第401話 捕らえた兵士の自白で見えたもの
ボロの宿屋に戻ると主人が出て来た。アンナが深くフードをかぶり、変身ペンダントを付けた騎士が、女の姿をしてアンナに背負われている。
「あ、どうしたんだい? そっちの人」
「酔っぱらって、寝てる」
「あ、そうかい。じゃあ水は?」
「いらない。あとこっちでやるから、寝かせとこうかなと」
「わかりやした」
俺達はすぐ、長期滞在してもいいと言われた部屋に入った。ペンダントを取ると、元の男の姿になる。頭に布袋をかぶせ、椅子に縛り付けた。アンナが、ベッドから枕を持って来て床に置く。
そして、プチ、ピリピリの電流を飛ばす。
パシン!
「う、うう」
アンナがドスをきかせたこえで、男に言う。
「殺されたくなければ、黙って質問に答えろ」
「う……な、なんだ……」
「余計な事はしゃべるな。聞かれた事に答えれば死なずに済む」
「……」
状況が飲みこめていないらしい。
「いいか、余計な事はするな。ただ、聞かれた事に答えればいい」
「……わ、わかった」
そしてアンナが、ナイフを取り出す。それをそいつの腕につけた。
「本気だ」
「わかった! 殺すな!」
「よし」
アンナが俺に目配せをしたので、俺がゆっくりと、その男に聞いた。
「どこの騎士だ?」
「……」
アンナが、スッっと腕を斬る。
「いて! わかった! 言う」
「嘘ならすぐに分かる。嘘をついた瞬間に殺す」
「……わかった」
「ある程度の調べはついている、何処の所属だ?」
「ズーラント帝国だ」
するとアンナが言う。
「命拾いしたな。正直に言ったおかげだ」
「な、なぜ?」
「お前の短剣の鞘に、国の紋章が小さく入っている」
「そうか……」
そして俺が、もう一度聞く。
「ズーラント帝国が、東スルデン神国の町で何をしている?」
「連れて来られたんだ」
「連れて来られた? なぜ、国の鎧を着用せずに、町人に紛れてる?」
「それは……」
口ごもったので、アンナが枕を顔に押し付けて、ドスッ! と太ももを刺した。
「フグゥゥゥゥゥ」
こっわ!
「すぐ答えろ、躊躇するな。次は腹を刺す」
「フググググ」
枕を取って、もう一度聞く。
「なぜ、町民に紛れている?」
「はあはあ……正式に派兵されてるわけじゃないからだ! 全軍が、動いているわけでは無い!」
「なぜ、正規じゃない?」
「俺達を連れてきた奴がいる!」
「無理やり?」
「なんらかの目的があって、それが上手くいったら、一生遊べるだけの報酬をくれると言ったんだよ! 一生、兵隊でいたくないだろうと!」
なるほどね。エクバドル王国でやっている事と同じ、騎士を腐らせた上で、利用しているという訳だ。手口としては、どこでも同じと言う事か……。
「で、麻薬を売ってるわけだ?」
「そ、そうだ。正式に出兵した訳じゃないから、資金がいる。国から金が出ている訳じゃないからだ」
馬鹿正直にありがとう。
「で、その、あんたらを連れてきた奴って、一体どこにいるのかな?」
「いつも居る訳じゃない。突然現れて、指示を出して消えるんだ」
「いつ、何処に現れる?」
「わからない。本当だ! 突然やってきて、次の指示を出していくんだ」
俺はアンナと目を合わせる。アンナが、スッと腕を斬りつけた。
「本当なんだ! いつ来るかは分からないんだ!」
どうやら、本当のようだった。
「ふーん。で、あんたらは、どう思ってる?」
「不満が出ている、いつまで麻薬売りをさせるつもりだと。訳の分からない盗賊まがいの奴らと一緒に、行動させるのはなぜだと」
「そんな不満が出ているのに、なんでやってるのかな?」
「直談判した隊長が消えたんだ。突然消えて、もう二度と現れない。その不平を、口にした者もいたが、そいつも消えてしまった」
「殺されたと?」
「そうかもしれん。と、皆が思っている」
「今日は、なんで歩いてた?」
「麻薬を保管している所が火事になって、麻薬を移しださないと誰かがその責任を取らせられるからだ」
「責任?」
「そうだ。へまをすれば、袋にされてしまうからな」
「酷いものだな」
すると、男はがっくりと項垂れてボソリと言う。
「おとなしく、騎士をやっていれば良かった。なんで、あの時……美味い話に飛びついたのか……」
「間がさしたのだろう?」
「分からない。家族もいるのに……」
同じだ。もしかすると、ネメシスの力が働いているのかもしれない。
「他に知っていることは? あの、蜥蜴の入れ墨の奴らの事とか」
「あ、あんたら、知ってるのか? 奴らの事を?」
「あれは、陰で動く汚い仕事をする連中かな」
「やっぱり、そうか……」
「あなた方は騙されたんだ」
「……今更だ。国に帰ったところで、国家反逆罪で罰せられる」
「ふーん。逃げれば?」
「だめだ。奴らに殺される」
「なるほど」
ひょっとすると、東スルデンの兵隊たちも似たような状況だったりして……。
その男は、それ以上の事は知らないようだった。日々、降りて来る仕事を、必死に奴隷のようにこなすだけの日々を送っているのだとか。
不憫な事だ。同情もしないけど。
「俺を、殺すのか?」
「いや。殺さない、戻してやるけど、もしこの事を誰かに喋ったら、白状した事をバラす」
「やめてくれ! そんな事をしたら、俺はすぐに殺される」
「じゃあ、騎士達を先導して逃げれば?」
「無理だ。俺は一般兵だからな」
「隊長格がいる?」
「いる! こんな状況でも、偉そうにしているが、アイツらにはペコペコだ」
「わかった。とにかく、誰にも言うな」
「ああ!」
そして、アンナに目配せをすると、ドン!と意識を狩る。
「捨ててこようかね」
「そうしよう」
入ってきた時と同じように、そいつにペンダントを付けて部屋を出る。すると主人が声をかけてきた。
「まだ、目覚めないのかい?」
「ああ。だから、川にでもつけて目覚めさせて来る」
「ははは。女の子にあんまり手荒な真似は良くないな」
「そんなにヤワじゃない」
「わかった」
宿を出て、ジグザグに路地裏を歩いて行く。
「尾行はついていないようだ」
「ここらで捨てるか?」
ドサ。
ペンダントを取り、俺達はスッと路地に隠れた。再び、微弱なライトニングでそいつを目覚めさせる。
「う、うう……」
男はすぐ起き上がって、ゆらゆらと歩きだした。俺達は、すぐにそいつの後を追い始める。どうやら、火事の現場に向かっているようだ。
「もう、火事は収まってると思うけど」
「いかなきゃ、マズいんだろう」
俺達がついて行くと、例の商会の火事は収まっていた。焼けた商会の前には様々な物資が並べられて、騎士達が無事な物資を確認しているところだった。
「遅いぞ!」
男が行って、謝っていた。そして俺達が見張っていると、そこにガラの悪そうな奴らがやってくる。
「アイツら……」
「あれ、足無蜥蜴だろうね」
間違いなく足無蜥蜴の連中だろう、騎士達は急にぺこぺこし始めるのだった。




