44.終わりなき本の世界
高速移動は相棒も思い存分楽しんだようで、自分自身で飛べるのにその飛べる感覚と全然違ったらしい。いわく、私もこんなに速く飛んでみたくなったとのことである。練習するのはいいけれど怪我だけはしないでほしい……。
一つの宿場町に着いたら一泊は必ずすると決めていたので、早朝出発の高速移動でお昼になる前に一つ飛ばして四宿場町に着いてしまった。嬉しい誤算だったため、今日は思い存分読書をすることにする。もともと、運動が得意なわけではなかったから、どれだけ本を読んでも苦ではない。それに大事な相棒の名前を決めるためにたくさんの言葉や意味、響きを考えなければならない。
名は体を現すと言うが、もともと相棒は名前がない時から彼女の気質は出来上がっていた。なので、その気質にそぐわないものは候補から外し、彼女に相応しい言葉をたくさんの書物から抜き取り組み立てていた。
安直かもしれないけれど、星の妖精としての、”星”、”妖精”、そして僕の道標としての"導"、"相棒"そしてたくさんの僕からの感謝を込めて、呼ぶときに自分の名前って分かって喜んでもらえるような……そんな理想を想って今日も言語の思考へと探検に出るのであった。
「……く……、……ノくん、……リノ君!」
思いの外大きな声で名前を呼ばれて、はっと顔を上げる。見ればゼノが心配そうな顔で僕を見つめていた。
「え……ゼノさん?どうかしましたか?なにか困りごとでも?」
「いやいやいや、リノ君、キミ……昼前からここにいるでしょ。今もう夜だよ」
しかも夜中……そう付け加えられた。
言われたことが理解できるまで数秒がかかり、思わず呆けてしまった。
「よなか……」
「そう、一応この図書館はずっと開放されているけど、さすがに身体に影響を及ぼしそうであれば僕は声を掛けるよ」
「それは……ご迷惑を……」
「はー……分かってないねぇ。迷惑というよりかは心配なんだよ。きっとお昼も夜もご飯を抜いているだろう?人間は何かを食べなければ生きていけないんだよ」
「あ……」
そういえば……と急に言われた言葉に身体が反応して、ぐぅとお腹が鳴り身体は正直だった。星人は種族的に言えば人間に限りなく近い。動くための機能維持に食事は必須項目だ。
「お腹が減っているのかもしれません」
「そうだよ……キミって意外と抜けているんだね」
「?」
脳内はまだ言語の世界から帰ってきていない。それをゼノは気付いたのかこっちにおいで……と僕を誘導した。
その誘導した場所は、いつもゼノが仕事をしている砂上図書館の奥の机……の更に奥にひっそりとある小部屋だった。
「僕の仮眠室兼休憩室だよ。本当は外がいいんだけど、僕は出れないからここで我慢して」
「出れない……」
「あーー、うん、口が滑った。そうそう僕この図書館から出られないから……本当は君を連れてちゃんと外で食べるように促したかったんだけど、リノ君最近まともに食べてる?見るからに食べてなさそうだよ」
「いやそれはゼノさんの方が」
「いーや、リノ君の方が」
押し問答の繰り返しだった。僕から見ればゼノの方がよっぽど体調が悪そうで、ご飯も食べてなさそう、水分も取っていなさそう、押したら倒れそうな見た目だった。
「あのねぇ、僕はこう見えてすごく美食家なんだよ。食事はすごくいいものを食べているよきっと。ただ仕事に追われて少し疎かにしがちだけど」
最後の仕事に追われて……のところは少し小声で早口だったが、思ったよりかはきちんと食べているということだろう。それならよかった。
「キミには先日美味しい不思議な水を貰ったからね。本来はこんなところにお客様を連れてくることなんてしないけど、特別だよ。ついでにご飯もご馳走してあげる」
「いやいや、帰ります。すみません」
「僕が食べるのに付き合わないの?僕が食べなくてもいいの?」
いやいや何を言っているんだこの人は……。でも先ほどは仕事に追われて食べていないと言っていたし顔色もいつも悪いし、僕が一緒に食べたらちょっとはよくなるのかそしてあわよくばここから出られない理由や願いが聞ける?大混乱な末、一緒に食べます……と僕は心の中で降伏していた。




