第405話 大聖堂に紛れた影と不可思議な骸
身体強化を施した騎士達に、足無蜥蜴達が容赦なく切り捨てられて行く。騎士達も、なぜ自分がこんなに強くなったのかを理解していない。俺が身体強化をこっそりかけたために、いきなり能力が向上したと思ってるだろう。
「一人も逃がすな!」
領主の声が轟く。騎士達はそれに鼓舞されるように、一気に教会内を走る。
「いい感じ」
「だが、油断は出来ん」
「まあ、ね」
俺達が中に行くと、矢が刺さってうずくまっている騎士が何人かいた。領主が聞く。
「やられたのか?」
「罠が仕掛けてありました」
「くそ。教会に罠など……そこで待っておれ!」
「申し訳ございません!」
だが俺はすぐに、聖女の魔法を行使する。
「エリアメギスヒール」
ぱっと空間が光り、数人の騎士達から矢が抜け落ちて傷が治る。それを見て、領主が目を丸くした。
「そのような回復魔法は、見た事が無い。一人一人ではないのか?」
「あ、すみません。私、これが得意な物で」
「まるで、神業だ」
ヤバ。簡単に使いすぎたか?
「とにかく! 奥に!」
「う、うむ」
俺達が先に進むと、突然扉を突き破ってドカンと騎士が飛び出て転がった。
「うううう」
「ど、どうした!」
俺が駆け寄って、ヒールをかける。すると騎士は復活し、受け答えを始めた。
「尋常じゃない強さの者がおります」
「なに?」
その部屋は大聖堂で、椅子がバラバラに壊され騎士達が倒れていた。周りを剣を持った騎士達が囲み、中心に筋肉隆々の剣士がいる。だが、目が血走って、よだれを垂らし、ただ周りを睨みつけていた。
「なーんかヤバそう」
「ああ」
そして、領騎士が血走った目の剣士に数名でとびかかる。
ズバッ! ドガガガ!
騎士達は斬られ、飛ばされて、また新たに木の椅子が壊された。
「フーフーフー!」
様子がおかしかった。剣士の筋肉が尋常じゃないのもあるが、明らかに、怪我をしているというのに、それをものともせずに剣を振るい続けている。
「痛くないのかな?」
「いや……まともじゃない」
そこで、アンナが俺に言う。
「みろ」
奥のステンドグラスの下に、影がゆらりと立っている。そいつは祭壇の奥からこちらを見下ろしているようだが、その正体を見る事は出来ない。
「影だね」
「影……か、他の連中は見えていないようだ」
「アンナには見えるの?」
「気配が分かる」
「私には、影としてはっきり映ってる」
「そうか」
「幽霊? レイス?」
「いや、実態がある」
中央では、飛びかかった騎士が弾き飛ばされていた。後ろから弓隊が入ってきて、領主が叫ぶ。
「騎士団は下がれ! 弓隊! 撃て!」
下がったところで、筋肉男に次々に弓矢が放たれる。だが逃げる事もせず、次々に体に弓が刺さった。それをなんとも思わないのか、剣を構えたまま周りを睨みつけている。
「しかし、身体強化をされている騎士が押されるとは」
「確かに。凄い力」
「どうする」
「ちょっと思いついた」
俺はスルスルと後退り、弓隊に対してこっそりと言う。
「あの祭壇の奥のあたりに、弓矢を放つことは出来る?」
「ああ」
「狙いを定めなくても良いから、速攻で撃って」
俺の指示に従い、数人の弓隊が余りリアクションを取らないで弓を撃つ。
カカカ! と弓矢が刺さりこむ少し前、明らかに影が動いた。それは、祭壇の端っこに移動している。
アンナが言う。
「移動した」
「弓は避けるんだ?」
すると次の瞬間、アンナがそばにいた弓隊の腰にある短剣を、ノーモーション神速で陰に投げる。
「ギャァァァ!」
すると騎士達が、その声に気が付いた。
「な、なんだ!」
すると影が薄っすら解かれ、長身の長髪男が浮かび上がってきた。そいつは刺さった短剣を抜き捨て、傷を押さえてこちらを睨んでいる。
「も、もう一人いる! 捕えろ!」
バリィインン!!
次の瞬間、大きなステンドグラスが割れ、それが騎士達に暴風と共に襲い掛かって来た。
「結界」
俺とアンナ、周辺の弓隊は防いだが、前衛にいた奴らはガラスの餌食になる。そして暴風が収まった祭壇を見ると、影も長身の男もいなくなっていた。そのとたんに、中央にいた筋肉の剣士が叫ぶ。
「ぐあああああ!」
「いまだ!」
領主の叫びと共に、その筋肉男は串刺しになる。
ドシュゥ!
ガクリと頭を落とし、刺さった場所から血が噴き出した。だが筋肉隆々だった剣士はやせ細っていく。目は窪み、骨と皮のように痩せて絶命した。
「ど、どういうことだ……」
そしてそこに、他の騎士が飛び込んで来る。
「領主様! 奴らが逃げ出しました! 追いますか!」
「追撃だ」
そこで俺が言う。
「騎士の傷を治します! エリアメギスヒール!!」
パアアアア!と、そこにいた連中が全員、全回復した。
「こ、これは……」
「な、なんだ。傷がない」
「腕が……戻ってる」
やべ。疑われる。
「はやく! 敵を追わないと!」
「そうだ! 急げ」
そして次々に、騎士団が飛び出して行く。俺は、領主に向かって言った。
「敵はただ者じゃない、お気を付けください」
「助言はありがたくいただこう」
騎士団に続いて、領主も駆け出して行ってしまった。
「さて、騎士団に追い詰められるかどうか」
「まあ、無理だろう。わたしたちでも苦戦したのだ」
「だね。というか、見た?」
「ああ。あの死んだ剣士が強くなったのは、恐らく何かの力によるものだ」
「だよね。身体強化とは違うみたいだけど」
「そうだな。そして、あの長身の男、あれは特殊なスキルを持っている。見えなくなるスキルだ」
「まあ。あの男が、あの剣士を強化して操っていたと考えるのが正しいね」
アンナが、やせ細って死んだやつのところに行く。
「ズーラントの騎士だ」
「ほんとだ。紋章……」
「それが、こんなにやせ細るだろうか」
「もしかして、長身の男の仕業?」
「可能性が高い」
「マズいね……」
割れたステンドグラスの外を見ると、空はどんよりと曇り始めていた。この事は、簡単には終わらないと告げられているかのように。
「気になるのは。こんな敵の真ん中にいた事だ」
「余裕があったのだろう。もしくは、他に手を用意していたか」
二人で、祭壇のところに行ってみる。床には血の跡があり、敵が剣で傷つけられることが分かる。
「怪我はするんだね、でも、ただの影ではないと」
「これは何だ?」
そこに、先に棘のついている棒みたいなのが落ちてた。アンナがそれを拾い上げ、先の匂いを嗅いだ。
「血と……なんだ? なにか、他の臭いがする」
「……貸して」
俺がその棘のついた棒を受け取り、思いついた事をやってみる。
「浄化」
その瞬間、棒の先についた何かが、まるで生き物のように飛び散ろうとした。
「な!」
シュゥゥゥゥ!
それは炭のようになって、空中に霧散した。
「どういうことだ?」
「多分……これ、ネメシスの血だ」
「何だと……」
やはり、邪神はここにまで入り込んでいた。そして俺はアンナと目を合わせて、すぐに大聖堂を飛び出して行くのだった。




