2.星人のポスト
「星人さまですか!?」
「は、はい…」
勘違いかなって食べていて申し訳ない…。すごく間抜けな恰好で返事をしてしまった。
「えっと、僕のこと……しっかり見えてます?」
「もちろんです」
自信満々に答えられてしまえばもう確定である。
僕はふぅと息を吐きだしこれからの予定を考える。その前にこの食べ途中の串焼きをどうにかしなければ。
「少しだけ待ってもらえますか?食べきってしまうので」
「あ、私こそごめんなさい。お食事中に……」
「いえいえ」
相棒に少しだけ分けながら素早く串焼きを食べる。もう少し味わいたかったけれど、僕の役目もあるのでそう言えない。口だけはもぐもぐと動かす。チラリと少女を観察すると所在なさげに立っている。食事中と配慮してくれているのか目があちらこちらさまよっている。
綺麗さっぱり食べ終えゴミを捨て、口と手を簡易的に清めてきちんと身なりを整える。
「では、改めまして。僕はリノ。星人です」
「は、初めましてっ!私はこの村の漁師でミレイユと言います」
漁師、ミレイユ、とひとつづつ記憶する。ミレイユは本物に会えた……と小さい声で言っているのが聞こえる。喜んでいるようにも感じるけれど、僕がハッキリ見えるということはミレイユに何かあるということだ。
「ごめんね、ミレイユ。僕はまだそのポストを見れていないんだ」
流木のベンチの隣に誂えてある小さなポストに目を向ける。
「いえ、いいんです。むしろこのポストが本当に動いていることを知れて安心しました」
そのポストとは心の内を書くポストである。不安であったり嬉しいことであったり、基本的には感情を表に出せない人向けのものだ。この世界の村や街、都市に必ず一つはあるものであり、管理は星人だ。
星人は基本的に各地を放浪しているため、その場所にたどり着いたものがポストを開けるというものなので、今までで一度も開けられていないポストももしかしたらあるかもしれない。
「それに、……このポストに入れようとして星人さまに会えました」
手紙をギュッと胸に抱えてミレイユは僕に差し出した。
「君の口からでもいいんだよ」
「……手紙のほうがまとまっていると思います。言葉にしようと思うと上手く言えなくて……」
ごめんなさい……ポツリとこぼしたミレイユから僕は手紙を受け取った。震える手が痛ましくて、少しだけ手を握った。僕の熱がミレイユの心を少しでも労われますように。
手はほんの少し握っただけですぐ離し、そっと手紙を開いた。
手紙は素朴な紙で1枚だけだったけれど、そこには文字を書いたことがあまりないであろう難解な文章が広がっていた。ひとつひとつ解読した結果、内容は複数予測したものの一つであり、彼女の想いも書き記してあり心が痛んだ。
とても、とても優しい心の持ち主であることがありありと伝わる。そんな手紙だ。
「……頑張ったんだね、ミレイユ」
「……はい。……でも、もう限界なんです……星人さま……リノさま。あなたさまは私の、私の弟を助けてくださいますか……?」
ミレイユの目から大粒の涙が一筋、流れ落ちた。