13リント隊長と婚約?
そこにリント隊長が入って来た。
「だめじゃないか。まだ起きちゃ」と声が下と同時に私の肩に手がふれて身体を押し戻されまたベッドに横になった。
「リント隊長…あのガロンは?」
「ああ、ぐっすり眠っている。もう心配なさそうだ。それよりアリーシア、君の方が心配だ。まったく。無茶をして…すまん。アランを助けてそしてすぐにガロンだ。君が参るのも無理はない」
リントは申し訳なさそうに頭を下げた。
「そんな。私が勝手にやった事です。気にしないで下さい。それよりお屋敷に運んで下さってありがとうございます。こんないいお部屋に申し訳ありません」
「いや、俺の方こそ、君を疑っていた。アギルの件は悪かった」
私はそう言われてほっとした。やっと隊長もわかってくれたんだと。
「いいんです。誰も平民の私の言うことなど信じてはくれませんでした。でも、今は信じて頂けるんですよね?」
「ああ、君は素晴らしい聖女だと思う。ただ…俺は貴族だからどうしても考えが偏っていると言われるかもしれないが、だが、さっきのように力は無限じゃない。そうなるとやはり貴重な聖女の力は限られたものに使うべきだと思うのは無理はないと思わないか?」
(でも、それは違ったようだ)
一気に気分が悪くなった。
「今は頭が痛いのでその話止めてもらえませんか?」
私は隊長に背を向けた。
「ああ、悪い。ゆっくり休んでくれ。今夜の食事もこちらで用意するつもりだから」
「……はい」
それからお茶が運ばれてきて私はお茶を飲むとまた眠っていた。
しばらく寝ていたのか気づいたらもう夕暮れが迫っていた。
「アリーシア。起きているかい?」聞き覚えのある声はエクロートさんらしかった。
「はい、どうぞ」
「やあ、気分はどうだ?」
「はい、おかげさまでもうすっかり良くなりました」
「それは良かった。ガロンの治癒さすがだ。それはそうとザイアス国王なんだが」
「はぁ、国王がなにか?」
エクロートさんは言いにくそうにしたがやっと言葉を出した。
「ザイアス王は本気で連れ戻す気です」
「でも、エクロートさんは私はここにいる方がいいっておっしゃいましたよね?」
「ええ、言いました。だから、あなたがここにいなければならない理由が必要なんです」
「そうですよね。それで何か手立てが?」
「ええ、婚約するとか」
「はぁぁ?」
私はエクロートさんを見つめる。そして彼を指さす。
「まさか。からかわないで下さい。私のような男が…でも、彼も年で言えばほとんど同じなんでしょうが…黒翼騎士隊長。あの人なら聖女アリーシアの申し分ない相手だと思いますが」
「リント隊長?無理です。絶対無理ですよ」
「いえ、誰も本気でと言っていません。彼も前の奥さんの浮気で結婚は二度とごめんだと吹聴していますので、これはあくまであなたをここに留めておくための芝居だと言えば彼も協力してくれるはずです。だってガロンを見たでしょう?あなたがいなければどうなっていたか…婚約の話をするなら今がチャンスなんです。どうでしょう?あなたさえいいと言ってくれれば…俺はすぐに話をするつもりなんですが」
「ちょっと待って下さい。いくら何でも急すぎます。一晩考えさせてください」
「ええ、一晩ですね。いいですよ。明日の朝返事を聞かせて下さい。では、ごゆっくり」
エクロートさんは部屋を出て行った。
あのリント隊長と婚約?あの人意外と頭固いし貴族だし子持ちだし…あっ、アランは可愛いから許せるとしても…絶対無理よ~。
私は頭から上掛けを被ってベッドに丸まった。
私は夢の事はすっかり忘れていた。




