第410話 魔獣を弱体化して市民を救う
聖水を積んだ荷台をヒッポに繋ぎ、門の外に出た。逃げ惑う人、逃げ遅れた人はいっぱいいるようだ。俺達と領主の使用人たちが荷台を引いて外に出ると、それに気づいた魔獣がこちらを振り向いた。
「あ。気づかれた」
そこで、シーファーレンが言う。
「聖水の出番です!」
ドドドドド! と走り寄って来るのは、デカい緑のゴブリン。
「キングゴブリンだ」
「投げてください」
瓶に詰まった聖水を、リンクシルが投げつけたところで、シーファーレンが石魔法で割る。
バリン!
バッと広がった聖水が、キングゴブリンにかかると、突進をやめて顔を押さえて転ぶ。
「うがあああああ」
バタバタしている。そうしていると、シーファーレンが言う。
「もう一瓶!」
アンナが投げつけて、またシーファーレンが割り、飛び散った聖水がキングゴブリンにかかる。
「煙出てる……」
「やはり、間違いないようです。あれは、ネメシスの血が入っています」
シュウシュウと煙を出して、だんだんとその体が縮んでいった。そのまま、小さなゴブリンに変わり、ぼたぼたと口から黒い血を流しながら、はいずり始める。
「この調子で行きます! マグノリア! ヒッポには魔獣をかじらせないで。ネメシスの血は危険です」
「はい! ネメシスの血を飲んじゃ、だめだよ!」
「ぐるぅぅぅぅ!!」
荷台を引いて行くと、路地裏から大きな狼が突進してくるが、聖水を投げつけたことで苦しみ出す。そうしているうちに、縮みだして普通の犬くらいの大きさになった。同じ様に、黒い血を吐き出している。
そこで、俺が言った。
「よし! このまま、騎士団のところまで行く! これを騎士団に渡そう!」
「「「「「はい!」」」」」
魔獣が出て来ては、聖水をふりまいて突進を止めた。逃れた奴は、アンナやリンクシルが食い止めて、そこに仲間が聖水をふりまいて行く。
「主級の魔獣ばかりだ」
アンナが呟いた。どれも小さな魔物だが、ネメシスの血で種族の最上ランクに成長してしまうらしい。こんな物が溢れてしまっては、冒険者や騎士団だけでは対応しきれないだろう。逃げてきた市民の女に、声をかける。
「こっちにおいで!」
最初はヒッポにびっくりして止まるが、俺達が平気な顔をしているのを見て走って来る。
「逃げ遅れた人は?」
「まだ、あっちにいっぱいいました!」
「あっちね!」
ヒッポと荷馬車を囲むようにし、言われた方向に向かっていく。すると、建物の入り口を殴りつける、裸のデカいのがいた。教会でもみた、トロールってやつだ。
「あの中に逃げてまず! でも! もうドアが持ちません!」
ピイイイイイ!
ルイプイが、指笛で音を出すと、そのデカ物はぐるりとこちらを向いて、ドスドスと走って来る。
「今だ!」
聖水をかけてやると、バタバタ苦しみだして縮んでいった。それはひょろひょろの魔獣になり、黒い血を吐き出している。襲われていた建物に近づいて、ウェステートが大きな声で言う。
「助けに来ました! もう大丈夫です!」
しばらく待っていると、ドアが開いて人が顔を出す。
「本当ですか?」
「はい! あれは、私達が使役している魔獣です! 守ります! ここにいてはだめです」
身なりの良いウェステートに言われ、隠れていた人が次々に出てきた。六人ほどが隠れていたようで、その人らにソフィアが言う。
「手伝ってください! あの魔獣は、悪い血で凶暴になっているんです」
「悪い血?」
すると、領主邸の使用人が言う。
「そうだ。これをかけると元に戻る! 手伝ってほしい!」
そう言って、柄杓を渡されて行く。荷台に乗せている水瓶を指さして、説明をした。
「ただ! この魔獣のそばを離れないで!」
「「「「はい!」」」」
市民達を連れて、更に争いの音がする方向に進んでいく。そこで、俺が言う。
「まただ。もうすぐ破られそう」
ある建物が、魔獣に襲われている。
「こちらにおびき寄せて」
「おーい!」
「こっちこっち!」
「お前の相手はこっちだよ」
すると、それに気が付いた魔獣がやってきて、聖水をかけると、また苦しみだして小さな魔獣になる。小さくなっていくのを見て、今まで助けられた市民達も、その状況に納得したようだった。
「助けに来ました!!」
マロエとアグマリナが、市民達を開放する。それから次々に人を増やしながら、突進して来る魔獣を、聖水で戻して行った。
「騎士団が戦ってる!」
騎士団が魔獣を相手に、悪戦苦闘しているところに出くわす。
「アンナ! リンク!」
二人が聖水の瓶を持ち、突進して魔獣に投げつける。怯んだところで、ジェーバとルイプイが柄杓で、聖水をふりまき始めた。
「なんだ! 魔獣が縮んでいくぞ!」
俺が駆けつけて、倒れた騎士の真ん中に進み、魔法を発動させる。
「エリア・メギスヒール!」
パアア! 光り輝き、倒れていた騎士達が起き上がり始めた。自分達の体を見て、不思議そうな顔で剣を拾い直す。
そこで、ミリィが大きな声で言う。
「助けに来ました! あの魔獣には聖水が効きます!」
「そのようだ」
使用人が言う。
「彼らが助けてくださいました! 騎士様! 領主様の下へ!」
「うむ!」
再び進み始めると、行列に気が付いた魔獣が、こちらに突進して来る。だが柄杓の聖水をかけられて、苦しみ縮むところを、騎士達に討伐されて行く。角を曲がると、より一層大きな戦う音がした。
「ワイバーンか!?」
デカいワイバーンを囲んで、冒険者達が四苦八苦しているところだった。
「ライトニングボルト!」
ビシイィ! と、俺の雷に打たれたワイバーンが動きを止める。
「いまだ! 聖水を!」
どばどばと聖水をかけていくと、シュウシュウと音を立てて、小さな飛竜に変わった。人も乗れないような小さな飛竜に変わり、冒険者達が難なく討伐した。
「どういうことだ!」
「これは邪神の血によって、強化された魔獣! 聖水で弱体化が出来る! 水瓶に大量に聖水がある! 剣士は剣に拭きかけて! 弓使いは矢に聖水を! 戦士は斧に!」
「「「「おう!」」」」
そして俺は、倒れた冒険者の中心に立つ。
「エリア・メギスヒール!!」
治った冒険者が、ムクリと起き出した。
「な、突然治ったぞ!」
主級を相手にし続けるのは辛いが、聖水で戻った雑魚モンスターならどうにかなるはずだ。それから、次々に魔獣が襲い掛かって来るが、聖水で弱体化すると、面白いほど簡単に仕留める事が出来た。
俺が一人の、笛を持った騎士に言う。
「その笛を吹いて! 魔獣を呼び寄せて!」
ブオオオオオ!
すると、その笛を聞きつけて、周辺の魔獣が集まって来る。
「みんな! 聖水を!」
柄杓ですくい取った聖水をかけて、騎士や冒険者達が討伐していく。あらかた魔獣を倒したところで、俺が再び号令をかけた。
「すすむよ!」
「「「「「「はい!」」」」」」
シーファーレンの作戦は、きっちりハマった。次々に魔獣を討伐し、その人数はどんどん増えていく。みなが建物などから回収した柄杓を武器に、次々に魔獣を弱体化していく。倒れている人を見つけては、回復魔法をかけていくが、残念ながら息絶えている人もいた。
「急ごう」
皆が頷いて、団結しながら進んでいくのだった。




