26.暴発事故
「どうして里ではなくここにいるか、ですが……拐われたとかそういう類いの事件性があるものではありません。現に飢え死にしそうにはなっていましたが。はは……」
事件性があったとしたら、ここで一人なのはおかしいとは思っていた。ただ、拐われてどこかから逃げてきたという線もあった為、その話だけでも安心できた。フォーリスは少し俯きながら話を続ける。
「その、お恥ずかしい話なんですが、エルフの中でも私は、弓が、……苦手でして……」
エルフと言ったら、その長い耳と自然に囲まれた生活で上がった視力を生かして弓の名手が多いと有名だ。そういった一族で弓が苦手は生きづらいのかもしれない。
「私は、なかでも精霊魔法が得意で……」
「それはすごいですね」
「いえ、特に妖精や精霊に好かれているというだけなんですけれど」
「それでも十分な力ですよ」
精霊魔法は精霊に好かれないとまず発現しない。自然の中で生活しているからといって、誰しもが使えるわけではない魔法だ。妖精と精霊に好かれるということはここのノームにも当てはまることだろう。ノームたちはフォーリスに寄り添って座っていたり世話をやこうとしているのが見て取れるぐらいには好かれている。
「あ、ありがとうございます」
恐縮しながらも顔を赤らめていたフォーリスだが、次の発言を前に顔を青くしていた。
「その、精霊魔法をですね、練習していたら……暴発してしまいまして」
「「暴発」」
僕とアルドの反芻が被ってしまった。精霊魔法の暴発ってよっぽどのことがない限り、とても稀なはずだ。精霊魔法は精霊が力を貸してくれて発現する為、基本的には精霊の機嫌を損ねて威力が弱まってしまうか一時的に使えなくなったりするが、ここにきて暴発……つまり、たくさんの精霊もしくは力のある精霊がフォーリスに力を送りすぎたということだ。本当に特異体質のエルフなのかもしれない。
「そう、なんです……それで、突然砂漠地帯に転移してしまって」
「もしかして空間系の精霊魔法を使おうとしていましたか?」
「う……はい」
「なるほど」
意図して転移しておらず、こうして転移してしまったということは、空間を切り抜いたり圧縮したりする空間魔法の暴発の際に起こりうることだった。でも里から転移できるぐらいの精霊魔法を自分の中に保持できるほどの力がフォーリスにはあるということなので、潜在能力は並みのエルフよりも高いはずだ。
「私は巨大樹の里から出たことがなかったので、この環境に戸惑いまして」
巨大樹のある場所は昨夜アルドからは緑豊かで気温も過ごしやすく安定している快適な空間と聞いている。それが突然の温暖地域……はものすごく驚くだろう。
「砂漠を少しさ迷いましたが、この土地の微精霊が安全な場所へと導いてくれて、……ここに辿り着き、そしてノーム達に出会いました。親切にしてくれていることは分かるのですが、言葉が通じず……元々持っていた携帯食料も底をつき、ここの水で食いつないでいました。……行動しないといけないとは分かっていたのですが、エルフ以外を見たことがなく……怖くて」
それで倒れて今に至ります……。フォーリスが静かに今までの経緯を語ってくれた。
大変な目にあったのは精霊の過剰な愛情……ということだけじゃ収まらない。その愛情でフォーリスはここで命を落とすかもしれなかった。精霊の愛が今回フォーリスを苦しめたことは間違いない。自分の住まいから知らないところに飛ばされたなんてどれほど心細かっただろうか。こうしてフォーリスを見つけられたのも、アルドが里の願いを聞き届けたからこそだろう。




