47.制約
「そこからは、僕はその人に気に入られてね。たくさんの視察に連れまわされたりしたものだよ」
グラスに入ったワインだろうか……一口飲み、喉を潤しながらゼノは自分自身の師の事を話す。
「ある日、僕に魔法の才があることに気づいたその人は一度炎都で僕を教育することにしたんだ。まぁ、僕は嬉しかったよ。そこまで構ってくれる大人なんていなかったからね」
自分自身でも想像しなかった生活が始まったんだ。おかしいだろう。数奇な人生だよねやっぱり。とゼノは独り言ちていた。
孤児が大人に引き取られるということはよくあると思うけれど、その子どもが魔力持ち、は滅多にないことだろう。これは二人ともが運命のめぐり合わせというのかもしれない。
「僕はそこで、魔法の使い方だけじゃなくて、いろいろな常識や作法……つまり生きる術を教えてもらったんだ。ちなみに厨房の刻印、あれは魔法の訓練の時に面白半分でその人が刻印したんだよ。出来立てが食べれたら絶対美味しいってね」
話を聞いているだけでもゼノの師は、楽しいものが好きな善人だろう。
「約二年ほどかな、その人のところで学んだのは。その人はお偉いさんって話したけど……その人の周囲が慌ただしくなってきてね。僕の面倒を見るのも難しくなってきていたから、独り立ちというものを僕はしたんだよ。自分自身でこっそりと。こんなにもお世話になったんだから最後ぐらい迷惑を掛けたくなかったんだ」
今思えば、ちゃんと顔を合わせてお礼を言ってから出てくればよかったよ。心残りだ……と、まるで二度と会えなくなったような言い方だった。僕は、この会話でゼノの願いが何か分かると思っている。この流れはその人に会いたいということだろうか。だからこんなにも僕がはっきりと見えるんだろうか。
「会えないんですか?」
「……会えないと思う。でも生きているのは知っているからいつか会えたら嬉しいよ」
さて、と少し明るめな声にゼノは切り替えていた。
「ちなみにこの図書館の管理者は僕が勝手にやってるんだ」
「……え?!」
「そう」
「勝手に?」
「勝手に」
僕の想像は案外あてにならないのかもしれない。図書館の管理者になってくれみたいな会話があるかと思っていたけれど、勝手に……なれるものなのか、な。管理者って。
「驚いただろう?その人は、砂上図書館のルールをしっかり作っていって、本来なら管理者はいらないんだよ。いなくてもきちんと魔法でうまく回るような仕組みになっている」
ゼノの師は魔法の扱いがとても上手い。話を聞いていても分かる。この砂上図書館の仕組み、乗り物もきっとその人だろう。そして魔法の刻印。ここまでできるのは並大抵ではない。そんな人から教わったとしたらゼノの魔法の才はぐんと伸びたはずだ。
「ただね、僕は恩返しがしたいと思っていたんだ。ずっと。その人にもそうだし、この砂上図書館のおかげで僕はまっとうになれた。そういう想いが重なって……僕は自分自身に知らずに制約をかけていたんだよ」
"制約"それはある種の枷だ。
「砂上図書館の管理者になるっていう制約を」




