第407話 魔獣による足止め、そして敵幹部に遭遇
その先の更に治安の悪そうな場所に、頑丈そうな建物がそびえ立っている。高い壁に囲まれているが、一部が破られて穴が開いていた。そこに騎士が倒れており、確認するが、もう死んでいるようだった。
「死んでる」
「無策で飛び込むのは危険だな」
だが、俺達が話しているそばから、一緒に来た騎士達が飛び込んでいった。
「そんな、無造作に……」
ドン!
一人が吹き飛ばされて出て来る。フルプレートメイルがひしゃげて、口から血を噴き出していた。
「ヒール!」
傷は修復したが、すぐには起き上がれないようだった。
「なんかいる」
穴から中を覗くと、そこにデカい体の緑の奴がいる。
「何あれ?」
「ゴブリンキング」
「また、魔物か」
「凶暴になっている」
周りを騎士達が囲んでいるが、全く手が出ないようだ。
「私が」
「いや。大したこと無い。さっさとやる」
そう言ったアンナが、魔獣にジャンプをして着地する。すると、ずるりとゴブリンキングの首がずれ、ごとりと地面に落ちた。シュウシュウとゴブリンが縮み、一回り小さくなる。
「行くぞ」
俺はアンナの後ろを追いかけ、建物の方に向かう。アンナが止まり、スンっと鼻を鳴らした。
「まだ、何かいるな」
「魔獣?」
「かもしれん。後ろをついて来てくれ」
「わかった」
アンナの後ろを恐る恐る進むと、角で立ち止まり先を見る。
「いた」
そこには、大きな蜘蛛がいた。後ろからついて来た騎士が言う。
「早くお館様を!」
「まて!」
また静止を聞かずに二人の騎士が、その蜘蛛に飛びかかった。騎士は、寸前でぴたりと動きを止める。
「いかん!」
次の瞬間、なんと血しぶきを上げて、騎士がバラバラにちぎれて床に落ちる。
「うわ」
「糸だ!」
飛び出したアンナが、糸の攻撃を掻い潜りながら大きな蜘蛛に接近し、一瞬でバラバラに切り刻んだ。バラバラになった死体を避けながら、俺が進むとアンナが言う。
「とんでもないのを持ち込んでいる」
「凄く、危険じゃない?」
「ああ。だが、何かがおかしい。見て見ろ」
蜘蛛の残骸を見ると、小さくなったように見えた。俺がしゃがみ込んで、残骸を拾い上げ臭いを嗅ぐ。
「これ……教会で暴れてた人間と同じかも」
「ネメシスの血か」
「多分、血を入れられてる」
「魔獣にか」
「それで、強化してるんじゃないかな」
「それはまずいな」
ネメシスの血は、力を増強し狂わせる力があるようだ。ヒストリア王国でも、邪神の影響で狂った人間を見て来たが、こんな風に完全におかしくなることは無かった。
「直接血を入れると、とんでもないことになるのかも」
「本体が、いるか?」
「わからないけど、注意深く進もう」
「わかった」
俺達が先に進み、部屋の扉を開けると、そこには地下に続く石階段が見える。
「地下だ」
「そのようだ」
俺達は、その縁にしゃがみ込み暗い地下を見る。アンナが立ち上がり、窓際に言ってカーテンを破く。そして部屋の壁にある、火を灯す鉄の松明をとり、その先に巻いた。
「火をつけてくれ」
「わかった」
パシィ!
先の布に火をつけて、ゆっくりと階段を降りていく。すると、石廊下が奥まで続いていた。
「なんか、あからさまに怪しいね」
「血の跡が続いているな」
見れば石廊下に、黒い斑点がポタポタと続いている。
「この先に逃げた?」
「どうするか」
「確認しないと」
湿っぽい通路を進むと、地下水路のようなところに出てくる。アンナが俺を抱きかかえて対岸に飛ぶ。
「血の跡が消えてる?」
「いや……濡れている」
濡れた数人の足跡が転々と続いており、その先に進んでる。
「なーんか、嫌な予感がするから、身体強化を」
「ああ」
身体強化をかけたことで、視界がクリアになる。先まで見えるが、通路の先に何かがいる様子はない。
「行こう」
「わたしが、先に行く」
アンナが先に警戒しつつ進んでいくと、先から声が聞こえてきた。
「お館様を離せ!」
通路の陰から先を見れば、数人の騎士が立ち止まっている。その先に、誰かがいて、俺達はそいつに見覚えがあった。
「あれは……」
「デビド……」
デビドが奥の岩場のようなところに座っており、その前に魔獣に捕らえられた領主がいた。数体の猿のような魔獣が領主を捕らえ、騎士達と向き合っていたのだった。
「操ってるのか……」
デビドを追い詰めた現場に、丁度俺達が来たらしい。
「くっくっくっ」
「くそ! お館様を救え!」
騎士達が飛びかかるが、魔獣の攻撃に吹き飛ばされる。
「変に刺激したら、領主は殺されるな」
「だねえ……」
領主を人質に取られている以上は、不用意に攻撃できない。
だが領主が言う。
「私に構うな。そいつを捕えよ!」
ギギギ!
魔獣が領主を締めあげて、言葉を発せなくした。
「さてと……」
デビドが立ち上がった。無造作に降りて来た次の瞬間、三人の騎士の首を斬り飛ばしていた。
ドサドサドサ!
やっぱ……。
暴風のようにデビドが暴れ始め、次々に騎士達を殺して行った。
「アンナ。アイツを止めれる?」
「問題ない」
「私が領主を救うから、止めていて」
「わかった」
「三、二、一」
俺とアンナが、そこに飛び込む。騎士に振り下ろした斧をアンナが受け止めた。
ガキィ!
俺が魔獣に接近し、次の瞬間魔法を放つ。
「ライトニング! ボルト!」
バシィ!
猿たちが煙を上げて、倒れ込むのと一緒に領主も倒れた。そして俺は、すぐに領主のところに行って、体に手を当てる。やはり、心臓が止まってしまっている。
「蘇生!」
パアッ! と輝いて、次の瞬間、領主は息を吹き返した。
「領主様。大丈夫ですか?」
「はっ! 君は……」
「立てますか」
「あ、ああ」
嫌だけど、とりあえず肩を貸して起こす。魔獣から離れると、剣と斧がぶつかり火花を散らしていた。
「なんだあ! てめえ!」
デビドは、アンナの力に圧倒されている。
いや……身体強化を受けたアンナの攻撃を、辛うじてしのいでいる事のほうが、デビドの力量が普通じゃないと分かる。
バシュッ!
アンナの剣が、デビドの腕を斬り裂いた。
「ぐあ!」
アンナを蹴り飛ばすようにして、距離を取るデビド。
「な。領主が逃げただと……」
振り向いて、魔獣達が倒れているのを見る。
そこで、領主が言う。
「観念しろ! 袋のネズミだ」
「……」
とはいえ、騎士達がほとんど殺されて残り僅か。頼みの綱は、アンナと俺しかいない。そして相手は、あのネメシスの使徒デビド。このままで済むわけが無かった。
次の瞬間、デビドの口角がにやりと上がる。
ドゴン!
岩の壁を突き破って、丸まった何かが突然、突入して来た。咄嗟にアンナが俺のところに来て、庇う。俺がその上から、結界をはって岩を弾いた。
「なんだ?」
「甲殻蜥蜴だ……」
丸まっていた奴が広がると、それは蜥蜴の形になった。尻尾をブンと振り、騎士が飛ばされてしまう。土煙が上がり、次の瞬間デビドの姿が消えていた。
「穴に入って行った!」
俺達が追おうとすると、目の前に甲殻蜥蜴が立ちはだかる。
「サンダーボルト」
バシュゥ!
太い雷が襲うが、甲殻蜥蜴は丸まった甲羅で電撃を防いだ。
ふーん。
「サンダーボルト。サンダーボルト。サンダーボルト。サンダーボルト」
連発して浴びせていると、体が伸びてベロを吐き出すように倒れた。その柔らかな腹を、アンナが深々と突き刺す。
俺が言う。
「デビドを追いかけよう。逃げられる」
「ああ」
俺は、残った数人の騎士に言う。
「領主様を頼む」
「は、はい」
俺達はその場を後にして、甲殻蜥蜴が突き破って来た穴へと飛び込んでいくのだった。




