第411話 邪神ネメシス再び
聖水を持った冒険者たちが、魔獣を狩るため次々に都市に散らばって行く。騎士達は市民を守りつつ、戦いの音がする方向に誘導する。その先に、数体の鬼みたいなのに混ざり斑紫大蛇みたいなのまでいて、それに対峙している冒険者と領主と騎士団がいた。
アンナが言う。
「オーガ……進化するとあそこまでなるのか」
「マズいの?」
「オーガが三体。ヴェノム・エロシオン・バイパー。あの冒険者と騎士団では討てない」
「えーっと、エロ?」
そんな、やりとりをしているうち、騎士達が聖水を片手に突っ込んでいった。
「「「領主様!」」」
「あ、まって。だめ」
あらかじめ身体強化を、かけていればよかった。ツッコんだら、エロのデカい尻尾で弾き飛ばされる。騎士達はそのまま飛ばされ、周りの住居の壁を突き破る。
言わんこっちゃない。
すると、領主が俺達を見る。
「こ、ここは危険だ! 市民は近寄ってはならん!」
その声に反応して、エロとオーガが領主に向かう。
こりゃヤベえ。
「アンナ!」
「ああ!」
「ライトニングボルト!!!」
ビシャアアアア!
エロと、オーガに、強大な雷が落ちる。動きが止まったところで、アンナとリンクシルが飛びかかり、聖水をぶつけつつ領主を退けた。アンナがそのまま着地し、煙を上げてのたうち回る魔獣を見て叫ぶ。
「もっと聖水を!」
使用人らが柄杓で聖水をまき小さくなったところで、アンナとリンクシルがオーガとエロを仕留める。
「なんと……」
領主と、騎士達が唖然としていた。そのとき、俺の耳に突然小さく声が聞こえた。。
「おいおい……なんで、魔獣が戻った?」
「わからん。どうなってやがる」
ああ……あれだ。ステルスで、敵がどこかにいる。すると、シーファーレンが俺に耳打ちをして来た。
「聖女様……聖魔法をエリアで放てますか?」
「わかった」
俺が杖を掲げて、適当に考えた新しい名前の魔法を叫ぶ。
「エリア・ホーリー・スプレッド!」
まるでスプリンクラーのように、聖魔法があたりに飛び散っていった。聖魔法は、結構魔力を使うが、このくらいならば問題はない。すると散らばった聖魔法が、ある一帯に揺らぎを起こさせた。
「あそこです」
「ライトニング!」
ピシャアア!
そこにあった透明なヴェールが消え去り、デビドと長身の男、そして足無蜥蜴達が浮き出て来た。
領主が叫ぶ。
「なっ! どこから!」
デビドも叫んだ。
「くそ! なんで、こんなところに聖女がいやがるんだ!」
「聖女?」
男らの視線が俺に向いており、すぐさま、アンナが俺の前に立ちはだかった。
こっちもバレたか……。まあ、破れかぶれだ。
「あなた達の悪事は、いつどこにいても、まるっとお見通しだ!」
いきなり緊張感が漂って、敵も味方も身構えていた。
「クソが……東スルデン神国との小競り合いをしてたんじゃなかったのか」
「ああ。それは、優秀な士官らが何とかしてる。ようやく、お前達の尻尾をつかまえる事ができた」
一触即発となり、お互い睨みあう。だが、その時デビドが言う。
「ガジ……あいつがドペルを殺した敵だ」
「なんと……ただの見てくれだけの女ではないのか」
「侮るな。ネメシス様が一度封じられている」
「なるほどねえ」
デビドとガジ。こいつらをやってしまえば、ネメシスの活動は弱体化するはず。
「やるか」
俺が、魔法の杖を構えた時だった。ガジの側にいた足無蜥蜴の男が、いきなり大きくなり始めた。
「また……ネメシスの血」
ガジが動くほどに、次々に足無蜥蜴の下っ端が変わっていく。いきなり動揺し始める、下っ端たち。
「な。なんで、俺達を!」
「馬鹿野郎。お前達は、俺達を守る駒だろうが!」
「そ、そんな!」
チンピラたちが、ガジから放れようとした時だった。
「パペット・テラー」
ガジの魔法に、チンピラが動きを止めこちらを睨みつける。ガジは次々、ネメシスの血を打ち込んで、バケモノたちを作り始めた。
「いけ!」
「「「「「うおおおおおお」」」」」
変わり果てた手下が飛びかかってきたところで、シーファーレンが叫ぶ。
「ありったけの、聖水をかけてください!!!」
仲間と市民が、柄杓で聖水を投げるようにかけ始める。かかった奴らが、収集と煙を上げ始めた。
「操られてます!」
シーファーレンが叫ぶ。そこで、領主が叫んだ。
「止めろ! バケモノを市民に近づけさせるな」
「「「「「おおおおおお!」」」」」
そこで、乱戦になってしまった。
「もっと、聖水を!」
乱戦になっているところに聖水がかけられ、少しずつ弱体化してチンピラたちが切り伏せられ始めた。アンナが、俺の前に立ち言う。
「しまった! 奴らが逃げた!」
いつのまにか、デビドとガジが居なくなっていた。チンピラたちを盾にしている間に、逃げたらしい。そこで俺は、声を張り上げる。
「敵が逃げた!」
チンピラたちが次々に倒される中で、領主や騎士達があたりを見渡す。
「逃がすな!」
また騎士達が、追いかけ始めた時だった。
ゴン! ゴゴゴゴゴ!
地鳴りがして、地震が置き皆が足をとられる。
「地震?」
ズン!
街道の一部に、いきなりクレーターが出来上がり、ひび割れて落ちていく。
「な、なんだ!」
「地割れだ!」
「どうなっている!!」
ピタッと地震が止み、シーンと静寂が流れる。
「な……なにこれ」
だが、また揺れ始めた。
ゴゴゴゴゴゴ! パリン! グシャ!
ガラスが割れ、脆弱な建物が崩れる。するとその時だった。
オオオオオオオ! と呪詛のような声が響き渡り、皆が耳を塞いだ。
俺が叫ぶ。
「何か来る!」
クレーターになった地面が、ボゴンと膨らんで、いきなり巨大な黒い手が出てきた。
あれは……。
「邪神だ! みんな! 逃げて!」
いち早く察知した俺が叫ぶと、市民達は一目散に下がっていった。俺とシーファーレンが杖を構えて、アンナとリンクシルが剣を持つ。
「ぐるるるるる! ぐるるるるる!」
ヒッポが恐怖で怯え、マグノリアが必死に押さえつけていた。
「大丈夫! 大丈夫だよ! ヒッポ!」
巨大な手に続いて、ズルっと黒い体が這い出てきた。巨大な真っ黒い顔が、牙をむく。
「聖女……お前は、どこまでも邪魔をしてくれる」
あまりにもデカくて、恐ろしい顔だが、何故か恐怖はそれほど感じない。
「みんな! まだ、完全に復活してない! こいつは、未完成!」
騎士達も後退り、市民達には腰を抜かす者もいる。
「まだ……貴様と戦う時ではない……」
ズルゥ! と体が出て来ると、前と違って蝙蝠の羽のような物が生えていた。
何か……前世の漫画でも見たなあ。成長するごとに、体が変わる奴。
全身が現れるが、以前より小さいようだった。だが、龍くらいの大きさはある。
「どうする? 聖女!」
「市民を巻き添えにする! 領主様! 私達が足止めをするから、皆を逃がしてください!」
「わ、わかった!」
領主が動いたのを見て、俺は魔法の杖に魔力を込めた。
「サンダーボルト!!!!」
バッバッバ! と放射状にネメシスに向かって、雷が発せられる。一瞬動きを止めたように見えるが、こいつにはさほど効かない事は分かっていた。
「アンナ! リンクシル! シーファーレン! いくよ!」
四人に身体強化をかけ、突撃していく。俺がサンダーボルトを撃ち、シーファーレンが火の玉を撃ち、アンナとリンクシルが斬りかかった。
「あれは……」
ネメシスの狙いは俺達には無く、大きく顎を開いて、黒い液体を仲間達に向けて吐き出した。
「ヤバ!」
身体強化で走り、仲間達の前に立つ。
「聖結界!」
結界にぶつかった黒い液体が、とびちりあたりに散らばると、騎士達の一部にもかかってしまう。
「う、う、うがあああ」
「おおおおおお!!!」
これはヤバイ。
アンナとリンクシルが素早くネメシスの足元に斬りかかり、何度も蹴散らされそうになりながらも、ダメージを与え、シーファーレンが火魔法を打ち込んでいた。仲間を守りながらでは、俺が参戦出来ない。
「みんな! 逃げて!」
「そう言う訳にはまいりません!」
真面目なソフィアが叫ぶ。
アンナとリンクシルは素早く黒い液体を避けつつ、シーファーレンは結界で守っていた。
ヤバイな……。魔力がほとんど無くなるけど、あれ、やるしかないか。
俺は魔法の杖を掲げて、魔力をため込んでいく。雷と電磁が溜まり、粒子が俺の周りに集まって来た。
「せ、聖女様!」
うう、ごっそり魔力が抜けていく。するとソフィアが、仲間達に言う。
「みなさん! 聖女様に祈りを!」
仲間達が跪き、祈りを捧げる。
すると……。
「ん?」
なんか、力が漲ってくる。……なんで?
光の粒子が、どんどん光り輝いて来る。
「アンナ! シーファーレンを抱いて飛んで! リンクも逃げて!」
バッ! と俺の指示に従い、アンナがシーファーレンを抱いて飛び、リンクシルが避けた。
「レールガン!」
ズドン!
俺の杖から、光の塊が物凄いスピードで飛び出し、ネメシスのどてっぱらに穴を開ける。
「ウギギギギギ!」
腹に穴をあけたネメシスが、黒い血を噴き出してる。思ったよりも、物凄いエネルギーが放出された。だが、俺も膝をついてしまう。
「聖女様!」
ソフィアが支え、仲間達が周りを囲んだ。
「し、仕留めなきゃ……ネメシス。逃がさない……」
「無茶です」
俺たちの前から、結界が消える。するとネメシスは黒い血を、こちらに飛ばして来た。
「やば」
そこにシーファーレンとアンナが戻ってきて、俺の代わりに結界をはった。それで仲間達が守られる。
バサッ!バサッ!
体に穴をあけたネメシスが、羽を広げて叫ぶ。
「忌々しい……。忌々しい女……」
その両手には、デビドとガジが掴まれていた。
「逃げられる……」
「見ておれ……」
そう言い残して、一気に空中に飛び上がった。そしてネメシスは、南に向かって飛び去って行った。
そして俺が言う。
「黒い血を浴びた騎士達に、聖水を。早く……」
仲間達が、聖水を汲んで騎士達のところに駆けつけていく。俺は、ネメシスを逃してしまうのだった。




