第409話 都市を救うために仲間と合流
正門に近づくにつれて、物凄い人の数になって来た。都市に突然、魔獣が現れた事で避難する市民が殺到しているのだ。我先にと急ぐ人々の中に、しゃがみ込んで泣いている子供がいた。
「お父さんかお母さんは?」
俺が声をかけると、少女がこちらを向く。
「ぐすっ、はぐれ……ちゃった……」
女の子か……放ってはおけない。
「おんぶしてあげる」
「う、うん」
俺が言うと、アンナが背を出そうとする。だが、そこで俺は首を振る。
「魔獣が出るかもしれない。アンナの手が塞がれば対応が遅れるけど、私の魔法の杖なら片手で使える」
「わかった」
そのまま人ごみの中を進んでいくと、門のあたりはもうぎちぎちに行列になって進めないようだった。我先にと駆けつける人々が押し合っているが、騎士がいないので整理する人もいない。
「これは……」
「マズいな」
俺達が、その列から外れようにも人がいっぱいで、思うように進めなかった。
「きゃぁぁぁぁ」
「うわああああ!」
「にげろおおお!」
市民達が、ぎゅうぎゅうになっているところに、デカいゴリラのような魔獣が突撃してきた。それが、市民を掴んでは投げ飛ばし、どかどかと暴れはじめる。
「やば!」
アンナが飛び、ズン! と脳天から剣を通して魔獣を倒した。よりいっそう市民達がパニックになり、一斉に門へと殺到し始める。すると、ドミノ倒しになって、動けなくなるような市民もいた。
「これは……」
アンナが戻ってきて言う。
「あちこちでこんな被害が出てるぞ」
「とにかく、外に出なくちゃ。皆の助けがいる」
すると、おんぶしている子供が言う。
「出れるところある」
「えっ? ホント」
「あっち!」
指をさしたのは、門とは反対側の方向だった。
「そっか。じゃあ行こうか」
「うん」
子供に案内されて、人が逃げていなくなった街を進んでいく。あちこちでは、戦いの音が聞こえるが、ここまではまだ魔獣が来ていない。
「こっち」
そして俺達が、少女に言われるままに行くと、雑木林が近づいて来るが人が通っている様子はない。
「この奥」
雑木林を走り抜けると、その先に市壁が見えてくる。
「崩れてる」
「本当だ」
どうやら、子供はこの事を言っていたらしい。大人は、おそらく腹ばいにならないと通れない大きさ。先にアンナが抜けて、子供が後に続く。最後に俺が入っていき、後を追うようにほふく前進をしていく。入り口を、頭が抜けた時だった。
ムギュ。
あ……尻が。
「アンナ。お尻がつっかえった。ひっぱって」
「わかった」
グッと力を入れて引っ張られ、少しの抵抗の後に、ポン! ッと抜ける。
「ふう……」
「良かった。つまらなくて」
「だな」
「ありがとうね。出れたよ」
「でも……おかあさんが」
「まずは、都市内は危ないからね。皆がいるところまで行こうか」
「うん……」
俺達が門の方に向かうと、次々に逃げ出した市民達が、列をなして進んでいる場所にでる。とにかく、この子の親を探さなきゃならない。
「どこかな」
「ここから探すのは時間がかかる」
「こうしているうちに、都市は酷いことになるね」
俺はしゃがみ込んで、少女に行った。
「後で探すから、まずは一緒にいこうか?」
「……怖い」
「大丈夫。私達は強いから」
「わかった」
俺達は、街道を離れて草原に入っていった。
「こっち?」
「そう、こっち」
そして草原の、奥に進んだところで、ヒッポの笛を吹く。もちろん、音はしない。
「酷いね」
「まさか、地下に魔獣の巣窟があるとは」
「ネメシスで強化してたしね」
「ネメシスの血で、あんなことが出来るとはな」
「ピロオオオオ!」
「来た」
空からバサバサと翼をはためかせて、ヒッポと馬車が降りて来る。
「ご無事で!」
「よかった。みんな無事?」
「こちらは、待ちくたびれておりましたわ」
シーファーレンが、手を差し伸べ俺達がヒッポの馬車に乗り込んだ。
「町が騒がしいようですが」
「地下に魔獣の巣窟があってね。そこから、スタンピードが始まった」
「なんと……」
「そう。しかも、魔獣を連れて来て、ネメシスの血を与えて強化してた」
「そんな事を……」
「なーんか、嫌な予感するんだよね」
「敵がここにいた事は確認しましたし、離脱してはいかがでしょうか? 援軍が必用では?」
「それが……」
皆の視線が、助けてきた子供に向かう。
「この子は?」
「親とはぐれて、しゃがみ込んでいたところを助けてきた」
「では……置いて行くわけにもまいりませんね」
「そうなんだよね。それに、なんかが起きる前触れだと思う」
「わかりました」
そして俺が、マグノリアに言う。
「たぶん。領主邸は堅牢な壁に囲まれてたから、魔獣の襲撃を免れていると思う。そこに行って」
「はい!」
ヒッポが羽を広げて、大空へと舞い上がった。だが、都市の上空には、大型の鳥の魔獣が飛んでいる。まるで、得物を探すように地上を狙っている。
「撃ち落とす! 近づいて」
「はい」
ヒッポと馬車が近づいて行くと、それに気づいた鳥の魔獣が向かって来る。馬車から身を乗り出して、魔法を発動した。
「ライトニング!」
パシィ! 数羽の鳥の魔獣が落ちていく。そして、そのまま領主邸に着陸した。
使用人たちが、慌てている。
「魔獣が入って来たぁぁ!」
俺が出て、使用人たちに告げる。
「領主様と、騎士が魔獣の駆除に奔走している! 危険だから、ひとまずここにとどまった方がいい!」
「なんと……」
いずれにせよ、都市内は既に魔獣が跋扈している。外に出れば、使用人たちは襲われてしまうだろう。外に出れた市民は良いが、逃げ遅れた人々も襲われているはずだ。
「あの魔獣達を、どうにかするしかない」
そこで、シーファーレンが言う。
「恐れ入ります聖女様。あの魔獣達は、ネメシスの血を入れられたのですよね」
「そうだ」
「ならば、清めの聖水が効くかもしれません」
「聖水?」
「はい。聖女様が浄化されれば、それは聖水になります」
なるほど、そう言えばそうだ。教会でもそんな事をやったことがある。俺は、使用人に向けて聞く。
「井戸は?」
「こちらです!」
大急ぎで台所裏に向かうと、屋根付きの井戸がある。これは、この城の飲み水になっているのだろう。中を覗き込むと深く、下の方に水が溜まっているのが分かった。
「聖女様。こちらを」
するとシーファーレンが、白い大理石で出来た、小さな女神フォルトゥーナの像を差し出してくる。
「祈りを!」
その像に、聖魔法をかけると青白く輝き始める。それを、井戸のバケツに入れてスルスルと下ろして、水の中に沈めてやった。
「では! 聖女様! 聖なる祈りを! 井戸に!」
「井戸ごと?」
「はい」
俺は、井戸の奥底に向けて、聖魔法を発動させた。すると、井戸自体が、ほうっ! と青白く輝いて、少し経つとその光が収まる。
「聖水が出来ました!」
そこで、俺が言う。
「みんなで水を汲み上げて!」
使用人の、執事が言う。
「わかりました。では、みんな! 手分けして組むぞ! たらいを持ってこい!」
「「「「「はい!」」」」」
メイドがたらいを持って来て、そこに組み上げた聖水を集めていく。次々にたらいがいっぱいになり、水は澄み渡り、ほんのりと魔力を感じた。
「瓶と水瓶をもて!」
使用人たちが、ありったけの瓶を持ってくる。仲間達みんなで、瓶に柄杓で聖水を注ぎ込んでいった。
「効くかな」
するとそこで、ソフィアが言う。
「聖女様……これを私は夢で見ました……」
デジャヴか……予知だな……。
「どうすればいい?」
するとソフィアが、仲間達に言った。
「十三使徒の皆様! 祈りを捧げるのです! あなた方の真価が、ここで問われるのです」
俺を筆頭に、全員が聖水と瓶を囲んで祈りを捧げる。
「女神フォルトゥーナよ……私たちに、ご加護を授けてくださいまし」
ソフィアが言うと、皆も同じように唱えた。
その時だった。
パアアアア。
「な、なんだ?」
俺の体が、突然青く光り出す。まるで内側から光が漏れるかのように、十三人の祈りが重なるほどに、俺の中に力が溜まっていくのが分かる。
「もっと! 祈りを!」
ソフィアが言い、アンナまでもが祈りを捧げる。
パアアアア。
ヤバ……なに、このエネルギー。変なんだけど。
するとたらいに移る、俺の姿が元の聖女に戻っていた。変装は解けて、修道服が露わになる。
「聖女……さま」
すると、使用人達が、跪き俺に祈りをささげ始めた。
そこで、シーファーレンが言う。
「この聖水を持って! 都市の、魔獣達に振りかけるのです!」
「「「「「はい!」」」」」
皆が瓶を両手に持って、準備を始めた。使用人達もメイドも、皆がその瓶を手にしている。
俺が聞く。
「ソフィア。これで、良いのかな?」
「夢では。ここまで、あとは分かりません」
それを聞いて、シーファーレンが言う。
「間違いございません。聖女様が地下で見たものが、本当なら効きます」
「わかった! みんな! 行くよ!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
皆が、瓶を持って、使用人たちが荷馬車に水がめを積んで、皆が柄杓を持っている。門の前に並んで、全員に告げる。
「どうなるか分からない! だけど、やるしか市民を救う道はない」
皆が頷く。
「門を開けて」
そして門番がガラガラとハンドルを回し、ゆっくりと門が開いて行くのだった




