1話 終焉を伝えて
煌びやかなシャンデリアが輝く王城の謁見の間は、重苦しい沈黙に包まれていた。列席する貴族たちの視線が、中央に立つ二人に集中する。その視線の先にいるのは、漆黒のドレスをまとった令嬢と、困惑の色を隠せない王子。
「ペトリシェ・ドイル! 貴様との婚約を、今この場で破棄する!」
王子の、震えながらも響く声が、謁見の間に凍り付いた空気を切り裂いた。王子の隣には、しおらしい態度で立つ令嬢の姿がある。
冷徹な魔導貴族の誉れ高いペトリシェ・ドイルは、その言葉に微動だにしなかった。彼女の顔には、一切の感情が読み取れない。ただ、深淵を湛える瞳が、王子を見据えるだけだ。
「……そうですか。どうぞ、ご随意に。」
紡がれた声は、あまりにも静かで、あまりにも冷たかった。貴族たちはひそひそと囁き始める。あの冷徹なペトリシェが、ここまであっさりと受け入れるとは。まさか、観念したのか?そんな騒めいた声が謁見の間に響く。
だが、次の瞬間、ペトリシェの口元に薄く笑みが浮かんだ。それは、嘲りにも似た、あるいは諦観にも似た、しかしどこか美しささえ感じる笑み。
「ですが、一つだけ、お伝えしておくべきことがありますわ、王子様。」
一歩、二歩と、ゆっくりと王子に近づくペトリシェ。その姿は、まるで舞台女優のようだった。王子の顔が、恐怖に引きつる。
「この世界は、あと三年で滅びます。」
その言葉は、雷鳴のように謁見の間に轟いた。貴族たちのざわめきが、一瞬にして静寂に変わる。誰もが、その意味を理解できずにいた。
「暴走は止まらない。この星は、自壊へと向かっている。あなた方が目を背けている間に、終焉はすぐそこまで来ているのですよ?」
ペトリシェの視線が、謁見の間を見渡す。それは、恐怖に震える貴族たちを、憐れむような、あるいは軽蔑するような眼差しだった。
「婚約破棄、感謝いたします。これで、私は心置きなく、この美しき終焉を迎える準備ができるというもの。」
そう言い残し、ペトリシェは踵を返した。誰も、彼女を引き留めることはできなかった。彼女の背中は、まるで世界の終わりを告げる使者のように、静かに、そして毅然として、王宮を後にした。
社交界は、この婚約破棄騒動と、それに続くペトリシェの“預言”で持ちきりとなった。誰もが彼女を狂人扱いし、嘲笑の対象とした。しかし、ごく一部の聡い者たちは、ペトリシェの言葉に、言いようのない不安を覚えるのだった。
予約投稿するつもりが普通に出してしまった…