第390話 戦いの中で団結力がアップする聖女軍団
第五の災いを振り撒いた俺達が、基地に帰った次の日だった。聖女邸の面々で災いの話をしていると、連絡兵がやってきて俺に告げる。
「聖女様。来訪者です」
来たか……。
「わかりました」
俺とアンナが立ち上がり、別の部屋に連れていかれる。するとそこには、ルクスエリムの諜報がいた。俺達が動けば、コイツが来るようになっているらしい。部屋に入って、対面に座る。
「聖女様。御多忙のところ、お呼びだてして申し訳ございません」
「いえ、当然でしょう。東スルデン聖都の話ですよね」
「ええ。此度の作戦は、相当な効果をもたらしたようですね」
「そうでしたか?」
「草も、花も、水も、野良犬ですら凍りました」
なるほど、予想通りの効果が出たらしい。俺も、いま初めて聞いた。
「ええ、そのつもりでやりましたから」
「それで……あれは、どのような物なのでしょうかな」
俺はシーファーレンから説明された、そのままを説明してやった。
「あれは、融けません」
「融けない?」
「ええ、融けません。地中まで凍り付いています」
「凄まじいものですな。まるで酷寒の土地でしたよ」
「災いですから」
すると諜報が、少し俯いて言う。
「……本物の災い……ですな……聖女様」
「そう見えなければ、意味がありませんから」
「……そうですか、このことは王宮にも伝わります」
なんだろう? いつもとは違う雰囲気に見える。いつもは手放しで、喜んでいるような感じだったが、今日は何かが違っていた。
「ええ、伝えていただいて構いません」
「わかりました。それでは……」
だが、いつものようにさらりと去る事は無かった。そしてまた、ぽつりと言う。
「聖女様、他国へ行く予定は?」
「どうでしょう? 状況によってはアルカナ共和国、援軍が必用ならトリアングルム連合国ですか」
「そうですか……わかりました」
なるほど。わかった……。俺が王宮で、言う事を聞かなければ亡命すると捨て台詞を吐いた。それのせいで、俺を疑っているか探っているんだろう……。まあ、半分はフォルティス団長の入れ知恵だったが、流石にやり過ぎたのかもしれない。これ以上面倒な話は不要だと思い、俺が諜報に言う。
「ええ。では、これにて」
「……はい。災いは、最後まで続けられるんですか」
「最悪は。でも、それでは大したことがないとバレるでしょうね」
「わかりました。では、良き方向に進むことを願います」
「はい」
そして諜報が鋭い目つきをしながら、その部屋を後にした。
アンナが俺に言う。
「流石に、あの王宮での事は効いたらしいな」
「そうだね。やらかしたかなあ」
するとアンナが、悪い顔をして言う。
「いざとなったら、フォルティス団長にそそのかされた……というシナリオでいいだろう」
「なるほどね。あのときは、ルクセンもいたしね。証人になるか」
「そういうことだ」
俺達ふたりが、聖女邸の面々のところに行き、諜報と話をした時の事を話す。
それにソフィアが言う。
「確かに……警戒されているようですね」
「だよね」
シーファーレンが笑う。
「でも、あの時……近衛の団長様が何かおっしゃってませんでした?」
「あー……」
思い出したくもない、バレンティア。世界が敵になっても、ついて来るとかなんとか。めんどくせえ。
「それに、ここでフォルティス団長が言った事。わたくし達も聞いておりましたわ」
「いや……アンナと同じこと言うんだ」
「あら、アンナ様。奇遇ですわね」
「大賢者もなかなかに」
二人がにやりと笑う。それを見て、聖女邸の面々もニヤリとしていた。……彼女らは、俺に感化されているようだ。すると、そんな事を言わないと思っていた、ソフィアまでが言う。
「聖女様。国内が二分するような出来事が起きても、わたくしは聖女様の元におります」
ミリィが言う。
「私も」
スティーリアもヴァイオレットもアデルナも、そして聖女邸の全員が頷いた。
さらに、ウェステートまでが言った。
「ええ、大人の事情は良く分かりませんが、私も、もちろん聖女様とソフィア様についてまいります」
そうやって話をしているところに、会議室へ来るように声がかかった。俺達が底に行くと、フォルティスやルクセン、シベリオルが待っていた。
フォルティスが聞いて来る。
「諜報がいらっしゃったらしいですが」
「ええ。聖都の状況を報告しに来ました。どうやら、第五の災いはうまくいったようです」
「そうですか、では次の動きに入れますね」
「ええ。それもこれも、フォルティス団長のおかげです!」
「わ、私のですか?」
「はい」
「聖女様の功だと思われますが」
「いいえ。フォルティス卿のおかげです。ねえ、みんな」
「「「「「「はい」」」」」」
フォルティスは、女達からそう言われ複雑な顔をしている。
俺達は直感的に気づいたのだ、戦後の俺達の扱いは微妙なところにあると。邪神が片付いても、隣国に亡命されてしまう可能性があるのならば、いろいろと問題があるということだろう。
ようやく……この異世界の……男社会の問題が彼女らにも、はっきりと伝わったのである。先に気が付いていたのはシーファーレンだけだったが、いまでは全員が男らの無能に気が付いたのだ。
そして俺が聞く。
「では、団長。和平交渉の第一段階、に入ってください」
「わかりました! 速やかに動きましょう」
「お願いします」
そして俺達は、会議室を出る。直ぐにウェステートに言った。
「あの、ウェステート。一度前線を離れ、ヴィレスタン城で大事な話をしましょう。女同士で」
「それが良さそうですね。お爺様も父上もここにいるようですので、私と一緒に参りましょう」
「そうしてください」
そして俺達は騎士に断りを入れて、前線基地を抜け出した。ヒッポの馬車に乗り込み、ヴィレスタンの城に向かう。もちろん、女達だけで誰にも話を聞かれる事の無い場所、女だけのお風呂に入りに。




