58.本を返す
僕と相棒は本を返すために五宿場町の砂上図書館へと足を運んだ。
図書館は色々な知識の集合体であり、もっとたくさんの種類の本を読みたい気持ちも、もちろんある。でも、今回の旅の目的地である火の都に行くために、この砂上図書館でしか借りられられないのは行動の制限をするのと等しいため返却だけと決意してきた。
そしてこの本を返せば、ゼノと暫く会うことはないだろう。火の都から先がどのルートになるかも分からないし、またこの地に足を運ぶ保証もない。だけど、ゼノなら近いうちに契約を解除して解き放たれるだろう。そう信じている。だからきっと、まだいつかどこで会えると信じている。
本を返却するために、ゼノを探す。いつもの奥の方、机の上に本や報告書が積み重なっているとこだろうと進んでいく。
「……あれ」
思わず声が出てしまったけれど、そこにはあまり本が積みあがっていない、机の天板が見えた状態で作業をするゼノの姿があった。
「リノ君、スフィさん」
僕が声を出したことによって、僕たちのことを気付いたゼノが書類から目を話して僕たちを見る。そこには憑き物が落ちたみたいに、顔色が良くなったゼノがいた。
「ゼノさん、顔色がいいですね」
「……うん、君が毎日叶え石に願い事をするといいって言ってから、星が見える場所で願い事をしているよ。それで、自分なりに行動も起こしてみた」
どうやらいい方向に進んでいるようだ。
「手伝っていくれる人には僕から、もう少し手伝ってほしいと伝えたところ……もっと早く頼ってほしかったと激励に痛いのをくらったよ」
肩を叩かれたのだろうか、ゼノは左肩をさすりながら嬉しそうにしている。きっと責任感が強かったゼノは誰かに頼ることをほとんどしなかったのだろう。そして、自分が頼ったところで誰も助けてくれないと思い込んでいたはずだ。だから毎日隈を作って、ほぼ一人でこなそうとしていた。でも、そんなゼノを見て助けたいと思っている人がいる。それがどんなに有難い存在なのか……きっとゼノは気付けたんだろう。一人じゃないということを。
「あと、手伝ってくれる人からヴェンディーの様子を聞いて、本が好きそうな子どもたちにも声を掛けてみたよ。リノ君が言った通りの報酬で、彼らは目の色を変えながら手伝いを名乗り出てくれたよ。ありがとう。……僕はね、考えもつかなかったんだ。誰かに頼るって。……ここは、砂上図書館は、僕の大切な思い出の場所でもあったから」
人は大切な場所ほど、守りたいという欲が強くなる。それは帰巣本能からかもしれないし違うかもしれない。きっかけはきっとたくさんあるだろう。
どのように守るかは個人にもよるけれど、ゼノは内に守ってきたんだろう。そして、これからは外も守っていくように努力している。これならゼノは案外早く出られるだろう。きっともう綻びは出ているはず……。
「ゼノさんがここを大切に思っていることはきっとみんな知っていますよ」
「そうかな……そうだね。なんたってずっといるからね」
自虐ともとれそうな言葉でも、その言葉には愛しさが感じられた。彼の本質はどこまでも、本が好きで、恩を返したくて、守りたい、それに尽きるんだろう。
「ゼノさん、本の返却をお願いできますか?」
「あぁ、もちろん」
一冊一冊を丁寧に捲っていき、手元の紙へと書いて、僕ににっこりと笑って伝えてくれる。
「またのお越しをお待ちしております」
「はい。ありがとうございます。また」
星人の旅は大切な出会いだ。誰かの願いを叶える手伝い。それは必要か不必要か、本人にも僕にも時には分からない。でも、そういった感情を含めて大切にしていきたい。




