第406話 街角に現れた突然の強敵
邪神ネメシスが、この町に来ている可能性がある。それは、非常に危険な状態であるという事だった。俺とアンナは急いで、騎士団を追いかける。
「とうとう、尻尾を現したね」
「ああ」
「ここに居るのかな?」
「ネメシスの血を見つけたという事は、可能性が高いという事だろう」
繁華街は普通に人々が行きかっており、その平和さが俺の胸を騒がせた。騎士達は散り散りになって、どこに行ったのか分からなくなっている。人ごみの中を走りながら、領主の姿を探した。人と人の間に、フルプレートメイルが走り去るのを見る。
「あそこ!」
俺とアンナは、走り騎士団の影を追いかけた。
すると、ドガ!っとどこからか、何か倒壊する音が聞こえて来る。俺が立ち止まり、アンナに言った。
「どっち行った方がいいだろう」
「音のする方」
騎士を追うのをやめ、俺達は角を曲がり路地を走り抜けていく。
「うわああああ」
「ぐお!」
更に角を曲がると、騎士が吹き飛ばされて転がって来る。
「おっと」
飛んできた騎士をかわしつつ先を見ると、ボロボロのマントを来た、ボサボサの長髪をした奴がいる。そいつは騎士達に囲まれているが、何やら余裕の様子で佇んでいた。
「アンナ。騎士を吹き飛ばしたの、あれだよね」
「ああ、だいぶ手練れだ」
騎士達が囲み、一人が言った。
「一斉に行くぞ!!」
三人の騎士が一気に間合いを詰め、そいつに剣を差し込むが、次の瞬間、ボロ布は上空にいた。
「ギャア!」
「うわぁ!」
攻撃した騎士が顔を覆って、頭を下げた所にドン! とボロ布が落ちた。すると一人の剣士が兜ごと、一気に地面にたたきつけられる。そして鎧兜の上に立ったまま、ボロ布が言った。
「ウケケ! もろいっケ! よわよわー」
舐めた口をきいているが、明らかに騎士を圧倒していた。
「きさま! そこから降りろ!」
「ん? ああ。なんか高いって思ったッケ。乗ってたんか」
だが、確認をしても、降りなかった。めり込んだ騎士の兜の上に立っている。
「この!」
シュッ! 騎士が剣を突き入れるが、そいつは持っていた短剣で、鎧の開いた顔部分に突き入れる。
「グア!」
目を突かれて、騎士がのけぞったところに、ドガンと蹴りを入れた。騎士は、質量がないかのように吹き飛んだ。
「異常だね。あのチカラ」
「だが、さっきの剣士とは違う」
「だねえ。狂ってないし、冷静だ」
俺達が品定めしていると、そいつもゆっくりと品定めでもするかのように、俺達に目をとめる。
「ケケケ。なーんか面白いのがいるなあ……」
騎士が振り向いて、俺達を見た。
シュッ! と騎士の間を取り抜けて、俺に向けて短剣を突き付けて来る。
ガキン! アンナがそれを弾いて、すぐに追撃を行う。
「ななっ、止めた?」
空中を飛びながら、そいつが不思議そうな顔をする。俺も驚いていた。
アンナの攻撃をかわした??
俺はしゃがみ込み、吹き飛んで寝転がってる、フルプレートメイルの騎士に手を当てる。
「メギスヒール」
ジュオオ! と音をさせて傷が治った。
「蘇生、筋力強化、脚力上昇」
騎士がムクリと起き上がり、ブンブンと頭を振った。
「やりやがったな。ボロ雑巾」
「おっ、起きた? 治ったのケ?」
「もとより! お前の攻撃など効いておらん!」
なるほど、一瞬で飛ばされて気を失っていたとみえる。自分がやられた事に気がついていない。
「ケケケ。舐めてかかっちゃイケないようだぜぇ」
一人なようだったが、そいつの髪の毛の中から、もぞもぞと何かが出て来る。
なんだあれ?
それは黒い毛の塊に、人間の手足が生えたような猫より小さな生き物だった。小さな鎌を持って、肩に乗っている。
「何をぼそぼそと!」
他の騎士二人が、ボロマントに斬りかかる。だが、次の瞬間その黒い毛の塊が、ビュンと飛び去って、飛びかかった騎士のプレートメイルに入り込んだ。
「なっ!」
叫んだものつかの間、騎士が動かなくなり、プレートメイルの下からぼたぼたと血が滴り落ちて来る。
ヤバイな……あれ。
シュ! 黒い毛の塊がプレートメイルから出てきて、ボロマントに戻った。もう一人の騎士の喉には、ボロマントの短剣がつき立っている。
そこで、アンナが言う。
「攻撃をやめろ。お前達じゃダメだ!」
それを聞いて騎士達が、動きを止めた。喉に剣を突き立てられた騎士は、絶命して崩れ落ちてしまう。
「ケケケ。わかるんだ。やっぱりお前ら、変だな」
かなりヤバイ奴だ。アンナの力量を見抜いている。
「だったらなんだ?」
「だったら? ケケケ。お前を先にやらないとだな」
だが、騎士達がアンナの静止を聞かずに、また飛びかかってしまった。
「やめ!」
ザシュ! ザン! 騎士達は血を流して倒れてしまった。
「近づくな! 殺しに来るぞ!」
ようやく危険性に気が付いたのか、騎士がじりじりと下がる。そして騎士が言う。
「こいつは危険だ! 皆でかからねば、やられる!」
「お前達の力では、無理だ!」
アンナがここまで言うって事は、あれは、そうとう危ないって事。
んじゃ……新技しこんどこっと。
ボロマントが転がった死体を蹴り飛ばし、凄い勢いで建物の壁に激突した。
とんでもない威力だ……まともに喰らったらヤバイ。それに、あの黒い毛玉。なんだあれ。
キモ!
黒い毛玉が再びボロマントの中に入り込み、ボロマントがじりじりと間合いを詰めてくる。
俺がアンナにボソリと言う。
「多分、ネメシス関係」
「だろうな」
「動かないで」
「わかった」
するとボロマントが、高笑いする。
「ケケケ、怖気づいて身動きもとれねえぜ。ボタラ!」
すると、甲高い声が聞こえて来る。
「そうだなカタラ。こっちの力が分かったみたいだ」
挑発されても、アンナは動かない。それだけ俺とアンナの信頼は厚い。俺が隣から、大きな声で言う。
「いやいや。さっき、躱されたでしょ! ボロ雑巾! お前の攻撃なんて当たらないから!」
「ケケケケ! さっきは、小手調べだっケ!」
「それに、お前の切り札かなんかしらないけど、そのペット気持ち悪いね。ドブネズミ?」
ピクリ。少し雰囲気が変わった。
「ケケッ、ボタラの悪口は許さねえ」
「ああ、ボタラっていうのか、そのネズミ。ボロ雑巾みたいなお前のペットに相応しい」
すると甲高い声が言う。
「カタラの悪口はゆるさないぃ!」
「いや。臭うね。ほんと、鼻が曲がりそう。駆除しないとダメだこりゃ」
「「……」」
目つきは悪いが、髪の毛で表情が分からない。怒っている雰囲気は、バッチり感じ取る事が出来た。
「駆除業者は……」
俺が、次の挑発をしようかと思った次の瞬間だった。カタラとボタラが、まるで縮地のような速度で突っ込んできた。
バカメ。
バシィ! ビリビリビリビリ!
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」」
ドサドサ!
二匹が、アンナの目の前の地面に倒れる。
アンナが聞いた。
「見た事無い魔法だな」
「新技」
そう。これは、飛ばす電撃では無く、防御と攻撃を兼ね備えた電撃。飛ばしても、超強力な電撃だが、それを見えない結界の周りにぐるぐると帯電させて、電圧を何千倍に上げた技だった。そして強すぎて、目の前のボロ雑巾が、じりじりと燃え出した。
「一応、留め刺しとく」
至近距離から魔法を撃つ。
「ライトニングボルト!」
バシュゥゥゥ!
二体の怪物は、一瞬で消し炭になってしまった。俺は一目散に、死んだ騎士達の下へと駆け寄る。
「生命蘇生!」
シュウシュウと音を上げて、今死んだばかりの三人が息をし始める。
「か、神のお力だ……」
騎士の一人が言った。だが、そこで俺は言う。
「おそらくもっと恐ろしいのが入り込んでいる可能性がある! 領主はどこへ?」
「一緒では無かったので分かりませんが、恐らくは色街へ向かったかと」
俺とアンナはピンときた。たぶん俺達が一度進入したことがある娼館だろう。やはり、あのあたりに、敵のアジトがあるのかもしれない。
「そこに敵はいる! 動ける者はついてこい!」
アンナが言うと、動ける騎士達も俺達と一緒に走り出した。角をいくつか抜けると、侵入した事のある娼館街の入り口につく。すると、裸に布を持った女達や、小姓たちが一斉に逃げてくるところだった。
「あたり」
「ああ」
逃げて来る、裸の女を横目にしつつ、俺達は先を急ぐ。
「こっち」
俺達が忍び込んだ事のある、娼館が見えてきた。でも逃げて来るのは、もっと先の方からだった。
「ここじゃないんだ……」
すると騎士の一人が言う。
「恐らくは、元締めの所かと」
「元締めか……ありがと」
俺とアンナと、数人の騎士達がその先へ走って行くのだった。




