第376話 思いついた新戦力
敵国の兵士達を大量に縛り上げ、兵達が自国へと引き連れて行く。その全てを、国境で待っているヴィレスタンの兵達に受け渡すと、引き継がれた彼らが護送して牢屋に連れて行った。既に戦争が想定されていたため、牢屋では受け入れの準備が出来ている。
そしてフォルティスが俺に言う。
「ここから、先に進むにあたって兵站線の確保が重要になります」
「神都までという事になりますね?」
「はい。ここは入り口ですからな。国に近いためどうとでもなりますが、兵を残しつつ先に進まねばなりません」
「なるほど」
そいつは面倒だ。だけど、フォルティスの言うとおりにしないと、先行部隊が孤立する。この段階では圧倒的有利に戦いを進められても、奥に行くほどに兵力が削られるという訳だ。
「だから三万人も必要なんですね」
「そうです。じきに農民兵も合流するでしょうから、そうすれば更に奥に進めるという訳です」
「わかりました」
なるほどね。一気に三万人で神都に進んで行く訳じゃなねえって事だな。
俺達は既にスルデン神国側の、兵士の駐屯地を占拠しており、俺達はそこで話をしている。
するとそこに、突然来客が来る。
「聖女様」
ルクスエリムの諜報員だった。俺のところに来て跪いた。
「座ってください」
「は!」
席に座り、俺とフォルティスと三人になる。
「どうしました?」
「アルカナ共和国に進んでいた、デビドの軍が止まりました」
よっしゃ!
「そうですか」
「流石に、自国に兵を進められては、国を空ける訳にはいかなくなったようです」
「まあこれから、どう動くかも分らないですからね。こちらは攻撃を緩めません」
「は!」
そしてフォルティスも言う。
「ここまでは読み通りという訳ですな」
「そうなりますね。ですが、(あれ)だけが敵ではないです。何が出るかは先に進まねば」
「邪神ですかな?」
「それもそうですが、それに限りません。邪神教団というものの存在もあります。トリアングルムでは、どこからともなく湧き出てきました」
「やっかいですな」
「一般市民に紛れていたのかもしれません」
「なるほど」
「ですので、侵攻先で、村人や街の人に食べ物をもらったりするのは避けた方が良いかと」
「全軍に通達を出しましょう」
そして最後にルクスエリムの諜報が言う。
「あの聖女様。魔獣はおりますかな?」
「ヒッポ?」
「はい。ヒポグリフの馬車」
「いますけど」
「ならば一つ使える手段があるかと」
「どういう?」
「東スルデン神国の中枢に、強襲をかけてはいかがでしょう」
「強襲?」
「本部を奇襲するのでございます」
「本部を……」
「まあ、決定的に戦力を削るわけでは無いですが、敵は既に聖女様をかなり恐れています。そこで、あのデビドの居ぬ間に、強襲をかけて打撃を加えるのです」
「どんな?」
「こちらには、聖女様、賢者様、特級冒険者がおります。それに、魔導士を連れて行き、空から魔法を降らせるというのは如何でしょうか?」
それを聞いてフォルティスが言う。
「だが、敵にまたワイバーンに乗るものが居たらどうします?」
「万が一それが出た場合、逃げ帰って来ればよろしい」
だけどそこで俺が一つ、いいアイデアを思い付いた。
「貴族学校に入れているゼリスを呼び戻します」
二人は俺を見る。だが俺はゼリスを使って、すっごい嫌がらせを思いついたのだった。
「あの、少年ですかな?」
「ええ。善は急げ。直ぐに旅立ちます」
そう言って俺は、話し合いを打ち切った。直ぐにアンナに言い、俺達は魔法を習いに行っている、貴族学校のゼリスをむかえに行く事にした。
そして待っていたマグノリアに言う。
「ゼリスを迎えに行くよ」
「えっ! あの子を?」
「ちょっと作戦に加わってもらいたいんだ」
「わかりました!」
マグノリアも久しぶりに会える弟の事で、目をキラキラさせ始めた。直ぐに準備をして、ヴィレスタン領を飛び出す。
王都まで数時間、ヒッポの馬車が一気にヒストリア王国貴族学校に下りていく。生徒たちが空を見上げ、先生達も何事かと大勢外に出てきた。俺達の馬車が広場に降りると、生徒たちが遠巻きにこちらを眺めている。
馬車の扉を開けて、俺とアンナが降り立つと、一斉に先生と生徒が膝をついた。
えっ? ここでも俺こんな扱いなの?
「マグノリアはここで待ってて。アンナ、行こう」
「ああ」
そして俺とアンナは、真っすぐにひげを蓄えた先生の所に行く。それはこの貴族学校の校長で、俺達はゼリスを預ける時に一度会っている。
「こ、これは! 聖女様!」
「すみません。急で」
「いえ! 何か御用でありましょうか? いまは有事と聞いておりますが?」
「ええ。ちょっとこちらで面倒を見てもらっている、ゼリスを連れて行きたいのですが。よろしい?」
「わかりました」
そして校舎の方から先生に連れられて、ゼリスがやって来る。
すると……心なしか、学校の女生徒たちから黄色い声援が上がった気がする。
あれ? ちょっと背伸びた?
「聖女様!」
あ、やべ。コイツ、俺にめっちゃ懐いてたんだ。
「ゼリス。きちんと学んでいますか?」
「はい!」
するとゼリスに変わって校長が言う。
「流石は、勢女様のご推薦による生徒でございます。かなりの精度で、珍しいテイム魔法が使えるようですね。学びによって、言葉も多く覚え魔法の種類も増えて御座います」
おお。
「わかりました。ゼリス、私達とあなたのお姉さんも、今戦争をしています。あなたの力が必要となりましたので、一緒に来なさい」
「はい!」
めっちゃ嬉しそうじゃねえか。ガキ。
「という訳なので、校長。しばし休学と言う事で」
「は、はは!」
「では、ゼリス身支度をまとめて来なさい」
「はい!」
飛んでいくように、ゼリスが校舎へと戻って行った。
本当は、聖女邸の子らに、かわいいかわいいと贔屓されるので連れて行きたくはないが、今はゼリスの力を有効に使う時だ。
ゼリスが戻ってくると、やはり女生徒たちから黄色い声が上がっていた。
うん。マグノリアの弟じゃなかったら、一生会う事は無かった。マグノリアの弟という特権を許してやろうじゃないか。
そう思い。ヒッポの馬車に乗り込み、前線へと飛び立つのだった。




