第351話 世界改革より娼婦のお〇ぱい
この店の主人は鼻が利く男のようで、プーリャが姫様だと気づかれてしまったようだ。近衛騎士達を奥の納屋に押し込んだまま、俺達とプーリャだけが控室のような場所に移される。残念ながら王子は男の子なので、騎士達と納屋に残されたままだった。
「大変申し訳ございませんねえ。まさかこのような所に、王女殿下がいらっしゃるとは思いませんので。分かっていたら、あのような納屋に押し込むことは無かったのでございます」
「いえ。押しかけたのは私達でございます」
「訳ありのご様子ですので、何かと尋ねる事はございません。ですが何卒、こう言った娼館の存在をお認め下さるようにお願い申し上げたい」
「私は子供ではございません。ですから、このようなご職業の方を否定する事はございません」
「ありがたい! しかもお美しいお嬢様方をお連れになっているようで、御貴族ですかな?」
「そうですが、あまりお尋ねにならない方がよろしいかと」
「そうでした! そうでした!」
だが俺はそんな会話よりも、先ほどからチラホラと歩き回る、セクシーな格好をしたお姉さん達に意識がむいてしまう。それはヴァイオレットの姿をしている若いレルベンゲルもだ。
娼館の女隊は、ここにルクセンとレルベンゲルとネル爺という男がいるのを知らない。だからさっきから大胆に着替えたり、裸になったりを繰り返しているのだ。だって見た目、全員小娘だから娼婦の皆様にとってはなんてことはないのだ。
しばらくそこで待っていると、受付の女が客が来たと主人に伝えていた。そして俺達のところにその客を連れてやって来る。
「お客さんだよ!」
マロエにアグマリナ、ジェーバにルイプイ。すなわち朱の獅子達だった。俺達が逃げたのを追跡して、ここに辿り着いたらしい。
「ロサ!」
「すみません。遅くなりました」
「ウェステートとマグノリアは?」
「アルカナ王都を離れ安全な場所へと隠れています」
「身動きが取れなくなってしまったんだ」
「そのようです」
「武器がいる。三十人分の武器と鎧が」
するとロサが言う。
「なら変装をとけばよろしいのでは? 姉さんとリンクシル以外は、その姿で動き回りましたから認識されているかもしれませんが、変装している人は元に戻ればいいのです」
「だけど、それじゃあ国境付近でにらみを利かせている私が、ソフィアに戻ってしまう」
「要はあちらに聖女様がいらっしゃればいいのですよね?」
「なるほど。という事はルクセン卿とネル爺、レルベンゲルと朱の獅子が動けばいいという事か」
「そう言う事です。シーファーレン様は聖女様のおそばに」
「わかりましたわ」
するとルクセン達が大きく頷いた。
「そのとおりじゃな! すぐに!」
そう言ってペンダントを外そうとしたので、俺はハッとそれを制止する。
「ルクセン卿。ここでは…」
「う、うむ。そうじゃった!」
そして俺は三人の男達に言う。
「とにかく近衛兵の武器を集めて来てください」
「わかったのじゃ」
「はい」
俺は懐から金貨の入った財布を渡した。
「見せ金にして、ツケで買える分だけ買って」
「はい」
そうして彼らと朱の獅子は行ってしまった。俺達は引き続きそこで待機をすることになる。
すると、お〇ぱいを出したままの娼婦が近づいて来た。
「あなた。その顔ならめっちゃくちゃ客とれるわよ」
ソフィア(俺)に向かって言っている。
「い、いや。私は」
どうしてもお〇ぱいに目が行くのだが! 我慢だ! 我慢しろ!
するとアンナが言う。
「お嬢様はそのような事はしない」
「あはは。冗談よぉ! そっちの子はどう?」
「うち? うちは」
リンクシルがどぎまぎしている。
「筋肉質の女が良いって男もいるんだけどねえ」
「し、しない」
するとミリィの姿をしたシーファーレンが言う。
「私がお仕事をしたらどうなりますかしら?」
「うーん。メイドのガキはどうかねえ? 好きな男もいるとは思うけどねえ」
うわあ。本当はめっちゃ巨乳の、セクシーの為に生まれたような見た目をしてるんだよ。でもミリィだとどうしても少女にしか見えない。
「しっかし。プーリャ王女様のお友達は綺麗どころが多いんだねえ」
「あまりそう言う事は、言わない方がよろしいかと。皆様のお仕事が必要な事も分かっておりますが、それぞれに違う生き方というものがあるものです」
「そうだねえ。王女には王女の娼婦には娼婦の人生がある。どんなに逆立ちしたって、私らは貴族にはなれないからねえ」
うーん。俺はその世界観を変えようと頑張っているのだが、アルカナ共和国までは管轄外だからなあ…。もっとひどい娼館から救ったミラーナは、修道女を経て今は騎士専門のBARを経営している。
俺はプーリャに言う。
「私の国では、酷い環境の娼婦だった者が修道女になったり、飲み屋の女将になったりしてますね。女性や孤児などにも、もっと選択肢が用意される世界って良いと思いませんか?」
「選択肢が…用意されている世界?」
「そう。生まれながらにして、その定めが決まっているのではなくて、女性達が自分で未来を切り開ける世界。そんな世界があったらいいですよね?」
するとプーリャが身を乗り出して来た。
「あ。あの! 詳しくお願いします」
「あ、はい」
俺は身分の低い人達にも人権があり、彼らがもっと活躍できる場を作れば国は強くなるという話をした。プーリャはそれを真剣に聞いており、まるでメモでもしだすんじゃないかという感じだった。
話し終えるとプーリャが言う。
「朧気に思っていた事を、あなたは具体的に考えていらっしゃるのですね! 素晴らしいです」
「この国でもそれが実現される事を祈ります」
「わかりました。再び王宮を取り戻したら、その実現に向けて頑張ろうと思います」
「是非そうしてほしい」
だって、それが邪神ネメシスを封じ込める方法だから。
今の話は娼婦達すらも熱のこもった眼差しで聞いていた。自分達の人生がこれで終わりじゃないと思える話だからだろう。
だが良い話をしつつも、俺は娼婦のお〇ぱいばかり見ているのだった。
うん。優勝だ。




