第399話 スティーリアの屈辱を晴らすために
服を破かれたスティーリアが、無防備に座っている。アンナは、代わりの服を調達すると出て行った。もちろん、ここは敵地。こんな事を考えている場合ではないのだが、聖女の中の人であるスケベな俺の、邪な気持ちがむくむくと起き上がる。
「ス、スティーリア。大変だったね」
そう声をかけながら、どうしても目線が胸に行ってしまう。これは……性だ。
「いえ。私は、聖女様を信頼しておりました」
うう。そうか、そうだな。そうだよね。そんなスティーリアに、邪な気持ちを持ってる俺ダメだよね。うん、だめだ。
「もちろんだよ。私は、スティーリアが窮地に立ったら、すぐに駆け付ける」
「ふふっ。まるで、おとぎ話の騎士様のような事をおっしゃるのですね」
「おとぎ話じゃなくて、本気でそうするから」
「確かに……ソフィア様の時もそうでしたね」
「そう……」
俺が何のために全力で戦っているのか? それは、可愛い仲間達のため。べつに、世界がどうなろうと知ったこっちゃない。俺に、そんなたいそうな使命感も無い。おとぎ話の騎士とか、毛頭興味がない。
「……聖女様」
「はい?」
「聖女様は、御心に決めた殿方などはいらっしゃるのですか?」
殿方じゃないけど……そ、ソフィア!
「どうかな……はっきりは分からないけど」
「氷の騎士様や、マイオール様などは、聖女様にご執心なようでございますが」
あいつら!?? ぶるぶるぶるぶる! 全身に怖気が走る。
「無理」
「えっ?」
「あ、いや。私の好みではないかな」
「そうですか。では、他に?」
「まさか。まあ、そう言う意味なら、いないという感じかな」
誰よりも漢らしいアンナが、俺の側にいるしね。というか、聖職者のスティーリアらしくない質問だ。今度はこちらから、質問をする。
「何か気になる事でも?」
「今日、私は純潔を散らすのかと思いました」
たしかに、まだ俺の怒りは収まらない……。
「ああ。本当に許せない」
「はい。だけど、もしそのような事になったら……私は生きてはいけないと思いました」
思いつめたような表情になるスティーリアに対して、俺は、こんな作戦に引き入れた事に責任を感じ、申し訳ない気持ちになる。ガシッと手を掴んで、スティーリアに言う。
「だめ」
「はい?」
「何があっても、死んじゃダメ。スティーリアは、ずっと私の側にいて」
「聖女様……」
そうか……男にやられそうになって、考えちゃってたんだね。可哀想に。
「ずっといて」
「は、はい……」
そんな健気な表情を見ていると、グッとくるものがある。
「す……ティーリ」
グッと抱き寄せようかと思った時だった。
ガチャ!
「戻ったぞ!」
ビクゥゥ!
「は、はいぃぃ!」
何か微妙な空気が流れたが、そう思っているのは俺だけか?
「ど、どうした? 聖女」
「い、いや。大丈夫」
「まずは、スティーリア。服を手に入れた。着れるか?」
「ありがとうございます。アンナ様」
その服は、町娘のような質素なものではあるが、かえって目立たなくていいだろう。と思っていたら、スティーリアは俺の前でガバッと服を脱ぎ始めた。は、恥じらい関係は、どうした? 少し強くなった?
おっ、おう……。
もちろん女しかいないのだから変じゃない、だが、もろに胸のふくらみの先っちょが見えてしまうと、じーっとてしまう。その目線に気が付いたのか、ちょっと意識したスティーリアが向こうを向いた。
「失礼をいたしました。はしたない真似を」
「いや。いいんだ。こういう時は、そんな事言ってられないからね」
「はい」
「みんなも心配だなあ……。大丈夫だろうか」
「一度、動き回るのを止めた方がいいだろう。いまごろ、教会では大騒ぎだ」
「まあ、アデルナたちはギルドで伝えたから大丈夫。ソフィアたちは、領主邸に入り込んだみたいだし、シーファーレンはまず問題ないよ。ただ、ウェステート、マロエ、アグマリナは、こういうことは初めてだから怖いだろうなあ」
「まあ、シーファーレンが付いているから、まかせるしかないだろう」
「だね。となれば、ソフィア、領主邸組か? 伝えないとね」
「ソフィア様。ミリィ、ヴァイオレットと、リンクシルか。リンクシルは、三下に後れを取る事はない。それに、ソフィア様がついていれば、下手な動きはすまい」
アンナのいう通りだろう。スティーリアが少し頑張りすぎただけ。こちらがドタバダと動きだしたら、かえって危険度が上がってしまう。
「シーファーレンかな。彼女にコンタクトをとって、この出来事を伝え、皆に伝えてもらう事にしよう」
「どこにいるだろうか?」
「いや。私達が動けば、あっちから近づいて来るよ」
「なるほど」
スティーリアが申し訳なさそうにしているが、俺もアンナも、もう対策を思い浮かべていた。
「とにかく、スティーリアはよくやった。うまくタネをまいてくれたよ」
「タネ。ですか?」
「そっ。だから、私と、魔道具の変身ペンダントを交換しよう」
「えっ?」
「いや。そのペンダントの顔がバレたから、きっとあの黒幕は狙って来る」
それらのペンダントは、ヴィレスタン城の召使たちにつけている。だから、交換すればその人になる。その顔が敵にバレたとなれば、あの殺害現場を見た奴らは、血眼になって探し出すだろう。
「それでは、聖女様が危険です」
俺は首を振った。
「それが狙い。私が狙われると非常に都合がいい。スティーリアは、ここで大人しくしてもらおうかな」
「ですが……」
「命令」
「はい」
そして俺は、自分の変身ペンダントをスティーリアに渡し、スティーリアのペンダントをもらう。
「ふぅ……」
アンナが軽く息をついたのを尻目に、俺が言う。
「さてと、アンナ。いっちょ、やりますか」
俺が言うと、スティーリアが俺にしがみつく。
「無理だけはなさらずに!」
だが逆に、アンナがフルフルと首を振った。
「いや。スティーリア、聖女は……キレてるんだ。奴らがスティーリアに、手を出したから」
「私に……?」
「……こうなったら、わたしでも止められない」
なるほど、どうやらアンナは俺を良く分かっているらしい。スティーリアに手を出した連中はおろか、あの麻薬を仕入れている商会と、それに連なってるであろう足無し蜥蜴の連中。
ぜっっったいにゆるさん!!!
「アンナ。スティーリアやみんなが見つけてくれた蜥蜴の尻尾だ。確実に追い詰めてやろうじゃないか」
「そういうだろうと思った」
俺はスティーリアに向き直り、頭をなでなでして言う。
「スティーリアが、危険を冒して見つけてくれた敵だからね、あとは、しっかりとっちめてくるからね。なーんにも心配する事無いよ、スティーリアに、あんな怖い思いをさせて許されるはずがない」
「せ、聖女さま……」
「暗くなるのを待って、ちょっと運動して来る」
そしてアンナが、スティーリアに言う。
「大丈夫だ。何かがあっても、わたしが聖女に指一本触れさせん」
「アンナ様。お願いします!」
「ああ」
そうして俺とアンナはシーファーレンに会うために、フードを深くかぶって宿屋を後にするのだった。




