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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

こっちゃんと記憶の景色

作者: 成海千晴
掲載日:2026/01/01

※自殺描写とGL描写と性的なシーンがあります。苦手なかたはご注意ください。

 しね。しね。しね。自分なんかしねばいいのに。

 ・・・突然、思った。


 今日の一限目、担任の謎の哲学を聞いてた時、急に体の中から湧き上がってきた。高校生にもなって、こんな衝動的に行動したくなることなんてあると思わなかった。最初は無視しようと思った。でも、時間が経つにつれて脳に張り付いて、私はこれに従わないといけない気がした。いつもみたいに。

 死に場所を求めた結果、夜遅くまで学校の誰もこない倉庫に隠れて、ほとんど人がいなくなってから屋上へ行ける扉の鍵をぶっ壊して、こうして室外機とお友達みたいに屋上に佇んでいる。

 屋上では涼しい風が吹いていた。室外機の隣に放置された横長のプランターが校庭の外灯に照らされて目立っている。つるが巻き付いて、葉や茎に紛れて小さい花が咲いていた。

 今日は風がなくて困った日だった。もう10月なのに、太陽のせいで汗をかいた。そのせいで少し、教室が思春期女子の汗で蒸れていたような気がする。

 少し短めのスカートがセーラー服のリボンと一緒に揺れる。少し長い、おろしてある黒髪が少し遅れて靡く。夕日があれば、屋上に佇む美しい女の子になったのかもしれない。屋上、夕日って漫画でよくあるよね。漫画なんて、只の嘘なのに。現実から目をそらすための道具か、こんな日常になればいいなという願望でしかないのに。本当にどうでもいい。どうして、あんなものを欲していた時期があったのだろう。

 コンクリートの床を感じたくて、裸足になった。冷たい。履いていた靴下の跡が、鮮明に残っている。触ってみるとすべすべからのデコボコで点字ブロックを触っているみたいだった。ふと、屋上の端っこまで行ってみると、思っていたより低いフェンスに髪の毛が引っ張られた。引っ張られた方に手を伸ばして髪の毛をほどいた。が、ただ頭皮から髪の毛が離れていっただけだった。毛は風に流され、私の目に引っかかって、どこかへ消えていった。


「ねぇ、なにしてるの?」


 透き通った声で、そう呼びかけられた。前を見ると、星空に照らされて浮いている少女がいた。空を覆っていた分厚い雲は、彼女から離れており、美しい月を顕現させていた。本来あり得ない光景なのに、私の脳はすんなりと受け入れた。彼女もこの女学校のセーラー服を着ていて、金髪に近い茶髪の長髪を靡かせていた。この世に存在しているものではなさそうだった。

 私はその少女に引っ張られるようにフェンスの向こう側に行った。


「キミは、同じ?」


 返事もせず、目を閉じる。さらさら返事をする気もなかった。

 恐怖なんてものはなかった。私は本能に従っているだけ。私の中に眠る、私のすべきことを全部決めてくれる、そんなものに。生活だって、勉強だって、わたしじゃなくてそれが勝手にしてくれる。私はただの、肉体についてきた付属品。中継地点。命令に従って、身体を動かす係。私が何かを決める権利なんてないし、そもそも決めようとも思わない。それに、意味なんてないから。


『しね』


 まだ頭の中で響いている。わかったわかった。ごめんね、遅くなって。半日も待たせちゃった。今、前に飛ぶから。


「待って。ちょっと、ねぇ。」


 少し感情の揺れた、透き通った声が脳に響く。

 なんだ、まだいたの。ばいばい。私はもういなくなるから。私を気にせず、ね。


 一瞬の浮遊感と不快感。風と重力を感じる。思ってたより心地良くはなかった。16年の人生、さようなら。


「お願い、キミはあの子の・・・」


 ぼぅっとする意識は、その言葉をうまく聞き取ることができなかった。


「ねぇ、校長せんせ?まだ、帰っちゃだめだよ。」


ー・ー・・・・-・-・・--・---・・-・・・-・


 元気な声が聞こえた。


「おっはよー!!」


 目を開けてみた。


「今日もいい天気だね!!さあ、迎えに来たよ!!」


 ・・・は?


 明るい、私の部屋。カーテンが全開で、目の前には私の身体に覆いかぶさって乗っかっている幼女。こっちをみてニコニコしている。

 き、み、がなんで、ここに。


「な、なっちゃん?」

「ん?おはようこっちゃん!!!!! 今日は土曜日で、一年に一度の夏至だよ!一番昼が長い日なのに、家に引きこもってちゃもったいないでしょ!遊ぼ!」


 なんで?私はさっき飛び降りたよね?なのになんで・・・これが走馬灯なのか。今日は夏至、か。

 なっちゃんを見る限り、今は小学校2年生。小学校のとき、大親友だった、なっちゃん。相も変わらず、可愛いな。幼女として満点。私のせいでぐちゃぐちゃになった女の子。私が愛する女の子。


「おはよう。今日も相変わらず元気だね。」


 私が挨拶をすると、満面の笑みでなっちゃんは返事する。その言葉を、私は棒読みでハモらせる。


「そりゃぁー、あたし中心に世界は回ってるんだからねっ!」

「そりゃー、あたし中心に世界は回ってるんだからねー」


 「あたしが元気じゃなきゃ世界中が死んじゃうし、何よりあたしは常に元気!」なんて独り言を言っている。なっちゃんが私の身体から離れ、ベッドから降りる。よっ、と言って、体操選手が技終わりに見せるポーズのように手を横に広げ、両足をそろえ、ピンっと立っている。身体を起こせと言われた気がするので起こす。横目で彼女の薄手のワンピースを見て、思わず顔がにやけた。・・・えっちだなあ。まだ幼女体系で、ちょっとむちむちしている。胸もおしりも別に成長してないけど、私からすれば、そこがなにより良かった。


「どうしたの?早く着替えて!今日は公園でいっぱいブランコして遊ぶの!!」


 ポーズしたまま、純粋な栗色の瞳をこちらに向けて、肩ほどまでしかない、瞳と同色の髪の毛をハーフツインにして、可愛いビーズのついた髪飾りをきらきら輝かせている。あと1,2年で見れなくなったなっちゃんの姿。写真を撮っておきたいが、そんなことはできないので脳内に焼き付けておこうと思う。


「わかったよ、ちょっとまって。」


 私は、なんの変哲もないTシャツとハーフパンツに着替える。スカートやワンピース、特にフリフリしているものは、かゆくて、動きずらいのであまり好きじゃない。

 私が着替えている間、なっちゃんはじっとこっちを見つめてくる。やめて、恥ずかしいじゃん。


「なっちゃん、あんまりこっち見ないで。」

「なんでー?別に恥ずかしい事じゃないんだからいいじゃん!!」


 そうじゃなくて、君だから。・・・恥ずかしい、よ。


「おーい、夏光(なつみ)ちゃーん。おばさんが日焼け止め塗ってあげるからおいでー。」

「あっ、はーい!」


 こっちを見つめていた純粋な瞳は、私のお母さんに呼ばれて、リビングへの階段を駆け降りていった。こちらを気にせずに行ってくれて助かった。足音に、お母さんとなっちゃん、なっちゃんのお母さんの楽しそうな話し声、笑い声が聞こえる。なんだか家の中に響き渡っているような感覚になる。きっと、頭の中に響いているだけなのに。


「早く着替えないと。」


 口をついたその言葉に従って、早く着替えよう。そして、なっちゃんたちがいるリビングの輪に混じろう。君が日焼け止めを塗られているのを想像しながら着替え始めた。




 まだ6月なのか、もう6月なのか。アスファルトから照り返す太陽の光は強かった。光は私の全身を突き刺してきて、太陽を見た訳ではないのに目が痛くなった。私と手をつないでいるなっちゃんは、そんな光をとりこんで自分のものにしていた。なっちゃんは大股で楽しそうに歌いながら歩いていた。


「今日もー♪お日様はー♪元気だなぁー♪それはー♪きーっとー♪私のおかげー♪」


 ノリノリで歌っているなっちゃんは可愛かった。私の腕も巻き込んで全身で歌っているのを見て、私もこんな風に生きれたら、なっちゃんにふさわしい人間になれたのかなと思った。でも、そのことよりも強く、なっちゃんはえっちだなと思ってしまった。あっ。人の前では、自制しなきゃ。


「あら、こっちゃんおはよう。元気?会うのは一週間ぶりねぇ。」


 公園についてから、なっちゃんのお母さんが話しかけてきた。ブランコの順番待ちだ。なっちゃんはにっこにこでブランコに乗って、私のお母さんに背中を押してもらっている。なっちゃんのお母さんは、ずっと苦手。なんだか、物腰は柔らかいのに、怖い。笑っているはずなのに、睨まれている気がする。だから、私も同じように対応する。感じたものをそのままお返しするように、身体が動いてしまうから。これは、私が悪いわけじゃない。


「おはようございます。私はいつも通り元気ですよ。なっちゃんの元気を分けてもらえて、幸せです。なっちゃんのお母さんは、元気でしたか?」


 昔、お母さんと誰かが、なっちゃんのお母さんと話す私を「メールの定型文みたい」と言われているのを聞いたことがある。


「ふふ、元気よ。私も、なつに元気をもらってるの。私たち、おそろいねー。あら、こっちゃん、背、伸びたんじゃない?成長が早くてうらやましいわ。」


 なっちゃんのお母さんは、なっちゃんのことをなつと呼ぶ。

 私を見ずに、なっちゃんのお母さんはお上品に微笑んでいる。何処を見ているのか、私にはわからない。


「うちのなつは、あんまり背が伸びてないからね。そのことを気にしてかはわからないけど、いつもいつも朝と晩に牛乳をもらいに来るのよ。かわいいでしょ?」

「かわいいです。なんだか、なっちゃんらしいですね。」


 なっちゃんは単純に牛乳が好きでいっぱい飲んでるって言ってたんだけど、見栄はってただけなのかな。まあ、背が低くて、成長しないまんまでいてくれた方が、私は嬉しいんだけど。

 っと、顔に出そうになった。話題を変えよう。


「あの、なっちゃんの一番上のお姉さんって・・・」

「あら、ブランコ空いたわ。行きましょ?こっちゃん。」

「は、はい。」


 はぐらかされた。なっちゃんと同じ栗色の瞳から、恐ろしい圧を感じた。一番上のお姉さんの話題は禁句なのかな。ただ気になっただけなのに。

 なっちゃんには、お姉さんが二人いて、私たちが小2の時に高校3年生と大学1年生だ。一番上のお姉さんは私たちが4、5歳ぐらいの時から海外にいるらしくて、私は会ったことがない。

 楽しそうにこぐなっちゃんを見ながら、ブランコに座る。背が伸びたせいで、だんだんブランコの椅子が低くなって、座りずらくなってきた。私が座ると、ブランコが高い音を立てて、耳に刺激を与えた。この音だけは、何回聞いても慣れない。ブランコだけじゃなくて、教室でもこの音を聞くから、たまに教室でも体調が悪くなる。

 昔は助けてくれた子がいたけど、今は居ない。


「こっちゃん、押してほしい?それとも自分でこぐ?」


 白々しく聞いてくる。私、いつも一人でこいでるのに。ブランコは、自分でこいで、ゆっくりゆっくり、なっちゃんのペースに合わせてこいでいくのが楽しいんだよ。なっちゃんが自分の世界で楽しんでいるのを眺めて、スカートがひらひらしてパンツ見えそうだな、って思ったり、ワンピースの肩の紐がずれてきてて、胸のでっぱりが見えちゃいそうだなーなんて、思って目が離せなくなって、だんだんなっちゃんの横にくっついていくの。


「自分でこぎます。」

「そう、押してほしくなったら、いつでも言ってね。」


 一応、話してるときは人の顔を見ないといけない気がして見ている。が、やはりこの人の笑顔は怖い。なっちゃんとは大違い。


 最初は前を向いてこぐ。そうしないと、斜めにこいじゃって、綺麗になっちゃんと揃わない。ゆっくりゆっくり、足をのばす、曲げる、また伸ばして、曲げる。単純に繰り返しながら、だんだんなっちゃんの方をみて揃えていく。

 ブランコは、このころのなっちゃんが一番好きな遊び。私も、なっちゃんを見ながらこぐブランコは、楽しい。大人たちがいなかったら、もっと楽しいと思う。・・・この日が最後だった。なっちゃんと一緒にブランコしたのは。

 遠心力で、しっかりブランコに捕まらないと落ちそうになってくる。これぐらいになってくると、少し汗が出てくる。私が汗をかきだしたぐらいには、なっちゃんは少し汗でワンピースが濡れている。少し、肌が透けて見えてくる。それを見ていると、なんとも言えない気持ちになってくる。人が見ている手前、顔には出さない。16歳の私は、出ないように練習したから。でも、心の中からふつふつと湧き上がってくる。私の内側にある、邪な欲望とその他ごちゃまぜの感情。えっちだな、でとどめておかないといけない。これ以上は、私が私じゃなくなるような気がする。心の底に沈めないと。


「こっちゃーん!どっちが高くから飛び降りれるかー!勝負しよー!!」

「いいよー」


 いつものお決まりのパターン。勝負をしたら、きっと私の家か、なっちゃんの家でお昼ご飯だ。今日はどっちのお母さんの料理を食べる日だろうか。なっちゃん家だったら、なっちゃんのお父さんもあり得るか。お決まりの勝負。私は、なっちゃんに勝ってほしいから、わからないように手を抜く。そもそも、高いの苦手だし。なっちゃんは、凄いな。この高さも吸収して君は輝く。


「こらこら、あんまり高いところから飛んで怪我しないでよ?」


 私のお母さんが言う。これも、いつものこと。隣にはなっちゃんのお母さんがいて、2人でニコニコ話している。たまに、2人が話している間に、なっちゃんのお母さんから私に向かって何かの気配を感じるときがある。本当に、なっちゃんのお母さんは怖い。


「よいしょっ。」


 なっちゃんが飛び降りた。綺麗な着地だった。なんだか、なっちゃんだけがスポットライトに照らされているように光っているような気がする。飛び降りるときは、毎回パンツが見えるので、よーく見ておかなければならない。飛び降りしているときに見えるパンツは、大体湿っぽい。ただチラ見えしているパンツより、えっちだ。ああ、よくない。よくないってそういうの。でも、よくないと思っても見てしまう。それが、私の本能。脳の言いなりでしかない私の身体。私は止められない、従わないといけない。


「こっちゃんもはーやーく!」

「わかったー、今降りるー」


 せー、のっ。

 この、高いところから降りる浮遊感は、どうも心地悪い。なっちゃんが楽しそうなので、私も慣れたら楽しいのかなと思ったら、そんなこともなくて悲しい。だんだんだんだん、浮遊感が気持ち悪く感じるようになる。

 あっそうだった。あっ、。


「ちょと、こっちゃん!?大丈夫?」


 痛った。着地ミスっちゃった。

 まさか足をついた瞬間にぐねって、しりもちつくと思わなかった。って昔の私も思った。


「いった、い、けど大丈夫。」

「ほんとに?病院行く?」


 なっちゃん、。そんな純粋な目で見つめないで。しゃがまないで、パンツ見える。やめて、俯いてるふりして見ちゃう、お願い、お願いだから、私をこれ以上変態にしないで。


「こっちゃん、見事に転んだねぇ。立てる?立てない?痛いだろうけど、とりあえず、家戻ろうか。」

「お母さん・・・」


 ありがとうお母さん。じわじわと涙が出てきた。泣きながら、お母さんにおんぶされて家に戻った。すこし斜めの太陽に肌を焼かれながら、なっちゃんの方を眺めていた。


「こっちゃん、本当に大丈夫?ごめんね、あたしのせいで・・・」

「ううん、なっちゃんは悪くないよ。心配してくれてありがとう。」


 なっちゃん、優しいな。なっちゃんのせいじゃないから気にしないでほしい。汗ばんだ背中が、えっちながら輝いて見えた。家まではすぐのはずなのに、なんだか眠くて、目を閉じた。



・-・・・・-・・ー・---ーー・



「ねぇ。」


 また、透き通った声。あなた、誰なの?


「別に、名乗る名前なんて・・・」


 あっそ。じゃあ、なんで私にかまうの?なんで、私はなっちゃんとの記憶を見ないといけなかったの?なんで、あっさり死なせてはくれないの?


「自殺、その行為が許せないから。・・・ただ、それだけよ。」


 そう。あなた暇なのね。まあ、どうせまだ続くでしょ?さっさと終わりにしたいから、進めて。


 私は吐き捨てるように彼女と会話を続ける。会話したくないのに、なぜ続けてしまうのだろう。


「キミの意思に従うつもりはないわ。受動的に総てを受け入れていきなさい。」


 あなた、上から目線ね。だからなんだって話だけど。


「なぜ、自殺しようと思ったの?」


 急に何、別にあなたに関係ないでしょ。


「同じ場所から飛び降りたよしみで話してくれたっていいじゃない。」


 なにそれ。そんなよしみいらない。というかあなたも・・・


「ひどい。どうせ最期の会話なんだから、教えて?」


 そう言うなら、あなたが先に教えるべきじゃない?一方的に聞くのは卑怯。


「一方的、か。その通りかもね。キミの意思に従うのは癪だけど・・・少し重い話になるけど気にしないでね。」


 透き通る声は偉そうにそう言うと、昔のこの高校、正門あたりの写真?みたいなのが脳に入り込んできた。登校の時間帯なのか、正門あたりに生徒がたくさんいた。


「10年ぐらい前の高校よ。高校の建物は改装してるから全然違うけど、制服は変わってないわね。」


 だんだん、その画像に吸い込まれるようにして、彼女の過去を見た。



・-・・ ・・----・-・・・・・--・-・・----



 高2の始業式。今日から高校2年生ーなんて、学年が上がった実感はまだわかないけど、きっと、部活に新しい子が増えたら、おのずと実感もわくわよねーなんて、思ってた時。来年は受験か、って、思ってた時。


「やあ後輩くん。」

「わ!?ぶ、部長。おはようっ、ございます。毎度毎度後ろから話しかけてこないでください。」

「はっはっは、元気そうで何より。今週のうちに、新中1を受け入れる準備をしないとなぁ。」

「そうですねー、というか、部長その口調どうしたんですか?」

「え?ああ、すまんすまん。ちょっと威厳がでるかなと。」

「部長はいつも通りかわいらしくしてればいいんですよっ!」


 毎日幸せだった。中学受験で入った、男のいない平和な中高一貫校。自分より賢い子がたくさんいて面白かった。部活の中では学年関係なく仲良くて、助け合えて、本当に楽しかった。


「なんだよ、照れるじゃないか。でも、しばらくはこのままでいこうと思う。それより、今日は大丈夫か?」


 生前は一型糖尿病を患っていた。勘違いされやすい、一型糖尿病。これは生活習慣病じゃないし遺伝性の病気でもない。自己免疫が、誤って膵臓のインスリンっていう血糖濃度を調整してる物質の分泌を促す細胞たちを破壊しちゃう病気。なぜ発症するのかはよくわかってなくて、完治することはほとんどない。血糖値にとにかく気を付けて、インスリン注射を忘れなければ基本普通の生活ができる。そんな、病。


「はい、今日は体調も安定してるので大丈夫です!」

「よかったよかった。また倒れられたらかなわんからなぁ。」


 高1の時は体育のあとの授業中に2、3回と、部活中に1回、低血糖で倒れたことがある。運動後の糖分補給が足りなかったんだよね。自分が思ってるより暑くて、思ってるより汗かいてて、って感じ。


「そう、ですね。ご迷惑かけて、すみません。」

「いやいや、謝ってほしかったわけじゃないんだ。ごめんな。じゃ、今日も部活頑張ろうな。」


 倒れた後、みんなの見る目が変わった。病弱な人、気にかけておかないといけない人、持病があるから大変な人、のような感じかな。部活ではお荷物扱い。バスケ部だったからね、結構厳しめで、そんなんなのに部活にいるなよ、迷惑なんだよ、って目線で伝えられてたような気がするな。でも、部長だけは態度を変えないでいてくれた。感謝してもしきれない、本当に嬉しかった。人生の中で一番恩を感じた人だった。


「はい。では、失礼します。」


 部活は上下関係がしっかりしてたから、目上の人には敬語を使ってたなー、懐かしい。でも、心から尊敬できたのは部長だけだった。顧問はあんまり顔を出さなかった。外部からコーチがきてたけど、あの人は前時代的な人だったから嫌いだった。世間的には体罰が問題視されてきた時代の中、当たり前のように一歩間違えたら死ぬような体罰をする人だった。コーチは飛び降りた原因の一つだったのかもしれない。


「なんなのよ、この体。」


 元々、糖尿病のことは担任の先生にしか言っていなかった。別に問題ないという親の判断だった。


「ゆ、唯野さん。お、おはよう。今年もクラス一緒だね、よろしく。今日は、学校来たんだね。」

「うん。ごめんね、去年の最後の方は来れなくて。インフルかかっちゃった。」

「そ、そっか。じゃ、じゃあ、またあとで。」

「うん。またあとで。」


 ぎこちない会話。この子は同じバスケ部の子で、倒れた後からずっとこんな感じ。話しかけてはくれるけど、気まずそうに去っていく。名前も、前は()()()()()って呼んでくれたのに、今は苗字呼び。気まずそうにしながらも、話しかけてくれて嬉しい。他のクラスメイトとは少し違う存在。春休みは部活休みだったからな、会うのは久しぶりだった。


「あーっ、病弱唯野じゃん。始業式は来るんだ。終業式は休んだくせに。てっきり学校辞めたのかと思ってたわー。」


 そう、こいつ。後ろからあざ笑うような声で話しかけてきやがって。まだ廊下だっていうのに。こいつは自分が言われたらいやなことばっかり言ってきやがる偉そうなクラスメイト。妙に癪に障る。ちなみにこいつの周りには無言でニヤニヤ自分を見てくる輩が2、3人いる。毎回違う人だよね。本当に気持ち悪い。暇人め、お前らが●ね、なんてね。

 でもこの頃は、弱々しい背中でその言葉を受け止めてたな。ほら、怯えてるハムスターみたいでしょ?ぜーんぶ自分が悪いと思ってた。部長の前ではとりつくろってたけど、それ以外の人にはつくろえてない。もう、相当限界だね。


 あ、言われてる子に触れられる前にクラスに入った。


「っ、あっちゃん!!」


 入った瞬間に、担任の先生の大きな声。あ、誰か分かった?そうそう。これ今の校長先生。イケメンでしょ?この頃からモテてたんだよ。自分、先生の方向きながら照れてるね。ちょっと恥ずかしいから、大きな声であっちゃんって呼ばないでほしいって。でも、教室に来れた日は毎日自分のところに体調確認をしてくれた。わざわざ朝の忙しい時間を使って。本当にいい先生に巡り会えた。

 ・・・せんせ、やっぱかわいい。好き。大好き。愛してる。今もずっと結婚してなくて嬉しい。誰かのものにならなくてありがとう。こんな自分のことを今もしっかり見てくれてありがとう。責任を背負わせてごめんなさい。

 ・・・思わず早口になっちゃった。


 なによ、キミ文句あるの?


 ホームルームの時間ずっと先生眺めてるじゃん。私、こんなにわかりやすかったのね。ほら、視界の端に嫌な顔してあざ笑ってる奴らがいるのに気づいてない。こいつら大人の前でもこんな態度だったなんて、知らなかったわ。

 

・・・なによ。何か言いたそうな顔ね。キミ、言いたいことは言ったら?


「別に。」


 あっそ。あら、そんなこと言ってたらまた絡んできたわ。


「お前、今日もお菓子持ってきてんの?あたしらが持ってきたら生徒指導に捕まるのに、あんたが持ってるのはいいんだ。羨ましいなぁ。それ、よこせよ。」


 怯えながら、飴が無いと困るから反抗してるわね。


「こ、これ、飴玉だし、これがないと倒れそうになった時、こ、こま」

「はぁ?お前が倒れるとかどうでもいいんだよ。病弱アピールやめろ。授業中飴舐めてんじゃねえよ。飴だけになめてんのか?笑」


 嫌な目。人を貶すことしか考えてない低脳、なんていうのはよくないけど、本当、なんでこんな奴らの言葉や視線に精神を蝕まれないといけなかったのかしら。本当に馬鹿馬鹿しい。


「もうお前、死ねよ。死んだ方が楽じゃね?なぁ?笑笑」


 ははっ。なんだかんだ耐えてた気持ちが、この言葉のせいで切れちゃった。

 別に、言われるまで死のうと思ってたわけじゃないわ。考えが浮かばなかったわけでもない。でも、この言葉を言われたとき、まるでずっと悩んでたパズルのピースがはまったように、納得してしまったの。死ねばいい、と。先生だって愛してるけど手に入るわけじゃなかったし、部活だって気まずかったし、居場所がなかった。生きててもいいことないし死んでもいいやって、思っちゃった。人って追いつめられると、こんなあっさり死ぬって決めれるものなんだって思っちゃった。

 だから、誰にも聞こえないように、少し強気に呟いたの。


「分かった、今日の夜にでも飛び降りて死んでやる。」


 後はあんまり記憶がない。帰りのホームルームまで死ぬプランと先生への別れの挨拶を考えてた。外野の声は無視し続けた。先生とあれやこれやする妄想を済ませた後に先生のもとへ行って別れを告げた。ふらふらと屋上まで行って・・・最期に先生の声が聞こえた気がしたっけ。



-・-・- -- ・・- ・-・ ・・・



「さあ、話したわよ?次はあんたの番。」


 ・・・本当に教えてくれると思わなかった。あなたも、大変だったのね。私には、今の話を受け取り切れない。分かりきれない、背負いきれない。


「そんな背負い込まなくていいのよ。もう過ぎた話だし。端的に言うと、あんな自分のことを許せないのよ。で、他の人にはこんな軽ーく死んでほしくないって思ったの。さ、キミも話して?」


 よくそんな軽いテンションで・・・別に深い理由なんてない。私の頭の中に死ねって声が、響いていたから。ただそれだけ。私は、あなたとは違う。明確につらかったことなんて、ない。きっと、私はあなたの嫌いな人間よ。


「本当に、ただそれだけなの?」


 ・・・それだけ。他には何もない。


「あら、そう。じゃ、あの日にはまだ続きがあるようだし、戻ってもらおうかしら。」


 な、なんで。


「もう忘れたの?キミは私に従うしかないのよ。というか、自殺を選んでおいて楽に死のうだなんて思わないで。」


 それ、あなたもブーメランくらってるんじゃないの?


「・・・」


 図星なのね。


「汚い感情を改めて体験しなさい。その上で・・・」


 上で、?って、まって。あの日は、あの日は・・・私はもうあれ以上あの日を体験したくない。


 私の訴えなど関係なく、透き通った声は言い放った。


「行ってらっしゃい。」


 まっ、


-・-・・ ・-・・・ ・・・- ・・-- -・-・- ・- ・・・ ・-



 足首の痛みで目が覚めた。ここは・・・自分の部屋、か。ぐねった左足がどうなっているか見ようと布団をよけているとドアが開く音が聞こえた。


「こっちゃん!!よかったぁ、起きた。このまま死んじゃうのかと思ったよぉ。」


 なっちゃん。


「大丈夫、私はそんなすぐ死なないよ。安心して。」

「あら、起きたの。もうじき夕飯できるから起こしに来たわ。足、冷やしてはいるけどまだ痛い?」


 なっちゃんと私のお母さんが部屋に入ってきた。なっちゃんはぺたんと女の子座りをして、ベッドの端に手を乗せ、ベッドからぶら下げてる私のケガしてない方の足を愛おしそうに眺めている。

 ・・・ ちょっと興奮するからやめてほしい。この角度だと、わ、私が、なっちゃんを、ちょ、調教してるみたいじゃん。えっち、はれんち。首輪嵌めたらもう、それでしかないじゃん。・・・いやぁ、首輪、似合いそうだな。ゔへぇ。


「こっちゃん?まだ痛いの?」

「あ、ううん。足は、たぶん大丈夫。」

「ほんとに?ほんとに?そっちの足、めっちゃ腫れて痛そうだよ?」


 本当だ。ここまで痛み感じないのも問題だな。てか、この濡れタオル冷やすために使ってたのか。何だか生ぬるいんだけど・・・うぉ、足あっつ。どんなぐねり方したんだ私。


「こっちゃん。もう病院閉まってるから、明日の、って明日は日曜日か。明日一日で腫れがひかなかったら、月曜の午前で病院に行きましょうね。」

「お母さん。」

「こっちゃんが病院行くなら、あたしもついていく!」

夏光(なつみ)ちゃんは学校でしょ?ちゃんと先生にこっちゃんのこと言っといてくれる?」

「んーーー、・・・わかった。これはあたしにしかできないもんね。」


 なっちゃんがすごい嫌そうな顔でお母さんのいうことを聞いてる。そんな顔も可愛い。


「ごめん、なっちゃん。一緒に学校いけなくて。」

「いいもん。一緒に病院に行かない代わりに、今日はこっちゃんの部屋にお泊りするもん!!!!!」


 お母さんはそんななっちゃんを見ながら部屋を出ていった。

 代わりにって、毎週土曜日は私の部屋に泊まってるじゃんと思う。


「こっちゃん、あとであたしの布団出すけど、手伝わずに見てて大丈夫だからね。というか、手伝っちゃダメだからね。足、労わってあげないとダメだからね。あたし、自分で布団出せるんだから。」


 なっちゃんは気遣いながら、明るい顔を私に見せてくれる。・・・私が見れる光景は変わらない。


「2人ともー早く降りてらっしゃーい。ご飯できたよー。」


 今日は随分と早いな。嬉しいような嬉しくないような。と、昔の私も思ってた。

 お母さんがリビングから叫んでる。廊下に反響してて、ちょっとぼやぼやして聞こえる。


「呼ばれたね。いこっか、なっちゃん。」

「こっちゃん、足いける?大丈夫?あたしに体重かけていいから無理しちゃだめだよ。」

「なっちゃんが隣にいてくれたら大丈夫。怒られる前にいこ?」


 すっごい私の身体を気にして歩いてくれる。あのマイペースな、なっちゃんが。私のために。すっごく嬉しい。しかも私の背中、支えてくれてる。で、でも。手以外のところ触られると興奮するから、やめ、、いやすごい嬉しいありがとう。

 なっちゃん、こんな下心持っててごめんなさい。幼女に興奮するなんて、親友だったなっちゃんに興奮するなんて、気持ち悪いよね。昔の私は嬉しい、好きって単純な感情だけだったはずなのに。今の私は穢れきってて、本当ならなっちゃんと関わる事すら許されないもんね。

 そんな心の中に入り込んでくる抗えない香ばしい匂いと体重をかけるとやっと痛む左足。その2つが混ざり合うとこの気持ちがさらに気持ち悪い何かに思えてくる。胃を元気にするはずの匂いが、胃を縛り付けている。なっちゃんに触れられているあたたかさと足の痛みが私の身体の中で喧嘩をしている。


「めっちゃいい匂いするね!こっちゃん家のご飯楽しみー!」

「そっか。私もなっちゃんと一緒に食べるの楽しみ。」


 眩しい笑顔。この笑顔を私が奪ってしまうのが、なんとも息苦しい。考えれば考えるほど胃が悲鳴を上げる。考えたって無駄。私の意志はこの身体に届かない。でも、考えてしまう。希望的観測を捨てずにはいられない。

 今触れられているなっちゃんのぬくもりをずっと噛み締めていようと思う。


 リビングに着いたらお母さんがぐねった左足首を診てくれた。


「あらあら、思ったより腫れてるわね、、なっちゃんごめんね~、ありがとう。こっちゃんも左足あんまり使っちゃだめよ。」

「も、お母さんわかってるって、ありがとう。なっちゃんも、ありがとう。」

「そんな感謝されると恥ずかしいなぁ。あ、ありがとぅ。って今日肉じゃがだぁ!!こっちゃん座ろ!そして食べよ!」


 切り替え早いな、可愛い。本当、この笑顔を見るだけで生きててよかったと思える。この素晴らしいものを私に向けてくれないと思うだけで死んでもいいと思える。私と関わってくれてありがとう。愛してるよ。

 ・・・私の感情がだんだん重くなっていってる気がする。こんなこと思うのも最期かな。最期ぐらい、許してね。


 なっちゃんが小さな口に合わないじゃがいもを、嬉しそうに頬張る。もごもご精一杯口を動かして、ごくんと飲み込む。それを私は眺める。肉じゃがと白米を受け入れる食欲はないが、なっちゃんに促されて身体は肉じゃがを口に運ぶ。人参を感じなくなったあたりで白米を押し込む。だんだん足の感覚が消えてきた。この日の肉じゃがは慣れた味のはずなのに塩味を強く感じた。なっちゃんの、スイカのように赤くまんまるな頬をみると、健康体っていいなという気持ちになる。

 だんだんどうでもいいことしか考えられなくなってきた。夜が来てほしくない。いや来るな。

 ねえ、あなた聞こえてるんでしょ?反応を楽しんでるんでしょ?もう十分でしょ?


「・・・知らない。」


 っびっくりしたぁ。急に入ってこないでよ、この光景を見せてるのは、あなたでしょ?無駄に透き通った声でおっしゃられてもわかりませんよ。


「こっちゃん?食べないの?」

「え、あ、ごめんごめん。ちょっと足が気になっちゃって。」


 嘘だけど。


「足大丈夫?早く食べないと、あたしが全部食べちゃうぞー?」

「いいよ。」

「え?あの肉じゃが大好きなこっちゃんが?そんなに足痛いの?」

「いやいや、大好きなのはなっちゃんでしょ。いいよ、食べたい分どうぞ。」

「え?ほんとにいいの?・・・あ、ありがとう!!」


 そんな目を輝かせちゃって、そんな顔してもらえるならお母さんも嬉しいだろうな。きっとこの反応が欲しくて肉じゃが作ってたりするのかも。私には、あんな目、向けてくれたことないのに。いや、違うか。その可能性を私が断ち切ったのか。そうだね。そうだよ。そもそも、私は下を向いてばっかりで、誰とも目を合わせてないじゃん。なんでその状態でその目を向けてほしいと願えるんだろうね。


「ふう、満足満足ぅー♪」

「そんな喜んでもらえておばさん嬉しいわ。また遠慮なく食べにきてね。」


 わたしがもごもご食べてる横で、2人はテーブルをはさんで会話している。前の私はちゃんと会話をきいていたはずなので、会話がちゃんと聞こえるはずなのに、聞こえない。私の脳がシャットアウトしている。この光景を目に焼き付けることを優先している。時よ止まれと願ってしまう。でも、やめてくれと思う気持ちはなくなってきた。自業自得だと思いながら避けれるなら避けたいはずなのに。人間の感情というのは長く続いてはくれないらしい。

 ・・・飛び降りたかったのも、もうちょっと経ったら変わってたのかな。




「こっちゃんいうよー、せーのっ」

「ごちそーさまでしたっ!!」

「ごちそうさまでした。」

「はーい、お粗末様でした。じゃあ、食器の片づけはするから、2人ともお風呂入りな?って、こっちゃんの足心配だわぁ。なっちゃん一人で入る?入らなくても大丈夫?」


 この時も思ったけど、よその子供にお風呂入らなくても大丈夫?ってなかなかなパワーワードな気がする。そんなこと普通聞かなくない?


「お風呂より、こっちゃんと一緒にいたいので大丈夫です!!」

「そっか、ごめんねぇ。なっちゃんのお母さんにはおばさんが言っておくから、部屋行って寝る準備して、楽しんでから寝なよ。あんまり遅くなったらおばさん怒るけど、そこはいつも通りね。こっちゃん、足固定できてないから、動かすときは気を付けてね。」

「はぁーい!!」

「はーい。」


 お、落ち着け。落ち着け。うん。落ち着け。部屋に行ってすぐ起こるわけじゃないし、うん。大丈夫。もしかしたら、違うかもしれないしね?思ってたより苦しくないかもしれないしね?


「こっちゃん、無理しないでね。」

「うん、ありがとう。ごめんね、私のせいでお風呂入れなくて・・・」

「そんなの気にしないで!正直、あたしそんなお風呂好きじゃないし笑」


 階段を上った先にある窓からは、美しい茜色が見えた。


「見て!空、茜色だぁ!一番上のお姉ちゃんの名前だぁ!!」


 純粋に笑うなっちゃんが羨ましい。私はこんなこと言ってる時も、なっちゃんが支えてくれてる腕が腰にあることに興奮を覚えてしまってるのに。本当、最低なんだよ、私。なっちゃん。こんな私と友達にいてくれてありがとうね。

 部屋は夕日のおかげで明るかった。なっちゃんは私をベッドに座らせてくれた。


 思えば、なんでこの言葉が出たのかわからない。


 なっちゃんはパンツ一丁になった後、半袖半パンのパジャマに着替えながら言った。


「こっちゃんはベッドに座っててね。あたしが布団出すの見といて!こっちゃんは私の大切な子だから。無理しないで、見守っといて!」


 でも、小学2年生の私は言わずにはいられなかった。


「・・・大切って、どういう意味?」


 希望で絶望の時間が訪れる。


「え?大切は大切だよ。こっちゃんは昔から一緒にいて、あたしにとっていなくなったら困る子ってこと!」

「それは、好きってこと?」

「うん。だぁいすき。」

「本当に?」

「そんなに聞いてどうしたの?足ケガして、ないーぶ?、になっちゃったの?いつものこっちゃんらしくないよ。こっちゃんは、あたしのこと好きじゃないの?」


 なっちゃんは布団を出しながら、私の方を見る。


「う、ううん。私も、なっちゃんのこと大好きだよ。本当に、その、大好き。恋人に、なりたい。」


 いっ、ちゃった。


「そうだよねぇ~・・・え?こっちゃん?もしかしてそれ、あの、えっと。愛してるって、恋人になりたいって、っ、告白ってことでいい?」


 明るい声、でも確かにさっきのなっちゃんとは違う声。私が俯いているせいで、表情は見えない。


「なっちゃんはそういう意味じゃ、なかったの?」

「逆になんでそういう意味になるの?」

「だ、だって。大切な子って、大好きだって。それって・・・」


 純粋だった恋の結末が訪れる。


「あり得ない。」

「・・・え、あ、そ、そうだよ、ね、あの、」

「昔、栞暖(かのん)姉ちゃんが言ってたんだ。」

「な、えっ」

「友達と友達として仲良くできない悪い子は、なんか勘違いしちゃって告白しちゃう子は、人として最低なんだって。」

「そ、そうな、」

「でも。」


 なっちゃんは満面の笑みでこっちを見る。


「あたしも、愛してるよ。」

「・・・な、なんで?」

「当たり前じゃん。好きって言ってもらったのに、それを返さない方が最低だよ。」

「女の子同士だよ?」

「あたしは全然気にしないよぉー」


 驚きと喜びと嬉しさが混じって、うまく笑うことができなかった。痛みがなくなった足を、何にも気にせず使って立って歩く。そのまま、抱き着いて押し倒す。押し入れから半端に出ていた布団は、なっちゃんを包み込むように折れ曲がった。私は嬉しさのまま、なっちゃんにくっついて抱きしめて、思わずなっちゃんの汗のにおいを嗅いでいた。まだ早い胸のふくらみを感じながら、互いの体温を絡めあう。

 嗅ぎながら、泣きながら、本音をぶちまけた。


「ほんとに?ほんとに?こんなことが許されるの?私、私ずっと、これはダメなことだと思ってた。周りの子は誰も、女の子を好きだって言わなくて、友達のことも好きって言わなくて、なっちゃんだってそうで、ずっとずっと、私が間違ってるんだって、この想いは気のせいなんだって、ずっと心の中に抑えてきた!」


 昔の私、こんなこと言ってたっけ。なんだか、昔の私と今の私が混ざり合ったような、不思議な感覚がする。私が私で行動してた昔と、身体に従うしかない今。そんな関係だった私と身体が、一体化しそうな感覚。・・・結末は変えれるのかもしれない。

 なっちゃんは膝立ちになって、そんな私の肩を持って腕を伸ばしながら、無理やり私の額になっちゃんの額をくっつける。自然とお互い上目遣いになり、目が合う。純粋な栗色の瞳が私の心に入り込んでくる。


「あたしは、それをダメだなんて、間違いだなんて思わない。栞暖(かのん)姉ちゃん言ってたの。人の気持ちは人の数だけあるんだって。どれが間違いとかないんだよ。姉ちゃんは、勘違いを最低と言ってたけど、私はそうは思わない。」


 胸の高鳴りが止まらない。この子は私の好きとは違う気持ちで言ってるとわかっていても、心が身体が私自身が、この言葉を字面通りに受け取ってしまう。でもここで、変えなきゃ、流れを変えなきゃ、でも。・・・いえなかった。後の苦しみより、すぐくるチクりとするぐらいの痛みに・・・私は耐えることができなかった。

 日が沈み、だんだんと部屋が暗くなっていく。窓から入ってくる街灯の明かりが、なっちゃんの目に光を宿す。

 なっちゃんは深呼吸して、「あたしは。」と続ける。


「あたしはこっちゃんの総てを認めるよ。」

「ーーーーーー!!!!」


 あぁ。抑えられなかった。君の言葉を聞いた私は足の痛みと同時に、身体の制御を取り戻した。

 その後、なっちゃんの顔を見た私は。ぷつんと。


 理性の糸が切れる音がした。


 なっちゃんが押しつぶされるぐらい強く、強く抱きしめた。

 なっちゃんの露出している肌ををなめながら塩味を感じた。

 なっちゃんの反応を無視して、唇を奪った。

 なっちゃんが吐息を出している間に舌を入れた。

 なっちゃんの口の中を舐めながら身体の疼きを感じた。

 なっちゃんの力が抜け女の子座りになった。

 なっちゃんを抱きしめながら立って、私のベッドに移動した。

 なっちゃんを押し倒し、上に覆いかぶさった。

 なっちゃんの目から涙が流れていた。

 なっちゃんの涙を舐めながら、頭をなでてあげた。

 なっちゃんの服を脱がしながら、頬に口づけをした。


 なっちゃんは抵抗してこなかった。


 なっちゃんのパンツを脱がす瞬間の背徳感がたまらなかった。

 なっちゃんの裸と涙を見て、舌なめずりをした。

 なっちゃんの表情が分からないまま、もう一度抱きしめた。

 なっちゃんともっと交わりたくて、私も服をすべて脱いだ。

 なっちゃんと目があったような気がした。

 なっちゃんの横に寝転がろうとしたとき、足に巻き付いたタオルが異常に重く感じた。

 なっちゃんが起き上がろうとしたので足のタオルを取り、もう一度押し倒した。

 なっちゃんの小さな身体と私の小さな身体が向かい合う。

 そのまま、上半身を密着させる。なっちゃんの大事なところと私の大事なところが触れ合う。

 思わず声が漏れる。


 そのうち、君の力が緩む。

 そのうち、君から吐息が漏れてくる。

 私は興奮して足の指の間を舐めた。君の髪の毛を解いて、2つの髪飾りを胸のでっぱりの上に乗っける。君は冷たかったのか、ピクッと背中を仰け反らせた。

 私は、君が快楽に堕ちていくのを感じた。そんな君が愛おしくて、思わずおへそに口づけをした。

 「んぁ」という可愛い喘ぎが聞こえた。

 私は右手でお腹とおへそをいじりながら、左手を君の手と交わらせ、君の耳元で「かわいい」と囁く。

 君と私の体温が溶け合う。

 すすり泣きのような喘ぎ声が聞こえる。

 君の真っ白な綺麗な肌が、私によって汚されていく。何事にも代えがたい優越感が私の身体を蝕んでいく。本能に流され続け、止まることのできない獣にされていく。

 私は我慢できなくなり、本能のまま君の大事なところに私のものを擦り付ける。お互いの凹凸が擦れ合うたびにぐちょぐちょ音が鳴り、お互いから熱を帯びた吐息が漏れる。

 君の顔は見れないまま、絶頂に向かって激しく擦り合わせる。ベッドのギシギシ音と互いの吐息が混ざり合う。

 欲望のままに腰を振っていると、君から一段と大きい喘ぎ声が聞こえた。それと同時に腰がビクビク動き、おしっこが漏れ、シーツが濡れた。その姿に興奮して私も思わず声が漏れ、絶頂を迎えた。

 何事にも勝る、快感だった。

 私たちは、全身液体まみれで、花が開いているようにベッドに倒れた。


 身体を動かせず余韻を感じていると、ハッと正気に戻った。

 サーッと血の気が引きながら罪悪感が膨らんでいく。ぐちょぐちょで、痕だらけで、私の好みに汚した君の身体を眺め、君の顔を見る。

 顔を見た瞬間、喉からコヒュッと音がした。息の仕方を忘れたように、瞬きすることが罪になるように、身体が動かなくなった。

 君の顔は、身体と同じようにぐちょぐちょで、表情が虚ろで、静かに涙を流していた。


 脳に君の声と透き通った声が重なって聞こえた。


「糞野郎が。死ね。」


 固まる身体が反射的に動き出す。私は裸のまま、髪の毛を力の限りつかみ、喉から苦しみのまま声にならない叫びをあげる。 

 やめて、やめて、やめて。ごめんなさい。ごめんなさいなっちゃん。なんで、なんで私の脳は、君のこの姿にどうしようもなく興奮してしまうんだ。罵倒されることさえ、その興奮を高めて脳を蕩けさせる。こんなことするつもりじゃなかったのに。こうなるはずじゃなかったのに。頭をねじ切ってやりたい。胸の中から身体の内部から気持ち悪い何かを取り出したい。苦しいのに目の前の光景から目が離せない。息ができない。ようやく戻った理性が消えていく。もっとぐちゃぐちゃにしたい。もっと汚れて。私の手で汚れて。もっと私のことを想って。もっと私を見て。もっと私を愛して。もっと私に捧げて。もっと私に君の可愛い局部を愛でさせて。もっと泣いて痛がって苦しんで私を求めて。その身体を私だけに触らせて。私以外見ないで私以外求めないで。私がいないと生きられなくなって。私は君が、君が、君が。君がいないと、私は君に、君に君に。君に君に君に君に。大好き愛してる汚れた君が一番かわいい。かわいかわいいかわいい大好きかわいい。

 ああああああああああ!あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!


 もう何も、考えられなかった。



-・-・・ -・・-・ ・・-・ -・- -・--・ ・-



「っ、・・・キミはあの子の近くにいちゃダメな存在よ。」


 ・・・


「あの子が、()が傷つかない結末に変えてくれると信じてたのに!!」


 ・・・


「こっちゃん!!」


 っなんで、名前、というかなっちゃん、を、妹って・・・

 透き通った声が脳に響く。


「私は、唯野(あかね)。唯野|夏光《夏光(なつみ)》の一番上の姉よ。10年前、ここから飛び降りた女子高生。キミたちのことはずっと、ずっと見守ってた。飛び降りてからはずっと後悔してて、成仏できなくて、家族が心配で!かのとなつが心配で!!なつと仲が良いこっちゃんのことも勝手に妹のように見守ってた。キミがなつに好意を抱いてて、小学校の時にあんなことをして、私は苦しかった。キミのせいで、なつが苦しんでるのを見てられなかった。私はキミにずっとずっと怒ってる。今日、キミが屋上にたたずんで死にそうな顔して飛び降りるから、これは私の苦しさを少しでも味わせてやる絶好の機会だと思ってしまった。なつのこと大好きなキミなら、走馬灯でなつのことを見てくれると信じてた。煽れば、走馬灯の中でぐらい、なつが傷つかない世界があるのかもしれないと希望に縋った!!なつはキミのせいで傷を負ったのに、キミのことをずっと気にしている。ずっとよりを戻したいと思ってる。そんななつが少しでも救われてる世界が見たかった。確かにそれは意味のないことなのかもしれない。なのに、なのにキミは、キミは!!」


 ・・・ごめんなさい。私の会ったことのないなっちゃんのお姉さん、亡くなってたのか。なっちゃん、なっちゃんなっちゃん。ははっ、はは、あはははははははっ!!


「もう、だめか。」


 あはははははははっ!!!!!


「なつ、不甲斐ない姉でごめんね。救ってあげられなくてごめんね。こっちゃんに囚われないように生きていけるように、これからも最大限サポートするからね。」



---・ --・-・ ・-・-- -・-- ・・ ・-・-・ --・-・ ・・ ・--・ ・



 コンクリートに骨が落ちる音がする。その衝撃で骨が折れる音がする。冷たい地面に生暖かい液体が流れる。透き通る濁った声が夜空に響き渡る。まだ学校に残っていた校長が倒れてる少女に駆け寄る。学校の門を開け、集まった人々が悲鳴を上げる。あるものは救急車を呼び、あるものは泣き叫び、あるものは少女を助けようと救命処置を始める。


「・・・また、命が失われてしまうのか。」


 校長は絶望した顔で、倒れている少女と栗色の長髪の少女を眺める。


「その子が死ぬと、妹が悲しむ。」


 彼女は栗色の長髪を揺らして、校長に背を向け、憎らしそうに言い放つ。


「首は折れてないから、まだ間に合う。」

「あっちゃん・・・」

「せんせ。・・・ごめん、なさい。」


 校長は倒れてる少女の名前を呼び続けた。彼女はずっと、薄い笑みを浮かべたまま何も動かない。栗色の長髪の少女は屋上で、放置されたプランターの隣に立ち、倒れてる少女を睨んでいる。騒ぎが気になってやってきた有象無象の女子高生2人は、その3()()を見て呆然と立ち尽くしていた。


 気づけば、遠くから救急車のサイレンが響き渡り、美しい星空を朱く染め上げていた_____

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最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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