第2話 組織
都ノ杜市、住宅街。
「こちらカイト。現着した」
白装束に西洋の剣を携えたその青年は、誰かと通信をしながらあたりを見渡している。
粉々になった家々、舞う粉塵、少年の目の前では火災も起きている。惨状を目の当たりにした青年は眉間に皺を寄せ険しい顔つきとなる。
『こちらジュリジュリ〜。カイカイおつおつ〜。そっち状況どう?』
青年の耳に響く、女性オペレーターのギャルの様な明るい声色に砕けた言葉。
「ジュリ。任務中はその話し方はやめろと何度言ったらわかるんだ」
青年は怒りを滲ませ答える。
通信先の相手はジュリという女性。
『ぶ〜。わかりましたよ隊長さん。それで、そちらの状況は?』
先程の砕けた言葉をやめ、仕事モードの落ち着いた声色に真面目な言葉遣いになる。
カイカイこと、天羽戒人。能力者統治組織ディアシオン、超能力戦闘部隊隊長。17歳。
卓越した剣技に超能力を掛け合わせた戦闘スタイル、そして高校生離れした卓越した頭脳により、この年齢では異例の隊長となった逸材。
先刻受けたAクラスの危険不審者についての匿名通報と、住宅街を破壊し回る巨大男の市民からの通報を受け隊長直々に出動していた。
「こっちは見るも無惨だな。奇跡的に人的被害は無いようだが、すぐに人が住める様な状況では無い」
『そうですか……。速やかに超能力災害復旧部隊を派遣させます』
「ああ。それと住居を失った人たちの避難所の開設も依頼しておいてくれ。その件も含めてユウゴさんには俺からも話は通しておく」
『了解』
「あと今回の事件について何か追加情報は入っているか?」
『先程移動中に話をした家を破壊し回った巨大男は泉ヶ岳の山中で発見。意識は無いが命に別状は無し。全身が唐菖蒲の花びらに包まれており、身体中に無数の切り傷。傷口からはその花びらの成分が検出されています』
今カイトが居る住宅街から巨大男が発見された泉ヶ岳の山中までは10km近くある。
カイトは、足元に落ちている花びらを拾い上げる。
「状況からして、何者かがそいつを泉ヶ岳までぶっ飛ばしたんだろうな。花びらか……うちの組織にいる能力者では無いな」
『ええ、組織だけでなく市民で登録済の超能力の中にも、花を扱いこれだけの出力を誇る能力はありません』
「そうか。花の能力だけでなく、複数人、もしくは複合能力の可能性もある。その花の能力者に関しての情報は?」
『それが……今回避難していた住民の証言によると、そのあたりでは見かけない高校生くらいの子が逃げろと叫んでいた、らしく……』
ジュリは何かに心当たりがあるのか、歯切れの悪い様子を見せる。
「見慣れない高校生?」
『ええ、その高校生は避難所にもいませんでしたし、もしかしたらその人物が花の能力者ではないかと。監視カメラの映像も確認すると、顔はハッキリと見えませんが薄手のパーカーに長ズボンの高校生くらいの子が……』
相変わらず歯切れの悪いジュリ。
ジュリの言っている人物の正体に心当たりが出来たカイトは固く険しい表情から、さらに険しく一部に呆れを含んだ表情へと変化する。
「わかった。俺は少し行くところが出来た。現場の処理は災害復旧チームに任せる。ジュリは後方支援を頼む」
『分かりました……。ですがどこへ?』
「誰だか薄々勘づいているだろう。"アイツ"の元へ話を聞きにだ」
『了解……。あんまりトラブルは起こさないようにね。』
「ああ」
心当たりのあるジュリを尻目に、カイトは通信を切り颯爽と現場を後にしようとする。
しかし、彼の目の前に何かが表れる。
【キみ、ニんゲん?か?】
それは、人型をした影。
ボソボソとイントネーションもハッキリとしない声で喋る得体の知れない存在に、カイトは速攻で刀を構える。
「何者だお前は」
【ンん、カみ。キみの、ニく、肉体、あうト、オもうんダヨ】
「神だと? 生憎、俺はそんな存在もう信じていない。失せろ」
【そウか。シんじナクてモ、イいヨ。デも、キみの、ネガイ、カなエタく、ナイ?】
「願い? 急に何の話だ」
【コこ、ジャあ、オれの、声、トドかナイ。ハナし、シたイ、なラ、オくの、ほこラ、までコイ】
「……。良いだろう。くだらない話なら今すぐに叩き切るからな」
早急に"アイツ"の所へ向かわなくてはならないが、今目の前にいる神と名乗る存在は無視できないカイト。 願いを叶える。そんな今の詐欺師でも言わない謳い文句に、彼は不覚にも誘われてしまう
1人の少年の運命は、ここで変わってしまった。