第402話 敵の情報を知り次の動きへ
ズーラント帝国との人質変換の折には、対応していた高官や兵士から、俺と戦う意思は感じなかった。今回ここに来ているズーラント帝国の奴らは、どうやら俺達のヒストリア王国で離反した、第三騎士団や第四騎士団の一部のような奴らとおなじらしい。ネメシスの一派から、たぶらかされた奴らの集団だ。
「国を相手にする訳じゃ無いと分かっただけで、やりようは出て来たね」
「そうだな」
「すっごく、大きな情報を得れた」
「一度、帰っても良さそうだが」
「ん? スティーリアを、怖い目に合わせたのに?」
「と、言うだろうと思った」
見ている先では、騎士達が焼け残った荷物を荷馬車に積み込むところだった。
「しかし、騎士団が奴隷に成り下がるとは、酷いものだね」
「自業自得だろう」
「賃金の安さなのか? 待遇の悪さなのか? なぜ奴らから、そそのかされるのか」
「足無蜥蜴の誘導も、上手いのだろう」
「そうか……」
荷馬車が動きだし、その周りを警護するように騎士団が囲んだ。
「警戒してるね」
「教会の件があるからな、襲撃される可能性は考えてるだろう」
「なるほど」
俺達がバレないように、人ごみに紛れつつ荷馬車を追う。距離を離しつつも、アンナが先に歩いた。
「アンナは、こうやって魔獣を追うんだもんね」
「そう。馬も、魔獣と同じ。匂いも気配もある」
「なるほど」
だから、角を曲がって視界が遮られても、アンナは焦る事は無かった。周りに警護を付けているから、荷馬車もスピードを出せないでいる。
「この方向は教会かな?」
「どうか?」
だが、そこはスルーした。
「違うんだ」
「だな」
そのままついて行くと、少し大きめの建物に入って行った。だが、その建物を見て俺達は愕然とする。
「ちょ、孤児院?」
「だな。子供らがいる」
「嘘でしょ」
その馬車は孤児院らしき建物に入って行き、警護についていた騎士達が柵の外を囲むように立った。
「ふう……」
「やっかいだな」
「人の盾だよ。とことん、えげつないやつらだね」
「まったくだ。だが、孤児院と言う事は……」
「やはり、教会にも敵は入り込んでる」
「なぜだ?」
「恐らくは、領主の目を欺くためだろうね。だけど、こんなあからさまに入っていくとは」
「子供らを盾にか……酷いものだ」
最低な行為に、邪神らしさを感じる。俺達が、隠れた街角から見ていると、孤児院の中に運んでいる。しかも、なんと子供達に手伝わさせていた。
「ソフィアたちはもう、領主邸を出たかな?」
「どうだろうか」
「出ていたのならば、領主邸に嘆願書を投げ入れて、動かす事ができないかな」
「なるほど。それは、いいかもしれん」
「行って見よう」
俺たち二人は、そのまま街に溶け込んだ。再び大通りを歩くと、フワリと紙が舞い降りて来る。
「シーファーレンだ」
紙に記されていたのは、無事に仲間達を連れて外に出られそうだという。
「大賢者は、本当に凄いな」
「まるで、わたしたちを見ているようだ」
「シーファーレンがいる事で、かなり効率よく動けている。まず、彼女らに会いに行こう」
「わかった」
俺達は、シーファーレンのメモで指定された場所に行く。市場に客として紛れているようだった。
「いた」
「ああ」
買い物をしているフリをして、ボソリとシーファーレンに耳打ちする。
「領主を動かしたい」
すると、ヴァイオレットがスッと俺に、書簡を渡して来た。
「ソフィア様とミリィ様が調べた、領主の内部の状況と関係の相関図です」
「わかった」
そして両サイドに、ソフィアとミリィが立つので、俺が声をかける。
「じゃあ、速やかに逃げてね」
「ご武運を」
「どうか、ご無事で」
丁度、目の前に、アクセサリー売り場があった。
俺は、店のおばさんに聞く。
「これって、このあたりの?」
「ええ。この地で採れる鉱石なんです。魔よけの意味合いもあるんですよ」
「魔除け! いいね! じゃあこれを、十五個もらっていい?」
「十五個? そんなに? お土産かい?」
「そう。お土産、待っている子らに渡すの」
「そうかいそうかい」
「だから、元気に帰らなくちゃ」
「いいねえ」
袋に入れてもらい、金を払った。
「きっと、皆これを待っててくれるだろうなあ」
「きっと、その子らもよろこぶだろうねえ」
「うん。じゃ、ありがと」
俺達はすぐに市場を後にした。シーファーレンとソフィアたちも、反対の方向に向かって歩いて行く。
路地裏に入り込んで、スティーリアがいたはずの部屋に戻る。テーブルの上には、手紙が置いてあった。
そこには一言だけ。
ー先に参りますー
「よし。スティーリアも出たんだね」
「そのようだな」
そして、ヴァイオレットがまとめた書簡を広げた。
そこに記してあったのは、この領地を統括する国である、東スルデン神国と領主の関係性だった。
「なるほどね……」
「動きを取れないわけか」
そこに記してあったのは領主が見て見ぬふりをしている、という事実だった。そして、その情報では、東スルデン神国も一枚岩ではないと言う事がわかる。ここに入り込んでいる足無蜥蜴ら不穏分子の事を、領主は煙たいと思っているようで、麻薬の流通をどうにかして押さえたいらしい。
「そりゃそうか。うちらの国もそうだったように、邪神の影響を受ける奴と正常な人がいるわけだ」
「ここの領主は、まともと言う事だな」
「だが、国には逆らえないようだね」
「どうする?」
「いや、簡単。今回の、孤児院に逃げ込んだのは、相手にとっては悪手だよ。人質に取ったと思ってるんだろうけど、領主に大義名分を与えたと思わないかい?」
「そうかもしれん」
そして俺達は、置いてあった紙に必要な文章を書き記して、領主邸に対してのアプローチ準備をする。それから、宿屋にチェックアウトする旨を伝えて、領主邸へと向かうのだった。




