37.図書館の管理者
ここで別れても何も問題はないけれど、こうしてはっきりと僕の存在が分かる彼をそのままにもしづらい。少しだけ会話できないかと模索してみる。
「あの……」
「なにか?」
「えっと、昨日も思ったんですがだいぶお疲れのようで、……失礼かもしれませんが、あの……休めていますか?」
「…………」
昨日から思っていた顔色の悪さ、眼鏡の下の酷い隈をつい聞いてしまった。これは願い事など関係なしに、一般的に体調面がよろしくないと思うことを指摘してしまった日常会話だ……。無言が怖くてやっぱり聞かないほうがよかったかもしれないとさえ思えてくる。でも、机の上の本の山は増えている気がするし、端から見てもぎりぎり生きているような雰囲気を醸し出しすぎている。
「……はぁ、昨日初めて会った人に言われるなんてそんなに酷いかな」
「あ、……う、はい。倒れないか心配になります」
「そんなにか」
ふわっと笑ってくれたので、怒っていたわけではなさそうだ。
「僕は砂上図書館の司書なんだけどね、うーん分かりやすく言うと……五箇所の宿場町、全ての図書館の管理を任されているんだ」
「全て…………ですか」
「そう」
それは激務だろう。そして、現実的に可能なんだろうか。物理的に距離が離れすぎているので、一箇所から三箇所までは行けるかもしれないが、五箇所全てはどう考えても難しい。
「それは大変そうですが、五箇所全てを何日かに分けて管理されてるんですか?」
「いや、毎日報告者が上がってくるからね。なかなか骨が折れるんだよ。いい利用者ばかりではないし、本の管理もあるからね」
この砂上図書館から中心に紋様など様々な事象が結びついているので、何かしらの仕組みができているのかもしれない。
「心配してくれてありがとう。……そうだね、君の疑問は次の宿場町で分かるかもしれないよ」
「……次もお会いできるんですか?」
「そうだね、君の借りた図書は僕が手続きしたからね」
「……なるほど?」
どうやらこの司書の青年には次の宿場町でも会えるようだ。それにしても僕の図書を手続きしたというところが妙に気になる。
「もちろん他にも司書はいるから体調面は心配しないで。休める時に休むから。それと、これは自業自得な面もあるから。……それもまた、ね」
なんとなくはぐらかされた気もするけれど、ここで問答したところで青年は話すことはないだろう。そんな顔だった。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
借りる予定の本を丁寧に揃えて渡してくれた青年は不思議な雰囲気を纏っていた。また会えると聞いて、今はまだこの青年の願いが分からないけれど次に会った時は何か知れるかもしれない。そんな次が、あるのかもしれない。
「あの、お名前、聞いてもいいですか?」
「……僕の?」
「……はい」
「うーん、あまり個人情報は教えないようにしているんだけど、……君とは名前が似てるしこれも運命かな。……僕はゼノ。次の宿場町で会えると思うからよろしくね」
「改めて、リノです。よろしくお願いします」
そんな名前の似ている二人の出会いだった。




