71.儚げな少女
メイドの後に続いて、お嬢様の部屋へと向かう。
扉を前に、少し躊躇いながらノックをするメイドを見て、冷遇されているわけではなく心配されているようで少し安心した。
ノックの返事は聞こえなかったが、メイドは静かに扉を開けてゆっくりとワゴンを押しながら入った。そして僕もそっと部屋に入らせていただく。本来なら許されない不法侵入をしていることも理解しながらも、それを理解したうえで今日ここに来ていると自分自身を鼓舞する。
「お嬢様、お嬢様の好きな紅茶をお持ちしました」
「…………」
掃除が行き届いた部屋は広々としており調度品はあたたかみのある色で統一されていた。しかし中には誰もいないように見えたけれどメイドが声を掛けているので、どうやら続き扉の寝室と思わしき場所にお嬢様はいるようだった。
声を掛けながら丁寧に紅茶を淹れている彼女はきっとお嬢様のことを本当に案じているのだろう。常に気遣いながらも元気になってほしいという気持ちが伝わってくる。
「いらなければそのままに。少しでも心が安らぎますように」
「…………ありがとう……」
「なにかありましたらお呼びください」
「………………」
部屋から出て行くまでずっとお嬢様の身を案じていた彼女は、悲しそうな表情をしてそっと扉を閉じた。その表情はきっと僕にしか見えなかっただろう。
扉を開けてしまうと、寝室に侵入してしまうことになってしまうので流石に不法侵入者の僕も押し留まった。どうにかして手紙の差出人であろうお嬢様に会わなければならない。……ここは相棒にお願いしようかと考えているところで、キィ……と扉が開く音がした。驚かせるといけないので部屋の端に移動して様子を伺う。
姿を現したのは気だるげな少女だった。水浅葱色の長い髪に藍色の鮮やかな瞳が印象的で白を基調としたナイトドレスにガウンを羽織っている……そして、袖口から見える腕はとても瘦せ細っていた。
今にも倒れそうな少女はゆっくりとした足取りでメイドの淹れた紅茶が置いてあるテーブルへと近づく。
痩せた手がティーカップへと伸ばされる。まるでお手本かのような仕草で、外見の姿と魂に刻まれた高貴さは別なのだと全身で強く感じた。
少女は一口こくりと紅茶を飲み、そっとソーサーへとカップを戻した。
そして次の瞬間には強い咳に見舞われていた。ごほごほと大きい咳を懸命に手で覆って音を殺そうとしていた。その瞳は涙に濡れ眉間にはきつく皺がより額には汗がびっしりと噴き出していた。
その姿に僕は思わず、駆け寄って背中をさすったほうがいいのか躊躇し半端な足を一歩二歩と踏み出していた。
少女は咳を抑え込みながらか細い声で「誰?」と僕のいる方向を見てしっかりと呟いた。
その少女こそ今回の二通目の手紙の差出人———ララナだった。
「はじまめして、星人のリノです」
片足を踏み出した少し不恰好な登場になってしまったけれど、無事に二通目の手紙の主に出会うことができた。




