表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風見鶏は強がっている  作者: 下横真尋
第1章 第1節
5/6

1話 『純太郎と異世界』

本編3,907字(空白・改行含まず)

読了推定時間約8分

 

「──い。……おい」


 声が聞こえる。

 男の人の声。

 神様じゃないことはわかる。


 オレは今、小刻みに揺れているらしい。

 左肩に違和感があった。

 ……肩を揺さぶられている?


「おい。おい、起きろって」


 荒げられたその声に驚いて、オレはハッと目を開けた。

 目の前には緑色の髪の男の人がいて、オレの左肩を掴んで揺らしていた。

 オレが目を開けると、男の人はフッと口元を緩ませた。


「よかった、気が付いたな。いくら呼びかけても全く起きねえから、呪いでもかけられたんじゃないかと心配したよ」

「あ……」

「ったく、こんなところで寝んなよな。なんか盗られたもんはないか? 確認しとけ」


 そう言われて、オレはズボンのポケットを確認した。

 だって確認するところがそこしかないし。


 あれ? オレ制服着てない。

 オレは学ランでも白シャツでもなく、黄緑色のTシャツに茶色いズボンを身に着けていた。


 オレこんなの着た覚えないよ。

 少なくとも神様と話してたときは制服のままだったし。

 でも男の人が無事かどうか待ってくれているから、今は持ち物を確認しないと。

 とはいっても、オレ別に何も──


「ん?」


 ポケットからカサリと音が聞こえた。

 紙切れが2枚入っている。

 表に取り出してみた。


 それは薄緑色の長方形の紙切れで、右側に筋肉質な男の人の絵が描かれていた。その人は目を閉じて、祈りのポーズで両手を組んで、顔を左側に向けている。

 紙切れには『1000』と文字が書かれていた。

 これってもしかして……


「……お金?」

「盗られてなかったじゃないか、よかったよかった。……そういや、名前は?」

「……(かざ)()純太郎(じゅんたろう)、です」

「言えるな。じゃ、気を付けて帰れよ」


 男の人はそう言って立ち上がり、スタスタとこの場から離れていった。

 私服に鎧を付け加えた服装をしていて、腰には剣……じゃない、刀を差している。


「侍……?」


 この世界の侍は皆西洋みたいな格好してんのかな……。

 てか侍ってこの世界にもあるんだ。


 オレはハッとして、急いでお金をポケットにしまった。

 次は本当に盗まれるかもしれないし。


 ──人が普通に刀を持って歩いているのに、周りの人は何も気にしていない。


 周りも周りで弓とか槍とか平気で持ち歩いている。

 髪色だって赤だったり青だったりカラフルだ。


 女の人でも鎧着てるし、男の人でもバチボコにメイクして超ロン毛の人もいる。

 身長1mもない爺さんが歩いている。ちっさ、日本の4歳児のほうがまだ高いだろ──ドワーフか? もしかして。

 えっ、じゃあ……猫耳とか犬耳とか獣人がザラにいる! 尻尾振ってる! かわいい〜!

 わーあの人の耳、めっちゃ(とん)がってる! エルフだ!


 へー……。

 こうやって見ると、明らかにファンタジーな世界だ。

 じゃあオレ、本当に異世界に来たんだ……。

 神様はたしか、『楽園』って言ってたっけ。


 本当に、始まったんだ……。

 オレがこの世界を救うっていう話が──所持金2000円でどうしろって言うの?


 明日の食べ物ぐらいならなんとかなるかもしれないけど、家とかどうするのさ。

 ひょっとしたら宿代の足しにもなんないんじゃない?

 あーでもRPGの勇者よりは持たされてるか。

 ……いやいや、だとしてもよ。


 オレ、次何したらいいの? とりあえず歩く……?

 さっきの男の人はあっちに歩いていったよね。


 どうしよう……行くところもないし、ついていってみる?

 一応オレこの世界の勇者ってことになるんだし、ついていったら何かしらの役には立てるかもしれないし……。


 ……もういい、野でも山でもどうにでもなってしまえ!

 風見純太郎、只今異世界で記念すべき第一歩を踏み出します!


「あの、すみません」

「はっ、はいっ!」


 後ろから声をかけられて、思わず裏返った声を出してしまった。

 顔が真っ赤になるのを感じながらおそるおそる振り返る。


 黒いとんがり帽子に大きな杖を持った、いかにもな魔法使いの女の子が立っていた。ファンタジーだなあ、すごい。

 年齢も身長も、オレと大体同じくらいだ。

 肩から下げたおさげがかわいいなあ。


「これ、落ちてましたよ」


 女の子の手には白い巻物があった。

 え、オレの? これ。


「あ……ありがとうございます」


 別にオレのものでもないのに、思わず受け取ってしまった。


「いえ。それでは、失礼します」


 女の子はそう言って頭を下げ、向こう側に歩いていってしまった。

 魔法使いなのに空飛ばないんだ……そういえば箒じゃなくて杖持ってたもんな。


 オレは巻物をまじまじと見た。

 どうしよう、これ拾っても別に……あ?

『風見殿』って書いてある。ってことはオレのか。

 もしかして『頼りになる助っ人の名前一覧の紙』って、これのこと? やけに仕事早いな……。


 オレは巻物をカパと広げて、中身を見てみた。

 あ、横書きだ。これ縦に開けるのか。



【目的】

 魔族  (せん)(めつ)

 泥の悪魔  討伐

 雷の悪魔  討伐


【討伐するまでの流れ】

※順序問わず


1.以下の全員と同盟を組む

・37魔道士

・44番人

・12守人

・46守護神

・6大賢者

・星の語り部

・72部族の長


2.7大魔女 討伐



 同盟を組む相手や魔女の相手がずらずらと書かれている。

 長すぎて読む気になれなかった。

 オレはくるくると巻物を巻き戻し、留め具で留めた。


 え、同盟を組めとか魔女を倒せとか聞いてないんですけど。オレ聞き逃したかな?

 全部の加護の話はどこに行ったの? 全然見えなかったんだけど。下のほうにあったりするのかな。

 2までしか見てなかったけど、もしかして3も4もあったりしないよね……?


 オレ、目的達成できるかな。

 そもそも神様はオレを元の世界に帰す気あんのかな。


 だって明らかに勇者レベル1のオレだよ?

 蚊1匹倒すことにすら苦戦してるのに、悪魔退治なんて到底できないよ……。


 …………よし、さっきの男の人についていこう。


 オレは巻物をバトンのように持って、あの人が行った道と同じ道を駆けていった。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 何回か分かれ道に遭遇したけど、とりあえず全部人の数が多い方向に進んでいった。


 ここはどうやら商業地域のようだ。

 服屋とか武器屋とか飲食店とか、現実とファンタジーの混ざった店が並んでいて面白い。


 あの男の人がどっかの店に入っていなければいいんだけど……。


 さっきの女の子のほうについていけばよかったかなあ。

 もしかしたらあの子がワンチャン37魔道士のうちの一人だったかもしれないし……流石にそれはないか。


 ……あ?


 ああ?


 前を歩いてるの、さっきの男の人じゃない?


 緑色の髪の毛に、黒い鞘と私服の鎧……。

 間違いない、さっきの人だ!

 なんという偶然! ありがとう奇跡!


 オレはうまいこと人を交わしながら、前の人を追った。


 あっ……でも、追いついたとして、なんて言おう。

「追われてるんです」? 「実は住むとこなくて」?


 いやいやおかしいでしょ。

 どうしよう、もう背中は目の前なのに……。


 すると、突然チャキッと音が聞こえた。

 こっち向く? と思ってチラリと見上げると、既に男の人が、訝しんだ顔をしてオレを見下ろしていた。


「……なんでついてきてんだよ」


 やっべ、こわい。

 さっきより声が低い。


 なんか言わなきゃ、なんか言わなきゃ。

 えっと、どうしようどうしようどうしよう……。


「え、えっと、オレ、行くとこなくて……」

「だったら家帰りゃいいじゃん」

「家には──」


 あ、オレ帰る家ないんだ。

 そう思った途端、急に胸がギュウッと締めつけられた感じがした。


「家には、もう、帰れなくて……」


 思わず声も小さくなって、つい下を向いてしまった。


 どうしよう、ついてこなきゃよかった。

 1人で手探りでどうにかすればよかった。怖い。


「ふーん……」


 男の人はオレのほうに体を向き直した。

 しばらくの沈黙が流れる。気まずい。


「ん? お前そんなの持ってたか?」


 チラリと男の人の顔を見てみた。

 男の人の目線は、オレの手の……巻物のところに留まっていた。


「あっ、なんだかこれも持ってたみたいで」

「ふーん。見ていい?」

「あっ、はい、どうぞ」


 オレは男の人に巻物を渡した。

 男の人はそれを横に広げ(あ、オレと同じ間違いしてる)、縦に向き直した。


「えっ」


 男の人はぎょっと目を見開き、次々と読み進めていく。

 巻物の途中で手を止め、男の人はオレの顔を見た。


「お前、天界から追放された天使だろ」

「えっ!? オレ天使!?」


 思ってもみなかったことを言われて、つい声を荒げてしまった。


「天使じゃなきゃこんな無理難題できるわけないだろ。全加護会得とか、6大賢者や46守護神と同盟を組むとか……(くう)(てん)・海底含めた全世界渡り歩かねえと達成できねーよこれ」

「そう……なの?」

「そうだよ。そもそも目的自体が悪魔の討伐と魔族の殲滅じゃん、どんな気起こせばこんなこと思いつくんだよ。俺も一応冒険者だしそういう心持ちはあるけどさ、こんなガッチガチな土台固めなんて、それだけで無理だよ。72部族ならギリなんとかなるかもしんないけど、全員なんて……どうやって知り合えってんだよ」

「オレに言われても……オレはただ、言われたとおりにやってこいって言われただけで……」

「だれに」

「神様──」


 あ、これ言ってもよかったのかな。


 男の人は巻物とオレを交互に見比べていき、だんだんと嫌そうな顔に変わっていった。


 すると、男の人は巻物をくるくると巻き戻し、ポンとオレに手渡した。


「返す」

「あ、ありがとうございます……」


 返されると受け取るしかなく、オレは両手で巻物を受け取った。

 男の人は空をあちこち見て、腕を組み、指をとんとん小刻みに動かした。そして大きく溜息を()いた。


「名前は」

「……風見純太郎です」

「飯は」

「食ってない……」

「あっそ。来い」


 男の人は背を向け、ずかずかと歩き進んでいった。

 当たり前だけどオレの歩幅よりもずっと大きくて、オレは小走りでついていくしかなかった。


 どこに連れていかれるんだろう……。


キャラクターの豆知識 その4

 風見純太郎


 風見純太郎は、野菜スープなどのあっさりした汁物が好き。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ