第363話 ヴィレスタン領への帰還とお清め
ヴィレスタン領の関所付近に戻って来た俺達は、真っすぐにソフィアたちが陣を構えている場所に向かう。交代制で騎士達が見張りに立ち、敵の侵入はずっと防いでいたようだ。
レルベンゲルが久々に騎士団の前に姿を現す。
「副団長! 状況は!」
「は! 団長! 敵国からの嫌がらせのような火矢などは飛んできますが、特に軍が動く様子は無いようです!」
「ご苦労! ここからの指揮は俺が執る! お前は少し休め!」
「大丈夫です!」
「恐らく敵は攻めては来ない。だから兵士の半分には休息を取らせろ」
「は!」
そして副団長は伝令を出した。
俺も真っすぐにソフィアのところに行く。ソフィアと聖女邸の面々が、俺のところに集まって来た。
「変身のペンダント外しても良いよ」
「「「「「「「はい」」」」」」」
皆が元に戻り、俺は皆に言う。
「皆も疲れたでしょう。ここはレルベンゲル団長とルクセン卿にお任せして、屯所でお休みしよう」
「よろしいのですか?」
「いいよ」
仲間を連れて、前線の屯所へと入る。そこで待っていたウェステートを見て、ソフィアが走り寄る。
「ウェステート!」
「ソフィア様!」
「何もされてない? 大丈夫?」
「はい。純潔は守りました」
「良かった…本当によかった」
そう言って、ソフィアはポロポロと泣き出した。
うう、泣いてるソフィアも可愛い。
俺がソフィアに言う。
「戻ってくるまで我慢していてくれたね」
「いえ。当然のことです。ウェステートがさらわれたのは、私に責任があります」
するとウェステートが首を振る。
「そんな事はございません! まさか屋敷の二階に、ワイバーンが飛んでくるなど誰も思いません!」
「そうだよ。ソフィア、こればっかりは相手が一枚上手だった」
「犯人は?」
「足無蜥蜴で間違いなかったよ」
「どうなったのです?」
「捕まえた。ここで取り調べをして吐かなければ、あとは王宮の専門家に頼むしかないだろうね」
「そうなのですね」
そして俺はため息をつく。
「ふう」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。やっぱりトリアングルムのネメシス戦で、何かを取り逃したのは間違いないかも」
「やはりですか」
「足無蜥蜴の首領は、第四騎士団で副団長をしていたドペルだったんだけど、ネメシスみたいな能力を行使してたんだよ」
「ネメシス……」
それを聞いてソフィアは身震いした。トリアングルムでのネメシスが恐ろしすぎて、恐らくはトラウマになっているのだろう。
「あれらは、人の弱みに付け込んで籠絡して操るみたい。ドペルの意識を途切れさせたら、その力は発動しなかったんだよ」
「恐ろしい」
「恐らくは、女神フォルトゥーナの使徒には効かない。だから仲間達も、ウェステートも操られる事は無かったんだ」
「信仰の強い者には……という事は、ドペルはネメシスの闇に落ちた人間という事ですか?」
それにはシーファーレンが答える。
「そう考えてよろしいと思います。最も闇の深い人間でしたから、ネメシスにとっては最高の僕であったと思います」
そして俺が言う。
「邪神は信徒に力を授けるのか?」
「それは女神フォルトゥーナとて同じですわ。聖女様にも皆様にも加護があります」
「そうか。加護みたいなものか……」
「はい」
ソフィアが聞いて来る。
「今はどこに?」
「屯所の牢屋に入れた。だけどアイツは人を操る危険性があるから、シーファーレンの闇魔法で眠らせてある。食べ物と飲み物を与える時以外は、ずっと寝てもらってるよ」
「そうですか」
屯所に入って分かったけど、ここにいる女子全員が……汗臭い。そこで俺が言う。
「ていうか、みんなお風呂入ってないよね?」
皆が自分の体に鼻をつけて嗅いでいる。ソフィアが言った。
「汗臭いでしょうか?」
「それは私達もね。遠征中にお風呂になんか入れなかったから。ウェステートもずっと捕らえられていたしね」
「可哀想に。もちろん私たちもずっとここで寝泊まりしていましたので、汚れております」
「じゃあ、皆でヴィレスタン城に戻ってお風呂入ろう。女性にはやっぱりキツイでしょ」
俺が言うと皆が頷いた。
皆を引き連れて、ヴィレスタン城へと戻ると、貴族令嬢たちが血相変えて飛び出して来た。
「聖女様! ソフィア様!」
「あー。皆待たせたね」
そして後からきたウェステートを見て、皆が目を丸くした。
「ウェステート様! ご無事で!」
「あの。皆さんご心配をおかけしました。こうして無事に戻ってまいりました」
すると貴族令嬢から歓声が上がる。
「よかったです!」
「流石は聖女様!」
「皆さんご無事で!」
「皆も不安だったでしょう?」
「私達など、何もすることができずに城に居ました」
俺が苦笑いしながら言う。
「ていうか、私達、汗臭いでしょ?」
「気になりませんわ!」
ウェステートが使用人を呼んだ。使用人が慌ててやって来る。
「お嬢様! よくぞご無事で!」
「聖女様のおかげよ」
「ありがとうございます! 聖女様!」
「それよりも、皆さんの湯網の準備を。後は着替えをご用意差し上げてください」
「「「「はい!」」」」
使用人たちが急いで奥へ走っていく。とりあえず俺達は食堂へと移り、テーブルの周りの椅子に腰かけた。ウェステートが気を使って言う。
「何か食べ物をご用意させましょう!」
だが俺が言った。
「ウェステートは気を使わないで。誘拐されて怖い思いをして帰って来たんだから、もう休んで良いよ」
「あの。私は信じておりました。ずっと心で祈りを捧げ、聖女様がお救い下さるんだと信じて疑いませんでした。だからそれほど、精神的には参っておりません」
「ウェステートは強いね」
「王都の聖女様のお屋敷に行くまでは、絶対にあきらめません」
すると聖女邸の面々が微笑んでいた。
そして俺が言う。
「ここにいる十三人は、絶対に私が守るから。何があっても、絶対にあきらめないでね」
「「「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」」」
メイド達が水を持って来てくれたので喉を潤した。すぐに使用人が入って来る。
「湯網の準備ができました!」
キター!
ウェステートが、こちらに振り向いてみんなに言った。
「それでは皆様。汚れを洗い流す事に致しましょう」
皆で辺境伯邸の大浴場に行き、皆がさっさと服を脱いだ。だがそこで俺がウェステートに言う。
「ちょ。痣になってるじゃない!」
「あ。大したことありません」
ウェステートが言わなかったから気が付かなかったけど、太ももや二の腕に痣が残っていた。
「叩かれたの?」
「はい……」
「ちょっとおいで」
裸になったウェステートを連れて、俺は体の隅々まで見た。
うん。おっぱいは大丈夫。おしりも大丈夫。前も…大丈夫。
どうやら腕と太ももの痣しかないようだ。
「今度から我慢しなくていいからね」
「はい!」
俺はすぐにウェステートの体の隅々まで治癒を施す。二人で浴室に入ると、皆が心配そうにウェステートを見ていた。
「あー、大きな怪我は無かったよ。皆も怪我したら我慢しないで言ってね」
一安心したのか、皆が体を洗い流し始める。すると、ミリィとスティーリアがやって来た。
「聖女様。お流し致します」
「ああ。自分でやるよ! いいよ」
「いえ。私たちのお仕事です」
そう言ってミリィとスティーリアは、俺の頭や体を洗いだした。すると俺から洗い流されるお湯に、赤いものが混ざり始める。
「これは…」
「返り血だよ。私のじゃない」
「そんな戦いをしていらっしゃったのですか?」
「ちょっと仲間達を苦しめて来たからさ、めっちゃくちゃお仕置きしたらいっぱい血を浴びちゃった」
するとミリィとスティーリアが裸で抱き着いて来た。
「あまりご無理をなさらないでくださいまし」
「聖女様に何かありましたら、私達は光を失います」
「分かってる。でもなんか変なんだよね。全然怪我もしないし、めっちゃくちゃ体も動いてさ」
「それは火事場の馬鹿力でございます」
「そうです!」
すると両脇で洗っている、アンナとリンクシルが言う。
「あー。ミリィとスティーリアは見てないからそう思うだろうけど、聖女のあれは火事場の馬鹿力じゃない。ネメシス戦の時に起きた、覚醒された力だと思う」
「ウチもそう思います。ウチらは聖女様にまた救われました」
そんな話をしていると、シーファーレンもやって来た。
「奇跡かと。聖女様の身に奇跡が起きたのだと思いますわ」
ミリィとスティーリアがポカンとしている。
「奇跡でございますか?」
「そう。私の知っているような、聖女様のお力ではございませんが、真実はあのようなお力なのかと」
「聖女様のお力……魔法ではなく?」
「あれをどう言ったらいいのか分かりませんが、奇跡としか言いようがございません」
「そうですか」
自分でもよく分からないが、あの時は信じられないような力が出た。自分が接近戦にあれほど向いているとは思わなかったが、ネメシス戦の時のように力が漲ったのは事実だった。
だが俺の意識はもう、皆の豊満な肉体にしか興味が無かったのである。




