第355話 裏切り騎士ホイホイ
城を陥落させたからといって、国を取り返せたわけでは無い。まだ各地に軍隊を差し向けており、そいつらは現政府から強制的に出兵されている。それには首謀者の公爵の処刑と、王族からの国民に対する説明が必要だった。
そして俺が言う。
「まずは、王女殿下と王子を城に連れて来れるようにしなくては」
「はい」
「今は私達の味方と一緒に身を隠していますが、まずはここの安全を確たるものにしないと」
「市中に向かった裏切者達を捕らえねばなりません」
「なら。まず城を奪取したことを隠すべきです。おびき寄せて一網打尽にしましょう」
「何か考えが?」
「簡単です。曲者を捕らえたと、通達すれば済む事です」
「なるほど」
そして俺はこれからの作戦を伝える。既に、俺達の事は信じてくれているようで、素直に俺が考えた作戦に乗ってくれるようだ。
それから直ぐに罠を準備し、櫓に登ってラッパを吹いた。外に騎士達が戻って来たので、レルベンゲルが捕らえた騎士の鎧甲冑を着て言う。
「曲者は全て捕らえた! 王都に出払った騎士を戻せ!」
「わかった!」
外の騎士達は、それを伝えるために散っていく。
かわいそうに。
そして俺がヴェールユに聞く。
「で。どうします? 全員処刑する事も可能でしょうが、生かして捕らえることも出来るでしょう」
「では。恐れ入りますが、捕らえる方向で進めてはいただけませんか?」
「まだ仲間に戻る可能性があるということですね?」
「はい。それは尋問により聞いて行くしかありませんが、ヴァイネン殿下に忠誠を捧げさせます。王が不在であれば、ヴァイネン殿下が正当な王位継承者です。王が復活したことを知らしめます」
「いいでしょう。でしたら、乗っ取りを企てた公爵とやらを早く捕まえて、公開処刑をするべきです」
「分かっております。ですが今のところ、何処に逃げたのか消息を掴む事すら出来ません」
「ならば公爵の邸宅、公爵の別荘などを捜索するしかないでしょう」
「しかしながら……この状態では自由に都市を歩く事ができません」
それを聞いて、俺はルクセンとレルベンゲルとネル爺に言う。
「三人のペンダントを頂戴」
「わかったのじゃ」
「はい」
「わかりもうした!」
そして三人の変わり身のペンダントを受け取った。
「城のメイド服を三つ用意してください」
「わかりました」
そしてヴェールユの部下が、メイド服を三着用意してくる。
「では近衛騎士長と、二人が城を出て探りに行ってください。これをつけて」
「これは?」
「つければ分かります」
するとヴェールユと副審と小隊長らしき男が、ペンダントをつけた。そこに現れたのは、スティーリアとアデルナとヴァイオレットだった。
「お、女になった!」
「見た目だけです。話す時は充分注意をしてください」
「わ、わかりました」
「その状態で服を着替えれば、メイドに変装する事が可能です」
「はい」
そして三人はそそくさと着替えて、準備を完了させた。
「では、公爵の捜索をよろしくお願いします」
「ここは任せてもよろしいので?」
「捕えればよろしいのでしょう? 容易い事です」
「わかりました」
そして三人は王城を出て行った。とにかく首謀者の公爵が見つからない事には話にならない。三人が裏木戸から出て行くのを確認し、表門の方から近衛騎士が伝えて来た。
「戻って来たから、門を開けてくれと言っています !」
「では、いきましょう」
俺は既に罠を仕掛けている。まず門のところに行って、近衛や俺達に縄をかけたようにしてもらうのだ。そしてガラガラと門が上がる。
「おお! こんなところに罪人が放置されている」
「かわいい女じゃねえか。謀反を働いたのは本当にコイツか?」
「もしかして、俺達に楽しめって事なんじゃないのか?」
うわあ…アンナもシーファーレンも怒ってる。とにかく兵士達の一陣が中に入ったところで、門がガラガラと閉められた。それを見て俺もアンナもシーファーレンも、パンパンと土をはたいて立ち上がる。
「なっ! 縛られてねえぞ!」
俺はスッと魔法の杖をあげた。
「スプラッシュライトニング」
ピシャッ! と男達が倒れる。それを見て近衛達も縄を解き、直ぐにそいつらを縛り上げた。するとまた門の方から近衛が言った。
「次の陣が来ました!」
「はやく! こいつらを片付けて!」
急いで縛られた騎士達を片付ける。俺達も急いで自分達に縄をかけて跪いた。
「では…開けてください」
「はい」
ガラガラガラ。
再び開けられ、騎士達がぞろぞろと入って来た。
「なんだなんだ! 綺麗どころがそろってるじゃないか!」
「こいつらが曲者かい?」
「曲者? いやいや慰み者だろ!」
「ちげえねえ」
アンナが殺す前に俺はスッと立って、直ぐにスプラッシュライトニングを放った。男達がごろりと寝転がり、近衛達が縛り上げて隠しす。
「大漁大漁!」
「面白いようにひっかかりますわね」
「この調子でどんどん行くよー!」
近衛騎士のおっさんらが苦笑いしている。そして近衛の一人が言った。
「本当にありがとうございます。近衛騎士として、王家に遣えられるように協力までしていただいて」
「まあ。なにかのご縁です」
そのなにかとは、プーリャが案外可愛かったから。
「このご恩は、必ず返されると思います」
「それはヴァイネン殿下とご相談ですね」
「はい」
また門の方から声が上がった。
「三陣が来ました!」
俺達は急いで体に縄をかけて跪き、項垂れて次の騎士達を待つのだった。




