42.読書時間
転移ってこう……すごく難しいんじゃなかったかな……。最近出会ったフォーリス、あれは自発的ではないにしろ転移になってしまったり……という、すごく転移が頻繁に話題に上がるためなんだか身近に感じてしまう。でも、実際には転移ができる人はそれなりの魔法の才能が必要になる。理論的にできるかもしれない、という人は多いけれど、自分自身の力で転移する、は難しい。膨大な魔力量が必要になるからである。
つまり、目の前のゼノは転移ができるほど優秀で、机ごと移動できる魔力量を持っている規格外の人物ということだった。
「ゼノさんって、すごい人なんですね」
「……暫く考え込んで出てきたのがそれ?面白いねリノ君は」
この五箇所の砂上図書館を管理していると言われた時はなんて無茶な……と思ったけれど、今思うとゼノにしかできないことなのかもしれない。
その目の下の隈もこういった忙しさからなのかもしれない。
「すごい人、かぁ……僕よりすごい人を知ってるからね。あまり自分はすごいと思わないかな。まぁ任された仕事はきちんとやらないととは思ってるよ」
疲れた顔はしていても、責任感のある言葉だった。
「あと、リノ君は図書館で本を借りるぐらいだから急いでる旅じゃないんじゃない?それなら、ここの宿場町に来る間も旅をのんびりと楽しんでほしいな。周りの景色を見たり、ね。意外と花が咲いていたり、砂漠特有の動物がいたりするよ」
そう言われてみれば、確かに今回は暑さと本を読もうという目的ばかりが先行し周りを気にしていなかったと気づく。砂漠地帯に来ることも珍しいので、今後はもう少し意識を外に向けよう。
「そう……ですね、本を読もうとして早めに行動していた自覚はあります。今度からはもっと環境も含めて楽しみますね」
「うん……こまごまとしたことでごめんね。やりたいことをやれる時間は大切だし、それをしてもいい環境ならするべきかなって」
まるで自分は、やりたいことができない……そんな言葉にも聞こえた。ゼノは自分の発言にはっとして、本来言うつもりがなかったのか先ほどの発言を消すかのように終わりの言葉でしめくくった。
「あ、本を読みにここに来たんだよね。よかったらゆっくり楽しんで。あと返却の時は呼んでくれればいいし、次の宿場町でもいいから」
そう言って、じゃあ僕は仕事があるからと机の書類の海へと思考を旅立たせていた。
ゼノの考え方はすごく思いやりにあふれていたけれど、時々……縛られているようにも感じられた。次の宿場町でも、この五箇所内であれば会えるというゼノの言葉は素直にすごいとしか思えないし、果たしてそれは一人に任せていいものなのかとも思う。ゼノは責任感はあるけれど、他にもなにかやりたいことがある、そう思えて仕方がなかった。
そう思いつつも、勧められた本を読む場所まで辿り着き、相棒と横に並びながら自分たちが借りた本を目の前に並べる。相棒が借りた二冊はまず相棒が。僕が借りた三冊は僕が。僕が借りた本も相棒が読んでみたいと思えば交換する、そういった感じだ。
暫くお互いが本をめくる音だけが聞こえる、静かな空間に時間だけがゆるやかに過ぎていった。




