17一旦休憩
隊員たちは取りあえず見張りを数人の残して一旦村に引き上げる事になった。
「俺はもう一度空からこの辺りを見回って来る。お前たちは先にパニア村に引き上げて食事だ。3人はくれぐれも無理はするな。わかったか!」
「はいっ了解です!」見張りに残る隊員たちが返事をした。
リント隊長はもう一度ガロンと空の上から魔樹海を調べる為に離れた。
村長の家の前に作った退避場所では数人の隊員たちがすぐに食事の準備に取り掛かった。とは言っても簡単なスープを作る程度らしい。
私は隊員たちに家の中で休むように言われたが食事の用意を手伝った。
けがをしたりした隊員は手当てを受けたり使った魔剣の手入れをしたりしている。
「聖女様にこんな事してもらうなんて、いいから休んでいてください。ここは俺達が…」
「いえ、皆さんも疲れているんです。私もお手伝いしますから」
私はサンドイッチを作るよう頼まれてパンにチーズやハムを挟んだりしてそれを大きなトレイに並べて行く。
内心はこんな事初めてなんです。防御魔法うまく言ってほんとに良かったですなんて思っているとは知られたくないので、食器を出したり小分けなどにはせずに大きなトレイに出来上がったサンドイッチを入れる事に集中した。
ほとんど食事の準備が出来た頃リント隊長がやって来た。ガロンもすぐ近くにいる。
ガロンは私がいることに気づいたらしく声を上げた。
「きゅきゅきゅ~きゅぅぅぅ~」(フローラも来てたんだ。ねぇ、早くこっちに来てよ~)
(ああ、やっぱり私の事なくなったイエルハルド国の女王と勘違いしてる…違うって説明したらガロン悲しむだろうな。だってあんなに嬉しそうにしてるんだし…)
心の中は複雑だったが今は何より魔獣を退治することが先決だと思い直す。
「みんな怪我はないか?」
「はい、みな大した怪我はありません。それに聖女様が手当てをして下さったので」
リント隊長がちらっと私を見た。
その顔は余計なことをと言いたげだ。
「ああ、今回は彼女がいたが、いつもは違う。あまりあてにする事のないようにな」
「でも、聖女様は辺境に移って来られたんですよね?だったら…「聖女はすでに赤翼騎士隊員が迎えに来ている。王都に帰るのは時間の問題だ」そうなんですか…せっかく期待していたのに」
話している隊員に冷たい言葉が落ちた。
「でも隊長、こっちの騎士隊にも聖女様を常時置いてもらうよう頼んでるんじゃないんですか?いつだって神殿に依頼して来てもらってたんじゃ間に合いませんよ」
「そうですよ隊長。ここんとこ魔獣が出る回数はどんどん増えてるじゃないですか」
「ああ、だがうちにはガロンもいる。あまり無理は言えないだろう。他にも聖女が必要なところがある」
「それって聖獣の飼育ですか?」
「ああ、そうだ」
「聖獣も大切でしょうけど俺達だってこんなんじゃ溜まりませんよ…」
私はもっともだと思う。特にさっき魔獣と戦ったせいか聖女の必要さはひしひしとわかった。
(それにしてもさっきのが偶然なんですって言ったらみんな驚くわよね…言えないわ。絶対!でも、私は王都になんか帰る気はありませんよ)
そう思ったら…
「あの…私帰りませんから。私は辺境がここが、いえ、キルベートにいるつもりです」
私はついみんなの前でそう言った。
「おい、勝手なことを言うな。君は国王から帰るように言われてるんだ。その命令に背くのか!」
リント隊長がむき出しの怒りをあらわにして怒鳴る。
「でも、それはロイド殿下の婚約者と言う話で…そんなの無理な話で…隊長は私に死ねとおっしゃるんですか?」
リント隊長の眉がピクリと上がる。表情筋もヒクヒクとしている。
「おい、お前の頭はおかしいんじゃないのか?どうしてそうなる?次期国王と結婚なんだぞ。女はそう言うのが好きだろ!ったく、お前は余計な事をしてくれたよ」
(私おかしなことを言った?だってあんな男と結婚なんて私の心は死んだも同然じゃない。それに余計な事?あら、悪かったわね)
「ああ、それは申し訳ありませんでした。でも、皆さんは喜んでましたけど」
「だからそれが余計だって言ってるんだ!いいからとっとと帰れ!」
エクロートさんが前に出てきて私にまあまあと両手で肩をそっと叩かれる。
「まあまあ…その話は騎士隊に帰ってからゆっくり…ほら、隊員が引いてるじゃないですか。お~い、腹が減った。みんな飯にしよう。ほら、アリーシアが作ってくれたサンドイッチだ。早くとらないとなくなるぞ」
「あっ、食べます」「俺も‥」「おい、俺も」「待て俺も!」次々と隊員がサンドイッチに群がる。
私は急いでスープを器に入れる手伝いに入った。
エクロートさんが器を二つ取るとリント隊長の所に持って行った。
ふたりは少し離れた大きな木の根元に座って食事をするらしい。




