも分からない。
歪んだ生き方になることだってある。
例え、間違っていたとしても進まなければならないときがある。
彼らはどんな集まりなんだろうか。話を聞く限りだと、あまりいい集団とは思えない。ただ一つ言えることは、誰かを傷つけて進む道は相応の罰があるということだった。
仮宿に戻り、シェリィラにはポストの近くに昨日の願いの主が来たら知らせてもらうように言い聞かせる。そうしないと今日も料理をするとはりきっていたので、どうにか納得してもらった。なんたって今日は僕が、昨日決めたように作る番だからだ。
食材もたくさん購入してあるので、保管庫を見ながら何を作るかを吟味する。
僕の今までの料理はきっと野営だったからだと思うことにする。あの本を読んで、腕が向上しているシェリィラには負けたくない気持ちも、もちろんある。
まずは野菜から、保存庫から葉物類と根菜類を取り出し、包丁で順に切っていく。
確か、左手は猫の手……猫。猫の指、前足は指が五本だったはず。僕と変わらない。猫……猫……。
猫の指を想像しながら自分の指に試していたところ、シェリィラがキッチンに入ってきた。心配で見に来たんだろうか……。どうかした?と声を掛けながら相棒を見ると、困った顔をしながら窓の方向に指を指し示していた。
「……え?」
その先には、昨日の約束の少年がポストの前で護衛の青年と共に立っていた。
確かに正確な時間は伝えていなかったが、星が輝く時間ぐらいだと思っていたのでもう少し後だと勝手に思いこんでいた僕の落ち度だ。
早々に手を洗い、刃物だけを片付け僕は少年の待つ場所へと向かう。
シェリィラに少年が来たら教えてほしいとお願いした僕は大正解だった。護衛がいるからといって、何が起こるか分からないのでまずは合流だ。




