第404話 孤児の救出と領騎士団への援護
俺達が孤児院の側に身を潜めていると、次々に領の騎士達がやってきた。やる気満々に、フルプレートメイルに身を固めて、剣と槍と盾を持っている。それが孤児院の前に到着すると、施設長のおばさんが、いそいそと出てきた。
「何話してるんだろうね?」
「きっと、奴らが追い払えとでも言わせてるんだろう」
だが騎士は引き下がらずに、おばさんをどかして中に入ろうとする。
「おっ。また出てきた」
次々に、修道女が出て来て止めようとしていた。
「うーん。これは多分、子供を人質に取られてる可能性大だね」
「では、行くか」
「じゃあこれ、シーファーレンが渡してくれた奴」
「ああ」
俺達はフェイスマスクをつけて、羽のついたベレー帽を被る。すると俺の髪の毛もアンナの髪の毛も、シュルっと帽子の中に入った。
「おお! 凄い!」
「便利だな」
「男か女か分からなくなった」
「髭が無い」
「つけ髭とか持って来ればよかったか」
「まあ仕方がない」
そして俺は、するりとスカートを脱いだ。ズボン姿になり、これで俺もアンナもどっちか分からない。路地裏から、素早く孤児院の裏手に周って入り込む。
「今のうちに」
「ああ」
敵が、表の騎士達に意識を取られている間に、するりと裏口を開けて中を覗き込む。
「いない」
「行こう」
足音を立てずに中に入ると、ふいに脇から小さな子供が現れる。
「うっ」
「……」
俺は咄嗟にしゃがみ込み、子供の顔の前に顔を合わせて言う。
「静かにする遊びをしてるんだ。声を出したら負け、出来る?」
「うん」
「ほら、声出たよ!」
コクリと子供が頷いた。
「おいで」
俺達は子供をつれて、そっとドアを開けて中に入る。ホウキなどが立てかけてある、物置だった。
「静かにお話しようか」
「……」
「君の勝ち。静かに話して良いよ」
「うん」
「おねえちゃん、おにいちゃんたちは?」
「お髭のおじさん達と一緒に居る」
「君は?」
「小さい子は、いいんだって」
「そっか。どこのお部屋? 私たち、みんなを助けに来たんだよ」
「僕が、出てきたお部屋だよ」
「じゃあ、君はここに居て」
「うん」
俺とアンナは、物置を出てスッとその部屋の入り口に近づく。するとアンナが言った。
「入口のほうにもいるな」
「まずは、子供の安全確保」
「よし」
スッと扉を開けて、中を覗き込むと三人の男が剣を持って、窓の外に目を向けている。
「気づいてない。一瞬でかたを付けよう」
「ああ」
俺がアンナに身体強化を施す。
「金剛、結界、筋力強化、脚力強化、思考加速」
アンナが淡く輝いた。
俺がスッと扉を押すと、アンナは部屋に入り込んで消えた。
コン! ガン! カン!
三人が崩れ落ち、子供達があっけに取られている。
少し大きな女の子が言う。
「あ、あなた方は?」
「助けに来たよ。他に子供は?」
「ここにみんないる……あ、ひとりいない」
「その子は物置にいるよ」
「そうか!」
「えーっと、みんな、いいかな?」
皆が俺を見る。
「声を出したら負けだよ!」
コクリと頷いた。
「今から、お姉さんが魔法をかけて丈夫にしてあげるからね」
皆が俺をじっと見つめ、俺は子供らに向かって魔法を行使する。
「金剛、結界、筋力強化、脚力強化」
子供達が光に包まれる。
「これでよしっと。後は静かに出て行くよ」
そしてアンナをしんがりにし、俺が子供の手を引き先導していく。入り口の扉を開けて廊下を見るが、まだ誰も気が付いていないようだった。そのままスルスルと外に出て、物置の子供を連れ出す。
「暗いところで怖かったね」
「平気だよ」
「じゃあ、行こうか」
そしてそのまま、そろそろと裏口を開けて外に出た。子供らが木の壁を飛び越える事はできないので、アンナが斬り落として穴を開ける。
「慌てないで一緒にいこうね」
俺が先に出ると、子供達が次々に出て来てアンナが最後に続いた。俺達は、建物を回り込み横を見る。するとその時、窓から男が顔を出して大声で叫んだ。
「くるな! 子供らがどうなってもいいのか!」
「なに!」
とうとう正体を現した。だが、子供はここに居る。
そこで、俺が女の子に言う。
「あそこに、鎧を着ているおじさんいるでしょ?」
「うん」
「あの人たちに、ここの孤児院のみんなです。って言って守ってもらって」
「わかった」
子供らがぞろぞろと歩いて行き、外で待っている兵団のところに辿りついた。兵士と子供が話をして、俺達の方を指さしたのでサッと隠れる。
外にいる騎士が言う。
「子供らはここに居るぞ!」
「はあ? 何を言ってる?」
「突撃!」
騎士達が次々に、建物に雪崩れ込んでいった。この建物のどこかに、麻薬もあるはずだ。
「まず、子供らはこれで良しと」
「では、本丸の教会に行くか」
「そうしよう」
俺達がその場を離れ、教会に近づいて行くと、戦う音が聞こえて来る。どうやら、騎士団と敵が小競り合いをしているらしい。路地から様子をみると、どうやら騎士団が苦戦しているようだった。
「やられてる」
「あれは、多分毒にやられてるようだ」
「こっちは、足無蜥蜴がいるのかな」
「そのようだ」
次の瞬間、信じられない事が起きる。
ドガ! と、教会の壁を崩して、中からでっかい人が出て来たのだ。
「えっ! やたらとデカい裸の人が出て来たけど!」
「トロールだ」
「魔獣?」
「どうやら、切り札を隠していたようだ。こんな都市内に、あんなデカ物を入れるとはな」
「どうやって……」
「使役、かもしれん」
俺達が見ている先で、そのトロールが大声で叫ぶ。
「ぐぉおおおおお!」
ブン! めきょめきょめきょ!
二人のフルプレートの騎士が、飛ばされた。
「うわぁぁぁぁ!」
騎士団の隊列が崩れる。だが、そこで領主の声が響く。
「怯むな! 槍隊! 前へ! 弓隊は弓を!」
ヒュンヒュンと弓が飛び、トロールに刺さるが、それがかえって凶暴性をました。
「があああああああ!」
ブウン! ガガン!
教会の壁が、トロールのこん棒で崩れた。飛び散った石が、騎士団を襲う。
「怯むな! 押せ押せ!」
領主が躍起になっているが、アンナが言う。
「せめて、妹たちのパーティーくらいの力があればな」
「朱の獅子?」
「なら、余裕だろうが、あれでは壊滅する」
「そっか。なら、崩壊する前に助け船だすか」
水魔法と光魔法の応用で、雲をプカリと浮かべた。それが、ふわふわトロールに向かって泳いでいく。それが、真上に来た時。
「ライトニングボルト!」
バン! バン! バン! ゴロゴロゴロゴロ!
「どうかな?」
アンナが答える。
「こんがり焼けた」
ズッズゥゥゥン!
トロールがこん棒を上げた姿勢のまま、倒れ込んで動かなくなった。そこに、槍隊が槍を突き刺した。だが、既に死んでいるので意味がない。
「バケモノは倒れた! 押せ!」
すると、教会の上の階層から、弓を構えた敵が顔を出す。
「あ、やば」
そのままトロールの上にいた雲を、ぷかぷかとそっちに移動させる。
「サンダーボルト!」
バシュゥゥゥン!
数人の弓矢を構えたやつらが、窓から次々に落ちてきた。騎士達が押し始め、俺達が騎士達の最後尾に忍び寄る。
そして、スーッと杖を騎士団に向けた。
「金剛! 筋力強化! 最筋力強化!」
後ろのほうの騎士が強化された。
「うおおおおおお!」
後方の騎士団が走って行き、俺が次々に身体強化を施した。
「よし」
すると馬に乗っている、領主に見つかってしまう。
「お前達は?」
そこで、俺が言う。
「ギルドから来た冒険者です! 領主様に助太刀します! このまま、攻め入ってください!」
「さっきのバケモノも、お前達が?」
「そうです! このまま押し切ってください!」
「わかった!」
俺がまた周りの騎士に、身体強化を施した。
「うおおおおお!」
小競り合いが、一気に形勢逆転した。俺は、怪我をした騎士達の元へ行く。
「エリアメギスヒール!」
パアアアアア!
広範囲に、最高の回復魔法が降り注ぐ。倒れていた騎士達が、起き上がり剣を取って走って行った。
領主が言う。
「その力……?」
「さあ! 騎士達に指示を!」
「と、突撃!!」
抵抗していた敵を押し切り、次々に教会へと突入していった。俺達も、どさくさに紛れて最後尾から入っていくのだった。




