表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/394

第3話 祝賀会の出会い

 王様とお妃様そして王子と姫が壇上に座り、俺もその並びに座っている。


 既にたくさんの貴族が入っている舞踏会場に、後から王族と一緒に入って来てここに座った。それはそれは盛大な拍手に包まれての入場だった。そばにミリィが居ないのが心細いが対人関係は苦手なわけじゃないので、なんとか切り抜けられるはずだ。


 ああ、さっきまで居たおばちゃん店が懐かしい…


「それでは聖女様。皆に祝福の言葉を」


 王宮の従者の男が俺の椅子に手を伸ばす。俺が立ち上がるとスッと椅子を引いてくれた。


 …祝福の言葉…。


 俺が何を話そうか困惑している時、脳内に勝手に言葉が浮かんできた。どうやらこの体の記憶のようだ。既に俺はだいぶ記憶がマッチングしてきており、カーテシーの挨拶なども思い出した。すると盛大な拍手に包まれ、その長い拍手が鎮まる。


「皆様ご多忙の中、足をお運び頂き誠にありがとうございます。私はフラル・エルチ・バナギアです。この国の聖女となりました。この国に降り注ぐ邪を振り払う使命を持って生まれました。皆様の平和な暮らしを守るために、私は…」


 と、俺にとって意味のない言葉をつらつらと並べる。別に俺はこの国がどうなろうと知ったこっちゃない。だけど、一応これが仕事らしいので、皆に挨拶をしておく必要がある。一通り記憶していた言葉を吐いた俺はカーテシーの挨拶をして終える。


 会場に割れんばかりの拍手が起きて、俺は席に戻るのだった。すぐに王が俺の言葉に対しての賛辞を述べる。


「良い、挨拶じゃった」


「ありがとうございます」


 そして今度は王が話をする番となった。正直話が長くて眠りそうになった。まあ王も仕事でやっているので、誰も文句は言わないだろう。


 王が話をしている間、俺は高い所から会場内を見渡す。貴族の男女がたくさんおり、その視線が俺に注いでいるのが分かる。俺が主賓のようなものなのだから、仕方がないとは思うが緊張するのでやめてほしい。


 なんといっても俺は今朝まで、スマホをいじりながらゴロゴロしていたのだから。


 もう一つ気になるのが俺の隣りに座っている男だ。こいつはこの国の第一王子カレウス。どっちかっつーと色気づいたあんちゃんって感じでキモイ。そいつが俺の事を、ちらちらと舐めまわすように見てくるのだ。


 おい…あんちゃん…、そんな下心丸出しで女をみたら幻滅されるぜ…


 そんな事を思いながら、あえて王子を全く見ないようにする。目が合うとニッコリ笑って来るので、そんな気色の悪い顔を見たくはなかった。そもそも、この王子には許嫁がいるのだ。聖女に色目を使っている場合ではない。そんな事をしていると、許嫁にチクっちゃうよ。


「…今日は聖女とこの国の未来を祝ってほしい!」


 王の挨拶が終わると歓声があがり、続いて乾杯となった。俺はシャンパンのような飲み物をするりと喉に流し込む。


 うまっ! これ美味いんだけど!


 相当、高級な酒だと分かる。それからすぐ立食パーティーが始まった。すると、さっき俺が挨拶をしている時に、熱い視線を送ってきていた男たちがこちらへ近づいて来る。


 うわ! 来んな! 来んな! 


 俺の願いもむなしく、最初の男が俺に声をかけて来る。


「聖女様。今日もお美しい!」


 おいおい、見た目を褒めてるだけじゃねえか。鏡見てるから、そんなん俺でも分かるわ! てか俺は聖女だぞ! なんだ? ナンパでもするつもりか! おう”?


 男に声をかけられて、俺の腕にぽつぽつと鳥肌が立つ。そして俺は冷たく答える。


「そんなことはありません。至って普通です」


 すると男は、もっと鼻の下を伸ばして言って来た。


「そして、いつも謙虚でいらっしゃる。世の女性達は聖女様を見習うべきかと」


 あー、だるい。早くこいつの話終わんねえかなあ。


 俺は愛想笑いを続けているが、そろそろ顔の筋肉が強張って来た。するとその会話を終わらせる人が出て来た。


「さあさあ、ドモクレー伯爵。他の皆も聖女様とお話をしたいのです」


「これは、セクカ卿。失礼をいたしました」


 そういうと、ドモクレー伯爵は俺にウインクをしてその場を去っていった。


 キモ! 不敬だぞ!


 そして次に現れたのが、これまたキモイ男だった。更に会話したくない奴との会話はもっと弾まない。記憶を辿っても、聖女の体は二人の事を苦手に思っているらしい。俺も苦手だ。キモイ。


「ごきげんよう」


「聖女様、本日はとてもめでたい日となりました。ささやかではございますが、贈り物をご用意してございます。もう部屋に届いておると思いますので、どうぞお召しになっていただけましたらと思います」


 なるほどね。雰囲気はきもいけど、貢物は悪くない作戦だ。後は送られた物によるが、それ次第ではまた話をしてあげてもいいよ。いや、やっぱ無理。


 それからも次々に俺のもとに男らが挨拶をしに来る。


 とにかくめんどくせえ。美しいとか麗しいとかうるせえ! と言いたいところだが、そんな事をいったら聖女としての地位が危うくなってしまいそうだ。職にあぶれてしまったら、こんな訳の分からない世界で生きていく自信が無い。媚びを売ってくる男らは、心でシャットアウトすればいいだけだ。顔が引きつってきたのがしんどいが、そのうち終わるだろう。


 …と思っていたが、かれこれ一時間以上、男たちの挨拶攻めを受けることとなった。死ぬ。恐らく俺の顔面の筋肉は崩壊寸前だ。


「聖女様。よろしければご一緒に、婦人達の方へ参りませんか?」


 私の側に来た第二王女のビクトレナが、見かねて誘い出してくれた。ビクトレナは化粧濃いめの可愛い子ちゃんだ。もちろん王女としてのプライドもあるので取り扱い注意だが、聖女の事は気に入ってくれているようだ。…と、この体の記憶にはインプットされている。


 いずれにせよめっちゃ助かったぁ…。好き。


「はい」


 俺はビクトレナに連れられて、婦人たちが待つ場所へと歩いて行く。ビクトレナがきたことで、その回りに女性達が集まり出した。


 すると最初に、めちゃくちゃ美しい俺のドストライクの女が声をかけて来た。


「ビクトレナ様」


 声も可愛すぎる! 好き!


「ごきげんよう。ソフィア」


「ビクトレナ様。お元気そうで何よりでございます」


 お、俺も声をかけなくっちゃ!!


「ごきげんよう」


「聖女様もお元気そうで」


「ソフィアも」


 聖女の記憶でもソフィアは得点が高い。公爵令嬢で名をソフィア・レーナ・マルレーンという。目がキリリと吊り上がった美人で、ちょっと気が強くて意地悪そうな感じがするが、根が優しいので聖女も気に入っているらしい。


 見た目はまんま悪役令嬢だが。


 そうして俺は婦人達との、魅惑のトークタイムへと突入するのだった。

次話:第4話 大好きな公爵令嬢

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ