69.じわじわと広がる
朝食を食べた後、昨日の夕食のことも考えるとシェリィラの料理の腕が見事に上がっている。それ自体はとても嬉しい。嬉しいけど、僕もちゃんと上達したい……あの、旅の途中のご飯を前にしたなんとも言えない表情のシェリィラの顔を見るのが辛くなってくる。
幸いにも仮宿の保存庫はそこそこの大きさだった。ちなみにこの保存庫は星人の能力が加わっているようで、時を止める……に近い力を感じる。そのため、鮮度の高い食材を保管できるのでありがたく使わせていただく。
普段では買わないような新鮮な肉や魚に卵、瑞々しい野菜などが目につく。仮宿のすぐそばには市が開かれており、そのあたりももしかしたら計算されて作られたのかもしれない。そう思いながらも昼食を買いに外に出がてら、どんどん食材を買い込んでいく。
いつものように声をかけないと気づいてもらえないところがほとんどであり、いつもより記憶が残りにくいようにさらに存在感を薄くするよう意識する。ちなみに見える人はこれでも見えるのであまりそこは考えないようにする。そうでないと、お祭りまでとはいかないけれど、星人歓迎食品が置かれていることに動揺を隠せない。
というか何……星人様大歓迎の文字……大騒ぎにはなっていないけど逆に不自然だし、商売人は商魂たくましいとしか言いようがない。信じているのか信じていないのか絶妙なところだけど、この流れに乗っておこうという気持ちが見え隠れしている。しかも星の形にくり抜いてあって食べる所がほとんどない詰め合わせの根菜や、星の形を模したパンだったり、お菓子であったり……よく思いつくものである。
そういった不思議な現象を横目に、僕はもくもくと食材を買い込んでいく。
そうして聞こえてくるのが、やはり星人の噂だった。
「やっぱりあの噂本当らしいよ」
「あー星人様ねぇ。なに信じてんの?」
「実際に門が動いたのを見た人がいるんだから信憑性は高いでしょ」
若い男女が露店の後ろを話しながら通り過ぎていく。
うん……すぐそこにいます。とても気まずい。
「願いってなんかある?」
「……んーいっぱいある」
「そりゃそうだ!」
そうやって笑いながら通りすぎていく二人を見ながら、でも僕の姿は見えていないと思ってしまう。
僕自身も世の中の人の大半が願いがあると分かっている。でもその願いの種類はたくさんで、一人ひとりの願いを聞くことはできない。叶えることもできない。ただ、できるのは星神が選んだ願いの手助けをすること。万人の願いを聞く存在ではない。
それが僕たちが不可侵とされる理由だった。だから権力者の願いを叶えるかと言えばそうでもない。ほとんどが星神が日頃の行いを鑑みて決めるんだ。
……そしてあとは星人との巡り合わせ。
僕自身、誰かの願いを叶えてあげたいという驕りに陥らないようにしている。そんな慈善事業をやっていたら願いはただの叶えられる欲になってしまう。とても、とても難しい話だ。そう思いながら珍しい色の果実をじっと見つめながら考え込んでしまった。
仮宿が近いため買い込んだ食材はすぐに全て保管庫に入れることができた。傷まない香辛料などはそのままキッチンへと置いていく。
本当ならその場でお昼ご飯を買って食べるつもりだったけれど、少しでも星人の噂がある中じゃあとてもじゃないけど食べられなかった。
ふいに自分の手を見つめてみる。この手で助けられる人の願いが僅かなのは分かっている。だからこそ、噂が酷くならないことを願うばかりだった。




