第400話 騒ぎに乗じて人さらいに成功する聖女
俺とアンナがフードを目深にかぶり、都市を歩いているとスッと紙が目の前にふってきた。
パシッ!
「シーファーレンだ」
「流石だな。わたしたちの行動を掌握しているようだ」
紙に指定されていた路地に入り込み、奥の建物のドアを開けと、フードをかぶった女が四人いた。
「聖女様。一連の事件は、掌握しております」
流石、大賢者。
「凄いね。シーファーレン、良く察知した」
「はい。離れても監視は怠りませんわ」
「私が会いたいのも、良く分かったね」
「緊急だと思われましたので」
「流石だ。で、お願いがあるんだけど」
だが先回りして、シーファーレンが言う。
「ソフィア様でございますね?」
「そう。むやみに動くなと言いたい。出来る事なら、領主の城を抜けて欲しい」
「今のところ、領主の城は比較的安全かと。それに、いきなり、四人がやめれば怪しまれますわ」
「それじゃあ、私とアンナでお灸をすえて来るから、タイミングを見て皆でこの都市を脱出してほしい。その指揮を、シーファーレンにお願いしたいんだよ」
「では、おりを見て、同時に行動できるようにしておきましょう」
「スティーリアは、ここにいるよ」
そう言って、俺はさっきまでいた、ホテルの名前をいう。
「わかりましたわ」
「じゃあ、おおよその時間を決める。明日の夜までには、全員で抜け出せる?」
「聖女様が、そうなされたいのであれば」
「じゃあ、お願い」
「聖女様たちが、教会で騒動を起こしたため、奴らが血眼になって探しております。お気をつけて」
「知ってる」
「では、あと何も言う事はございません」
「ありがとう。じゃあ、お願いね」
「はい。確実に脱出させます」
「ウェステート・マロエ・アグマリナも気を付けて」
「「「はい!」」」
俺が微笑んで、するりと裏木戸から外に出る。流石は大賢者のシーファーレン、二手三手先を読んで、次の動きを予測しているようだ。となれば、あとは俺達がやる事は決まっている。
「じゃ、あの商会に行こうか」
「わかった」
アンナと一緒に街を歩き、商会が見える街角に来た。まだ店は閉まっており、周りに悪そうな奴らが、警備で立っているようだった。
「おー、いるいる襲撃を恐れてるのかな?」
「そうだろうな」
「じゃ、始めようか」
俺が真上に向けて、黒雲を浮かべていく。それがするりと流れて、商会の上の空に黒雲が集まり始め、あっというまに建物に影を作った。雲が厚くなっていくと、ぽつぽつと雨が降り出す。
「さて、準備は出来た」
「敵がどうでるかが楽しみだ」
「どっちでもいい。スティーリアを怖がらせた分はきっちり返す」
俺は、その雲に向けて魔法をかける。
「ライトニングボルト!」
ピカ! ピカ! ドン! ドン!
黒雲から商会の建物に、太い雷が降り注ぎ始めた。屋根や壁に堕ちて、木造の建物に穴をあけ始める。木のはじける音が響き、突然、町中に嵐が吹き荒れた。周りの建物から、慌てて驚いた人らが出て来て、その様子を見て呆然としている。
「おおー、やっぱりびっくりしてる」
「そうだな」
「庭に出た奴らは、たぶん感電してる」
「恐ろしい」
外で見張っていた奴らも、慌てて飛び込んで行った。
「バカめ」
「ふふ」
ピカ! ドン! ピカ! ドン!
落雷の渦に飛び込んだら、どうなるかなど分かっていないのだろう。そもそも、他は天気がいいので、状況が分からずに不用意に入ってしまったようだ。魔力を送るのをやめると、黒雲が薄れて消えていく。
「煙が上がってるね」
「焼けたのだろう」
次第に黒煙が色濃くなっていき、あたりにモウモウと煙が立ち込めてきた。
そこで俺が、大声で叫ぶ。
「火事だ!」
家々から一斉に人が出て来て、慌てて水を汲みに走り始めた。すると、あたりに見物人が増え始める。俺とアンナは、するりと見物人に混ざって近づいて行く。
見物人の一人が言った。
「なんか、いきなりカミナリが落ちたんだ」
「あの商会からは悪い噂しか聞こえてこないからな、きっと天罰が下ったんだろう」
「違いないわ。人相の悪い奴らが、周りを囲んでたから物騒だったもの」
そう。天罰だ。スティーリアを怖がらせた天罰。
すると、馬の蹄の音が聞こえて来る。見物人が慌てて道を開け、俺達も一緒に避けた。
「うわ! 焼けているぞ!」
「はやく! 薬を運び出せ!」
「火は消せぬのか!」
馬に乗った男達と、走って来た男達。筋肉隆々で、どう考えても荒事に慣れてる雰囲気。
俺は、こっそり耳打ちした。
「アンナ……あれ、どっちだろ? 悪党か騎士か」
「衣装が町民を装っているが、馬術は悪党の腕ではない。言葉づかいも乱れてない」
たしかに、馬のさばき方が上手ではある。という事は、ズーラント帝国の騎士という事も考えられる。いずれにせよ、敵兵であることに間違いはないが。
パカランパカラン!
次々に馬に乗った屈強な男達がやって来たので、俺達は野次馬の後ろから抜けでた。周りを見渡すと、オープンテラスのある食堂が見える。
「あそこに行こう」
「ああ」
店に行くと、店員と客が外に出て火事の様子を見物していた。
「あ、店。やってる?」
「は、はい。どうぞ! あれ、火事ですよね」
「そうみたい。火の用心だよね」
「そうですねー」
俺達が店に入ると、がらんとしていた。どうやら全員が、やじ馬で外に出たみたい。
だがそこに、店の主のような親父が出て来る。
「わりいが、火消しの手伝いに行かなきゃならん。料理は出せねえ」
「あー、じゃあ飲み物だけ。あの人に頼めばいい?」
「そいつは構わねえ。適当にやってくれ!」
そういって主人が、店番の女に託して出て行った。
「な、なんにします?」
「果実系の飲み物があれば」
「はい!」
俺達は窓際の席に陣取り、そこに果物の飲み物が運ばれる。それを手に取って、窓の外を見ていた。
「なかなか、本丸が来ないなあ」
「だな。いないのか、こんな事でわざわざ出てこないのか」
「だが、屈強な男らは集まってる」
「騎士が、何をやっているのか」
焼け焦げた店の中から、木箱が運び出されて積み上げられて行く。火事で焼け残った、麻薬を取り出しているのだろう。だが、みながあちこち火傷を負っているようだ。
「あそこまでするかね」
「やらされてるんじゃないか?」
「なるほど」
まあ簡単に、目当ての人間を見つけられたらいいんだが、集まって来たのは町人に扮した騎士ばかり。足無し蜥蜴っぽい悪党がいない。
「なぜ、騎士が麻薬を守るかだ」
「もしかしたらだが」
「なに?」
「ズーラントから運び込んだのではないか?」
「というと? あれは、ズーラント帝国の騎士?」
「だとすれば、駐屯する為の資金稼ぎか……」
アンナの説明は、俺の中でも結構腑に落ちた。集まっている奴らはズーラントの騎士という事になる。ということは、アイツらの中に「ガジ」とやらがいるかも。
「まだ……顔を知らないんだよね」
「不用意には動けんな」
「ド……何某、なら、顔を見てるんだけど」
「ギルドに要請しないのは、やましいことがあるからだろうな」
「確かに」
とかなんとか話しているうちに、商会は鎮火したようだ。結構焼けたが、半分は残っている。
「見物人が、はけはじめた」
「んじゃ、私達もでるとしようか」
「ああ」
女の子を呼びつけて、金を払って店を出る。すると見物人たちが、ぞろぞろと戻ってくるところった。人ごみに紛れつつ、俺達は騎士が歩いて来る方角へと向かった。
「何処からきてるのかな?」
二人は、何食わぬ顔で騎士とすれ違いながら、街の中をうろついた。
「アンナ、あれ」
「同じだな」
何人もの騎士とすれ違って気が付いたが、騎士は腰に同じような短剣をぶら下げていた。その短剣を入れる鞘に、同じマークが入っているが間違いない。ズーラント帝国の紋章だ。
「じゃ、さらうか」
「めぼしいのを探そう」
すると、一人で歩いている奴を見つける。俺達はそいつをこっそり追いかけ、人目のつかない一瞬の隙に、アンナが意識を狩る。ずるずる、と路地裏に引き込み、更に家と家の間の隙間に引きずり込んだ。
「さてと、どっかに連れ込みたいね」
「それじゃあ、わたしの変身ペンダントをつけよう」
アンナが、男にペンダントを付けると女に変わった。アンナがフードを深くかぶり、その男を背負う。そして、二人は何食わぬ顔で路地に戻り、あのボロの宿屋に向かって歩いて行くのだった。




