5話 終末を否定する剣士
カイ・ゼフィルスは、ルナウーンの廃墟を前に息をのんだ。荒涼とした大地にそびえ立つ歪な黒曜石の塔。遠い昔、魔力に満ちていたこの地が、今や終焉の象徴のように彼の眼前に広がっていた。手紙の差出人である「終焉を識る者」、ペトリシェ・ドイルは、この場所にいる。
「…やはり、ここか」
彼は一歩足を踏み入れ、塔へと続く道を歩き始めた。その足取りは、もはや躊躇のないものだった。
塔に近づくにつれ、カイの脳裏に数年前の光景が鮮明に蘇る。
ペトリシェが王子の婚約者としてまだ王城にいた頃、王国の魔導貴族の筆頭として彼女は常に注目の的だった。そしてカイは王国騎士団の若き騎士団長として、その名を馳せていた。
あの頃のペトリシェは、どこか掴みどころのない、神秘的な存在だった。社交界の華でありながら、誰とも心を通わせない孤高の氷の令嬢。
「お嬢様、本日は王城内での護衛の任を賜っております、カイ・ゼフィルスと申します。」
初めて彼女に挨拶した日、カイは緊張で硬くなってしまった表情でそう告げた。
ペトリシェは、その冷たい瞳で一瞥してから、無言で立ち去った。その冷たい態度に、若きカイは苛立ちを覚えたものだ。しかし護衛の任が続くにつれて、彼は彼女の底知れない知性と、時折見せる孤独な横顔に惹かれていった。
カイの視線が、塔の開いた窓に吸い寄せられる。そこに見覚えのある金髪が揺れていた。
数年ぶりの再会。当時から、彼女は何も変わっていなかった。
「ペトリシェ…!」
カイは、塔の中へ駆け込んだ。内部は外観に似つかわしくないほど、整然としていた。中央には円形の広間があり、壁には無数の魔導書が並んでいる。その広間の奥、開け放たれた扉の向こうに、彼女はいた。
「あら、ずいぶんお早いお着きですわね。」
振り返ったペトリシェの瞳は、彼の姿を捉えるとほんのわずかに細められた。
それは歓迎でも、敵意でもない、ただの確認。カイは、彼女のその冷たさに、胸の奥が締め付けられるような痛みを感じた。
「あの手紙は、俺への挑戦状か?」
ごめんなさい、普通に今日昼の12時とかに起きたせいで投稿遅れちゃいました。
さっき反応見て、2件も反応が来てて感動しました、執筆欲がおらおら出てきましたわ!