11ガロン倒れる
そこへ慌てて聖獣の飼育員らしい男が駆け込んで来た。
「隊長!ガロンが…ガロンが大変です!」
リント隊長はがばりと立ち上がった。
「ガロンがどうした?」
「はい、どうやら悪いものを食べたらしく、苦しんでいます」
「苦しんでいるって!あなたたちガロンが何を食べたかわかる?」
私はリント隊長が聞くより前に飼育員らしい人に聞いた。
「実はガロンを描いたモザイク画が寄贈されて、それをガロンの獣舎に飾ろうと言うことになって…でも、忙しくて立てかけてあったんです。それが倒れてガロンに届くところにまで破片が飛び散ったらしくて、そのモザイクがの塗料がいけなかったのではないかと…」
塗料はいろいろあるがモザイクがなどに使われる塗料はどうしても鉱物を使う。青銅や鉄、ガラスでも使っていれば鉛も考えられる。糊付けには石灰などを溶いたものも使っているだろう。
「とにかくガロンの所に連れてって」
私は飼育員について走った。
後ろにはリント隊長もエクロートさんも付いて来ているだろう。
「ガロン!」
私は声高に叫ぶ。
ガロンはべったりお腹を地面につけてぐったりしている。私が呼んだ声が聞こえたらしくほんの少し顔を上向けた。
私はガロンに走り寄る。ガロンの周りに確かにモザイクタイルの破片が落ちていた。
「ガロン?これを食べたの?」
私は急いでその欠片をガロンに見せた。
ガロンは叱られるとでも思ったのだろう。
「きゅるぅ~きゅぅ」か細い声で、(何だろうって思って食べた)と言った。
そして怒られた子供がするように顔を隠した。
「いいの、怒ってるんじゃないの。手当をするのに知っておきたかったのよ。誰も怒ったりしないから」
「ぎゅぅ~」(苦しいよ~)
「ガロン、これには毒があるの。だから苦しいの。すぐに吐き出そうね。悪い毒を出せば良くなるから…」
私は飼育員にトコンがあるかと聞いた。
トコンは毒物などを飲んだときに使う催吐剤だ。
「あります。それで吐き出させるんですね?」
「ええ、急いで一刻を争うわ」
「すぐに」飼育員は急いで獣舎の外に飛び出す。
私はすぐにガロンの顔の真ん前に移動する。
「隊長。ガロンの口の中を見るから手伝って下さい」
「お前そんな事。危険だ。いくらガロンでも、いいからやめろ!」
隊長は驚いてしかめっ面をして私の手を引っ張る。
「恐いんですか?男のくせに…エクロートさんはどうです?手伝ってもらえます?」
じろりと彼を見るとエクロートさんに視線を移す。
「ああ、手伝おう。いいか、ガロンお前を助けるためだからな。大人しくしてろよ」
エクロートさんは何でもないと言う顔でガロンの前に立った。
「きゅ、きゅきゅるぅ~」(ほんとに?恐いよ~)
「ガロン大丈夫。私が絶対に助けるから!エクロートさんも手伝ってくれるんだよ。安心して」
私はガロンの顔をそっとさする。
ガロンが目をゆっくり閉じてうなずいた。
「エクロートさん私は右側から、あなたは左側から口を開いて行きますから」
「ああ、わかった」
「さあ、ガロン口の中を見せて…傷がないか見るだけだからね」優しく優しく声をかけてそっとガロンの口を開いていく。
口蓋が見えて来て私は覗き込んで口の中を確認する。(良かった。傷はなさそう)
「エクロートさんそっと下ろします」
「わかった」
エクロートさんは慣れた手つきでガロンを扱う。少し距離を取ったところでリント隊長が息を飲んでそれを見守っている。
「隊長、口の中は大丈夫そうです。後は催吐剤を飲ませて胃の中のものを吐き出させます」
「あの‥思ったんだが聖女の力でどうにかならないのか?」
「多分毒性のものは取り除くのが難しいかと…ただの熱とか腹下しなら治癒魔法で治せますけど、ここで治癒魔法を使っても一時は良くなるでしょうがまた毒中毒で苦しむと思います」
「そうか。知らなくて…悪かった」
「いえ、当然です。聖女の治癒魔法は何でも治せると思われてますから」
リント隊長は少し気まずそうな顔をしたが私はいつもの事なので割とさらりと言えた気がする。
(ちょっと生意気に見えたかも…ううん、今はそんな事で腕もいいガロンを…)
そこに飼育員がトコン混ぜ込んだ液体を持って来た。
「これですが…ガロン飲みますかね」
かなり強烈なにおいがする。ドクダミ並みいやそれ以上か…
「ガロンの好物は何ですか?」
「甘いフルーツですが」
「今の時期ならマンゴーとか?」
「はい、ここには温室があってあらゆるフルーツの木が植えてあります!すぐにもいで来ます」
(うそみたい。聖獣の事となると何でもやるんだ)
すぐにマンゴーが持って来られた。
私はガロンに声をかける。
「ガロン。マンゴー好き?ほら見えるマンゴーよ。でもね最初に薬を飲むのよ。そしたらこれをあげるからね。わかった?」
「きゅぅ」(苦しいよ~)ガロンはかなり苦しそうで元気のない返事をした。
(ガロン苦しいんだね)咄嗟に私は先にマンゴーを近づけた。
「ガロン。マンゴーだよ」
私はガロンの口を上げるとマンゴーを押し込む。
甘いマンゴーの香りが鼻腔をくすぐる。
「きゅうきゅう~」(甘いよ~もっと~)
ガロンは甘いもので少し元気が出たのかおねだりした。
「いい子ね。これを飲んだらあげるから…さあ、一気に飲むよ」
ガロンが顔を上げた。トコンの入った入れ物に口をつけて飲み始める。
「ガボ。ガボ。ガボ」
ガロンが強烈な匂いをものともせずそれを飲み込んでいく。
ほとんど飲み終わると私はすかさずマンゴーを口の中に押し込んだ。
「すごいよガロン。偉かったね。さあ、ごほうび…」
ガロンはマンゴーを数切れ食べると「おえっおえっおえっ…」と喉をひくひくさせ始めた。
「そろそろです。皆さん下がって下さい」
私の合図でみんなはガロンから距離を置く。
「おえっ!うえっ‥ごほっ、おうえぇぇぇ✖✖✖✖✖…」胃の中の物が一気に口から吐き出される。
みんなあっけに取られて身じろぎもせずそれを見つめる。
(すごい。すごすぎるガロン。いいぞ。よくやった。これできっと大丈夫)
私は一番に嘔吐まみれのガロンに駆け寄った。
「ガロン偉かったね。さあ、すぐに楽にしてあげる。けど…とにかく少し後ろに下がろうか」
ガロンはふらふらと立ち上がって後ろに下がる。
そして私はガロンに手をかざした。淡い光が手のひらから漏れ始める。
その光はガロンの身体を包み込むように広がってガロンを包み込んだ。
いつものように祈りを捧げガロンの回復を願う。
(神様どうか力をお貸しください。苦しかったね。ガロン。もう大丈夫だから、すぐに痛みは治まるからゆっくり休もうね…)
ガロンはうっとりした表情でゆっくり目を閉じていた。
「ぐぅぅぅ、ぐぅぅぅ…」
(良かった。ガロン痛みが引いたみたい)
「ガロンの奴寝たのか?こいつすっかり治ったみたいだ」
リント隊長が呆れたような声を出したと思った途端私は意識を失っていた。




