66.願いの主
ガコン……
刻まれた文字を読んだところ、言葉に反応したのか岩と岩が擦れた音がして四角い切れ込みが動き始めた。
開いた先は思った通り階段だった。今の地下から更に下りられるというのが、物理的なのか自然的にできたのか……それは足を踏み入れてすぐにわかることになる。
階段を下りた先は、先ほどの空間と似てはいたけれど……地下なのに月と星明かりが壁の細い隙間から煌々と照らしていた。この隙間は計算してできるものではなく、外からはこの場所が見えないようになっている絶妙な角度だろう。その自然光で、地面は明るくなり全体的に柔らかな光に包まれた空間となっていた。
その空間の少し薄暗くなっている場所に、人影が見えた。警戒しているのかこちらに剣をむけているが、あいにくと構えているところが違うので、この男は星人に叶えてほしいほどの願いはないんだろう。しかし、出会いがしらに剣を向けるのはいかがなものかと思う。まぁ確かに知らない人が仕掛け階段から降りてきたら驚きしかないだろうけど。
でも、この場所に来たということは、この男は分かっているんじゃないのだろうか?
少し観察しようと横にずれようとした際に、男の更に後ろから地面の土を踏みしめる音が聞こえた。
「あなたが……?」
後ろから出てきたのは少年であり、彼は僕のことがはっきりと見えているようだった。
つまり、あの手紙の主はこの少年ということだ。
僕は少年の前にいる男を遠回りしながら避けて少年の前に辿り着いた。
ちなみに僕はまだ声は出していない。
「私の護衛が気付かないぐらいだ。本物としての証明としてはこれ以上にない」
護衛と言われた男は困惑した顔で少年を見ていた。きっと何と、誰と話しているんだと思っていることだろう。
「剣を下ろせ」
「いや、しかし……」
「仮とはいえ、今の主の言うことが聞けないのか?」
「ぐ……いえ、はい。分かりました」
青年は眉間に皺を寄せながら剣を鞘に納めていた。
「あの……」
青年が気まずそうに片手をあげて口を開いていた。
「差し出がましく申し訳ございませんが、……そこに、あなた様の待ち人がいるんでしょうか……」
「……そうだ。私が嘘をついているとでも?」
いえ、滅相もございません!……そんなやり取りが目の前で繰り広げられているので、思わず姿をこの青年にも見せようかと考えていたところ、少年から首を振られた。
「あなたはまだなにもしなくてもいい」
この少年はきっとかなり身分が高い。それは……手紙でも分かっていたことだった。だからこそ僕はまだ声を出していない。護衛の青年に姿を見せていいのか分からなかったからだ。
「一度じっくりと話したいのだが」
そう少年が口に出した。
護衛の青年にはぴりとした雰囲気が立ち込めていた。きっと何者かも分からない人物の信用が置けないんだろう。
僕は今日この少年に伝えたいことがあって苦労してこの場所に訪れたんだ。
本題を話すのは今しかない。
「明日、この時間、あなたが手紙を出したポストの近くに」
そう、小さく耳元で伝えた。
人の間合いに近づいたので思わず反応されると思ったけれど、この少年はなかなかの度胸のようでぴくりとも動かなかった。護衛に気づかれると僕が危ないと分かっていたんだろう。
少年は少し頷き、言葉の意味を理解したようだった。




