4.ミレイユの願い
「僕の能力では、君に選択をしてもらう」
星人は願いを繋ぐことができるけれど、その願いをどれほど伝えられるかは星人の能力次第だ。
僕の力は、選択をしてもらうこと。その願いを叶うに値する選択を自分自身でできるのかどうかなんだ。
願いが強ければ強いほど、代償……ということになるのかもしれない。
ミレイユの願いの強さ分の選択を彼女自身に選択してもらう必要がある。
「選択……私はワイスを助けてもらえるならどんな選択でも受け入れます」
そう、彼女の願いは弟のワイスを助けること。手紙には未知の病に罹り薬師にも治せない不治の病という。
両親もすでに他界しているミレイユは、弟の代わりに漁に出ているということだ。
「選択というのは僕が考えるものじゃなく君自身が考えることだよ」
選択はミレイユ自身が考えるもの。願いの重さは人によって異なるので星人は口を挟まない。
「ミレイユは願い事をするときにどういう気持ちになる?お願いするだけ?その大切な願いは口だけではないはずだよ」
そんな傲慢な人はまずこのポストに手紙を出そうなんて思わない。
「その願いを叶えようと行動しているはず。だからこそ、弟の代わりに漁師をしているんだろう」
「……はい。女の私がいつもしている手仕事じゃあどうしようもできません。生活ができない。足手まといでも必死に男たちの漁に混ぜてもらっています。ワイスがいる場所も薬もご飯もお金がないと維持できません」
薬は気休めですが……そう呟くミレイユの苦労は想像を絶するだろう。
「ねぇ、ミレイユ。星は君の頑張りをすべて見ているよ。夜にしか分かりにくいけど、日中の太陽のもとでも目立たずにずっと見守っている」
良いことも悪いことも、すべてが見守られているこの世界だ。
「ワイスの病はね、僕がミレイユの願いを星に繋げることによって少しはよくなると思う」
「少し……」
ぬか喜びさせてしまうのもよくないので正直に伝える。
「よし、日も暮れてきたし準備しよう」
僕は持っていた星人専用の棒を取り出し村の外へ進む。命に関わる願い事なので場所は広い方がいい。
海が近いため海岸沿いのやわらかい砂浜に出る。
「ミレイユはそこに立ってくれる?」
「は、はい」
星に願いを伝える為の模様を砂浜に書いていく。
ミレイユの立っている場所を円で囲み、その中に星の神に対する文言を刻んでいく。
願い事によって異なるけれど、今回は"快癒"の刻印を基準にそれに力を与えるような組み合わせと、これからの生活の安心と彼女たちを支える村人への敬意なども入れていく。
最後に自分の立ち位置の場所に円形と、自分用の文様を刻みこみミレイユの願いを星人のリノが届けると刻む。
「よし」
砂浜に書くことはないので柔らかくて難しかったけれど完成だ。
「ミレイユは手を出して」
ミレイユの手をそっと包み込む。もちろん自分とミレイユの円形からはみ出さないようにすることを忘れない。
「目を閉じて。叶えたい願いを強く描いて。そして、それに向かって君が行うべき選択を思い浮かべて。自分が犠牲になるんじゃなくて、みんなが幸せになるような、理想でも構わない。強く、強くその気持ちを手に凝縮するようにして」
片手だったミレイユは両手でぎゅっと握りしめて祈っている。
選択と言っても彼女の行動が既に選択した結果なので、僕はそれほど不安に思っていない。
星は見ているから。
僕も目を閉じて彼女の手に集中する。感じられるのは、手の温かさと波の音、そして潮の香り。
「さぁ相棒、お待たせ」