第353話 アルカナ王城への再潜入
俺達がアルカナ王城再潜入の方法を話している時、ルクセン達が戻って来た。あちこちで荷馬車を盗んで、ここまで運んで来てくれたらしい。騒ぎになる前に、直ぐに出発しようという事になる。
そこで俺がヴェールユに言った。
「荷馬車に乗り込みましょう。とにかく時間との勝負です」
「わかりました!」
そしてヴェールユが娼館の主人に言う。
「世話になった! この恩はいずれ」
「おねがいしますよ」
「ああ」
そして皆が幌馬車に乗り込み、ルクセンとレルベンゲルとネル爺が馬車をひいて行く。だが手薄になっているとはいえ、王城の周りには騎士達がうろついていた。
俺達は路地裏から王城を眺め、突破の段取りを皆に伝える。
「王城入り口は、私達が行って何とかします」
「しかし。門が開いていないです」
「大丈夫。これから私が身体強化を皆さんに施します。皆で必ず持ち上がりますので、その隙に入ってください」
「逃げる時のあれですか? ですが門はかなりの重量です」
「いけます」
皆が沈黙しているが、アンナが俺に言う。
「実際に身体強化を受ければわかる」
「なるほど…ではお願いします」
「では」
俺は魔法の杖をかざして詠唱した。
「筋力強化、筋力最強化、脚力強化、脚力最強化、敏捷性強化、魔法耐性、物理耐性、思考加速」
ギンギンに身体魔法をかけてやると、近衛たちが何度も光り輝いた。
「うおお!」
「こ、これは!」
「なんだ!」
やはり驚いているようだ。皆に身体強化をかけ終わり、味方にも身体強化を施した。
「では」
俺とアンナが娼館で借りた帽子とドレスを着て、そそくさと王城の前の通りを歩いて行く。
「おっ! 娼婦か!」
「いいねえ。お相手してくれ!」
「その顔を見せてくれよ」
寄って来た。
おえ。くんな。
ぺこりとお辞儀をし足早に歩いて行くと、騎士が事もあろうに俺のケツをぺろりとやりやがった。
シュキン!
「えっ」
ケツを触った騎士が唖然として自分の腕を見ている。手首から先が無くなっており、そこから血が噴き出して来た。
「うぎゃあぁぁぁ!」
「な、何だ?」
「おまえ! その手どうしたんだ!」
俺とアンナがサッと帽子を取り去る。すると騎士の一人が言った。
「お、お前達!」
すると騒ぎを聞きつけた騎士達が、周りから集まって来た。
きたきた。しらんぞ、ここにいるのはめいっぱい身体強化を施した、特級冒険者のアンナさんだぞ。
「この女が! 手を斬りやがった!」
俺のケツを触った奴が、俺を指さして言う。
いや俺じゃない。
シュキン!
ごろり。そいつの首が落ちた。アンナが冷たい眼差しで言った。
「誰の体を触ったと思ってるんだ?」
「この筋肉女は、王城に忍び込んだ奴だ! 見たぞ!」
その叫んだ奴に向けて俺は杖を出す。
「ライトニング」
ビッシャァ!
プスプスと煙を出してガクリ膝をつき、そのまま仰向けに倒れてしまった。
「な、ななな! この女! 魔法使いだ!」
よーし、騒ぎが大きくなってきたな。
「あなたが私の連れを筋肉女なんていうから」
「斬れ! 斬れ! 斬れ!」
騎士達が集まってきて、剣を抜き去る。するとアンナが言う。
「かかってこい。順番に斬ってやる」
「おのれ!」
数人の騎士が飛びかかってくるが、一瞬で三つの首がごとりと落ちる。俺はそのアンナの後ろから、杖を差し出して魔法を繰り出す。
「スプラッシュライトニング!」
バシュッ! と弾け、五人の騎士が動きを止めた瞬間。アンナが全ての首を斬る。
「集まれ! 曲者はここだ!」
おうおう! どんどん集まって来る! ばかめ。
ぞろぞろと集まって来る騎士。だが俺達はワザと騒ぎを起こしている。こんな奴らは俺とアンナが本気になればすぐに終わってしまうが、あえて派手に騒ぎを起こしているのだ。
ガラガラガラガラ!
荷馬車が門に向かって突撃していく。
「うお! こいつらはオトリだ!」
「はい。ごくろうさん! 気づくのが遅かったね」
スーッと杖を差し出して、そちらに向かおうとする騎士達の頭の上に向ける。
「クラウドライトニング!」
ぶわ! と雲がそいつらの上に現れ、全員に向けて強烈な電撃が降り注いだ。もちろんそっちに行こうとすれば、雲が自動的に電撃を降り注ぐ新技だ。
だが、やっぱり馬鹿なんだね。倒れた騎士達に駆け寄る奴がいるもんだ。
ピシャァァァ!
一気に倒れた。それに他の騎士があっけに取られているうちに、アンナが周りの騎士達の首を全て飛ばしていた。門の方向を見ると、荷馬車から降りて身体強化された騎士達が門を開け入り込んでいた。ルクセンもレルベンゲルもネル爺も、一緒に入れたようだ。
ゴゴン!
全員が門をくぐると、門は閉まった。
「うまくいった」
「わたしたちも行こう!」
俺とアンナは、正門とは反対の方向に向かう。そこにシーファーレンとリンクシルが待っていた。
「お待たせ」
「では」
シーファーレンが杖を出して言う。
「フライ」
するりと俺達四人が空中に舞い、お堀を超えて城壁の上へと登っていく。やはり王城の警護は手薄で、城壁の上に兵士はいなかった。
王城の入り口付近では騒ぎになっているようだが、そこには身体強化を施したルクセンがいるから、なんとか切り抜けられるはずだ。
「じゃ、あの塔の上に行こうか」
「はい」
俺達はそのまま王城に入り、ウェステートが捕らえられていた城で一番高い塔を目指す。
入り口の方で騒ぎになっている為、城内は完全に手薄になっていた。俺達は螺旋階段を昇っていき、一気に屋上へと辿り着く。アンナが屋上の中を覗き込んで言う。
「見張りが四人。リンクは右を」
「はい」
「じゃあ、私とシーファーレンは反対側の二人を」
「わかりましたわ」
騎士は、起きてる騒ぎを見るように一片に集まっていた。俺達は足音をさせずにそーっと近寄って、四人をあっさりと仕留める。
「もっと周りを見なくちゃ、だめだめ」
「作戦通りだな。やるのか?」
「そうするよ。アンナとリンクシルとシーファーレンは周りを警戒していて。私が仕掛けを施す」
「ああ」
「はい」
「わかりましたわ」
俺はそこの上から周りを見渡して、魔法の杖を空に向かって突きだすのだった。




