48聖獣を救いたい
魔源石がなくなったと聞いて私はすぐに教会に行った。
一緒にロベルト神官を探すが姿はなかった。
その後リント隊長がガロンを連れてロベルト神官を追ったと聞いた。
私は信じれなかった。
まさかロベルト神官が?どうしてそんな事を?
魔源石がまた人の争いに巻き込まれて穢れてしまう事が一番心配だった。
今度穢れたらもう二度とあの美しい輝きを見せてくれないかもしれない。
女神が怒って人間を見放してしまうかもしれない。
なにより神の怒りに触れて大災害や疫病などの不幸に襲われるかもしれない。
かも知れないの不安要素が多すぎて私の心は千々に乱れた。
「クレアどうしたらいいの?せっかく魔源石を手に入れたって言うのに、もしかしたらイエルハルド国をもう一度取り戻すチャンスだったかもしれないのに」
私はどうしようもない不安をクレアにぶつけた。
「アリーシア様、騎士隊の方も動いています。きっと大丈夫です」
「私に何かできることはないの?」
「アリーシア様に出来ることはここで待つことです。あなたには一番にご自身を大切にして頂かなければなりません。アリーシア様はイエルハルドの希望なのですよ。わかりますよね?」
クレアは優しく微笑んでそっとわたしの手を握る。
私にそんな自覚はない。
イエルハルドの唯一残された王族。
最後の王女それが私だとしても実感など湧くはずもない。
そこにガロンに乗ったリント隊長が現れた。
上空からゆっくり降りて来るガロンは勇ましく頼もしい。まあ、ガロンに乗っている隊長も輝私の唯一の騎士だ。
(ああ~今日もかっこいい。リント隊長好きです。でも、あれから想いを伝え付る機会もなく…)
リント隊長はずかずか急ぎ足で教会に入って来た。
「アリーシアはいるか?」
私は急いで隊長の所に走る。いや、もうここに来ると分かっていたから玄関近くで待機していたのだ。
「はい、ここです」
「アリーシア、悪いが一緒にバカルに行ってほしい。どうやら聖獣が困ったことになっているんだ」
「聖獣って。アギルが?困った事って?」
「ああ、オークの森が穢れていることは知っているよな。魔源石も濁って穢れていることも」
「ええ、それは国家機密だと…」
「ああ。だが、穢れがもうそんなレベルじゃないんだと思う。聖獣がかなり苛ついてもしかしたら魔獣化するかもしれないとロベルトが言ったんだ。まあ、あいつの言うことだから全部本当かどうかもわからないが、もし聖獣が暴れ出したら抑えれるのは君しかいない」
「アギルが暴れるなんて…」あんなに温厚で大人しいアギルが暴れる?とっさには想像がつかなくて戸惑う。
「ああ、俺も信じられないが…エクロートから手紙が来たんだ。それにはザイアス国王が暴走してロイド王太子もおかしくなっていると書かれていた。魔源石や聖獣はそんな負の感情でもっと穢れるはずだろう?俺も信じたくはないがまんざら嘘とも思えない。だから」
「私行きます。聖獣を助けなきゃ!」
そこにクレアが来た。
クレアは私の前に立ちふさがった。
「リント隊長、申し訳ありませんがアリーシア様をバカルに行かせるわけには参りません。こればかりは…これ以上アリーシア様を危険な目に合わせる事は出来ないのです。リント隊長だってそんな事望んでおられるわけではないでしょう?」
クレアの言い方は気迫に満ちていた。
だが、リント隊長も負けてはいなかった。
「もちろんそんなことは望んでいません。ですが聖獣がバカルで暴れれば相当の人が被害を受けます。俺だってみすみすアリーシアを危険な目に合わせるつもりはありません。絶対に俺の命に変えても彼女を守ります。どうか…アリーシア君はどうだ?」
私はクレアに大丈夫だからと言って隊長を見た。
「ええ、隊長。それは私にしか出来ない事だって言いましたよね?私行きます。アギルやナナ。サラ。それにエリーとアギルの子供たちも必ず守って見せます。魔獣になんかさせません。ガロンと協力すればきっと聖獣たちは落ち着きを取り戻すはずです。それに私、隊長を信じてますから」
「ああ、俺もアリーシアを信じている」
お互いに顔をまじまじと見つめ合う。
(わ、私こんな事言ってしまって…もぉぉぉ恥かしい…)




