45.超絶技巧
ゼノが仮眠室兼休憩室といった通り、部屋には手前にテーブルとソファ、そして仕切りがあり奥にベッドが置いてあった。
「ご飯を準備するから、……少し待ってね」
さらさらと紙に文字を書きながら、ゼノは僕をソファに座って待つように促す。ゼノは小さな声で何かつぶやいていると思うと先ほど文字を書いていた紙が空中へと舞い上がり消えていった。
「……魔法?」
「まぁ……転移魔法の応用かな?あの紙だけ決められた場所へと送られるように組み込んである」
自身を使わない転移魔法はとても高度だと聞いたことがある。場所への指定はあるようだが、それができる人間はほとんどいないだろう。
「リノ君には、これから起こることの方がビックリすると思うよ」
これ以上に驚くことがあるのだろうか……今日の一番の驚きはやはり机ごと転移だと思う。しかしゼノは楽しそうにソファに腰を下ろし、確信を持って言うからには流石に何が起こるのか気になってわくわくしてしまった。
「……出来たみたいだ」
流石仕事が早いと言いながら、ゼノはテーブルの上にテーブルクロスをさっと敷いた。
暫くすると、本当の本当に驚くことが起きた。これを驚かなくて何を驚くのか、というぐらいの衝撃の出来事だ。
「りょ、料理が……目の前に………」
そう、テーブルクロスの上に見たことがない料理が複数並んでいたのだった。それも、突然。しかも出来立てで。
「驚いた?」
「お、驚くの度を越してます…………これ、仕組みとか聞いていいんですか?」
「……そうだね、食べながらはお行儀がよくないけれど、料理が冷めるのはもっとよくない。今日は君に食べてほしくて呼んだわけだし、リノ君は料理よりもそちらが気になって料理どころじゃなさそうにも見える…………うん。どうぞ召し上がれ。その間に質問も受け付けるよ」
ゼノからも許可をいただいたため、リノは質問をする……前に料理に手を付ける。招かれている状態で食事に手を付けないことはあまりのも常識知らずでご法度だ。
「あつあつ……そしてとても美味しい」
「そうだろう」
じっくりと野菜で煮込んだスープを出来立てのパンと一緒に味わう。パンには香辛料が練りこんであるようでピリとひりつく辛みがスープと共に食べることによって緩和され、逆にスープの旨味とほどよく合わさっていた。
「先ほどのリノ君の質問だけど、その皿の底を見てごらん」
「……皿?」
リノはパンが乗っているお皿を手で持ち上げて、言われるままに底を見てみる。底には小さな紙が張り付いていた。
「紙がありました」
「その紙は……さっき僕が書いていた紙の一部だよ」
皿の底にあった紙は小さく千切り取られており、もはや修復は不可能だった。紙をよく見てみると、小さく料理名であろう単語が綴ってあった。
「紙で何の料理を作るか指示を出し、指示が書かれた紙は千切っておく。料理が出来上がったら千切り分けた紙の上へとお皿ごと置き、少量の魔力を流す、そうすることによって僕に料理が完成したことが伝わり、先ほど流した魔力の紙をこちらへ戻すときに少し威力を上げればそのまま料理事運んでくれるって感じだね」
ゼノは簡単に言っているが、到底人間技ではない。細かな調整と並外れた集中力がなければ自分自身を転移、ではなく対象の転移ができるわけがなかった。
そしてこの細かな転移、今日だけではなく日常的に使っていることは会話からして明らかだ。
「ゼノさんは、……こんなに美味しい出来立て料理をこうやって食べてるんですか?」
「……うん……美味しいよね。これは僕しかやっていないし、僕だけに許されているんだよ」
この図書館の管理者だからね、そういってゼノは寂しそうに微笑んでいた。




