39聖獣の様子(エクロート)
俺達は急いで獣舎に向かった。
「助けてくれぇぇ~!」
「危険だ!みんな離れろ!」
「アギル。お前はどうしてしまったんだ?」
飼育員たちが獣舎から走って飛び出して来る。
「何があった?」俺は彼らに聞く。
「アギルが興奮して飼育員に噛みついたんです」
「そんなばかな」
だが、見るとひとりの飼育員の手から血が流れている。
「おい、大丈夫か?」
「ええ、危なかったです。あと一歩引くのが遅かったらこの手はなくなっていたかもしれません。飼育長、俺もう無理です。アギルの世話やめたいです」
負傷した飼育員はかなりおびえている。無理もない。
「すまない。こんなことになるなんて…あいつほんとにどうかしている。俺がここに来てこんなことはなかったのに…」
飼育長はすっかり元気をなくしている。
(俺も聖獣が嚙みついたなんて…ああ、ずっと前イエルハルド国から連れてきたころはそうだったかもしれんな。だが、あの頃はイエルハルドの聖獣係も一緒に連れて来たからなぁ…
借りるだけだと言っておきながら結局イエルハルド国を亡ぼしてしまうなんてザイアスがどれほど残酷な奴か…
でも、そんなザイアスももう終わりかも知れんな。今ならこの国をぶっつすす事が出来るかも知れん…)
俺はそんな思いに駆られていた。
「ああなるともう手が付けられませんよ」
「幸い獣舎の中です。扉をしっかり閉めて興奮が治まるのを待つしかありません」
「騎士隊の皆さんも今は近づかないで下さい!」
俺はふっともの思いから覚める。
「待て!」俺は無性に中の様子が知りたくなった。
「聖獣の様子が知りたい」
「大けがをしても知りませんよ!」
「じゃあ、扉が閉まっているか確認するついでに隙間から見るだけでも」
最後に大柄な飼育員が扉を閉めてこっちに来ようとしていた。
「どうなっても知りませんよ。そんな事より王太子にここに来るように言ってくださいよ。アギルはストレスが溜まっているんです。だからあんなに興奮して!!」
飼育員たちもどうしていいか困り果てているのだろう。
「ああ、聞いた。何とかするつもりだ。君たちに迷惑をかけてすまん」
俺はそう言うしかなかった。そして扉に近づいてそっと中の様子を伺った。
アギルは誰もいなくなって少し興奮が冷めて来たのか吠えてはいなかった。
前足で何度も床をかいていたと思ったら、イライラするのか頭を左右に振って「ぐるぅぅぅ、ぐふっ、るうぅぅぅ」とうなりながら檻の中で行ったり来たりをして今度は檻に何度も身体をぶつけてやっと座り込んだ。
目はらんらんとして一瞬、魔獣を思わせるほどその目が吊り上がっていた。
何かがおかしい。少し調べてみる必要があると思った。
俺は他の聖獣たちの様子を聞くことにして飼育員たちの所に行った。
「すまんなアギルはかなり苛ついてるみたいだ。それはそうと他の聖獣はどうなんだ?」
飼育員はすぐに教えてくれた。
「そう聞いてくれたのはエクロート様だけですよ。実は他の聖獣たちも苛ついているんです」
「ユニコスのナナは食欲が落ちています。ダイアウルフのサラは子供の世話をしようとしません。おかげで赤ん坊がかなり弱っていて…アギルとも会ってないですし…」
「ラマンダーのエリーはまだ成獣になってはいませんがここの所目を盗んで飛び立とうとばかりしていて…まあ足に鎖がついていますのでそれは出来ませんが」
「みんなここに。オークの森にいるのが嫌だと言わんばかりなんです」
「オークの森に何かあるのか?」
「そんな事はわかりません」
「だが、聖獣は国の宝だ。誰かに報告は?」
「「「もちろん王太子にしましたよ!!」」」
「そうか、俺も王太子に掛け合う。もうしばらく待ってくれ」
「お願いします。このままでは聖獣たちが可哀想です」
「ああ、俺もそう思う」
イエルハルドの樹海に返してやりたいが、あそこも魔樹海になってしまったからな。
こうなったらと俺は神官に話を聞くことにした。
だが神殿から返って来たのは今は会えないという回答でそれからしばらく神官と会えなかった。
だが、こうしてはいられないと俺はグロギアス公爵の周辺を探ることにした。




