第347話 牢屋に捕らえられていた高貴な者
地下を進もうとするとき、美しいスティーリアの格好をしたルクセンおじいちゃんが言う。
「しかし、このような所に貴族とはおかしな話よのう」
ミリィの姿をしたシーファーレンが答える。
「おっしゃる通りですわ。このような身分の高そうな者が、なぜ牢獄の入り口にいるのでしょう?」
言われてみればそうだ。こんなところで貴族が立ち話をしているのはおかしい。
さっき人が顔を出したドアをこっそり開いて中を見ると、下に続く階段が見えた。
「まだ下に下がるんだ」
「堅牢な作りになっておるのじゃな」
「さっきの人はいない」
「どうするかのう」
「行こう。確かめる必要がある」
そして俺達が地下に潜っていくと、両側が松明で灯された、覗き窓のついた鉄の扉が現れた。どう考えても重厚そうで、簡単に開くとは思えないドアだ。念のため引いたり押したりして見るが、案の定びくともしなかった。
するとメイド姿のミリィ(シーファーレン)が言う。
「隠れて下さい。幸い私はメイドです」
俺達はドアの左右に張り付いた、シーファーレンがノックする。
コンコン!
すると鉄の扉の、のぞき窓がシャッ! と開けられて中から誰かが覗いた。
「なんだ」
「申し付けられて、お食事を持ってきました」
「お、そうかそうか!」
ガチャン!
扉の鍵が内側から開けられる。
すると華奢なヴァイオレットの姿をしたレルベンゲルが、スッとドアに手をかけて思いっきり引っ張った。ガンッ! と開けられたドアに、中の人間があっけに取られている。
シーファーレンが言った。
「どうも」
番兵は二人いた。そいつらが驚いて言う。
「なんだ!」
通路から出て来て、ここに女しかいないのを見ると、突然ニヤリとだらしない顔になった。
「おっ。差し入れかなぁ?」
「気が利くねえ」
そう言って、一人がこの中で一番美人なソフィア。すなわち俺に手を伸ばして来た。
知ーらないっと。
ゴッッシャァ!
ズバッシュゥ!
あーあ。
二人の番兵は、アンナとリンクシルから斬られて死んだ。よりによって俺になんか手を伸ばすからだ。変装しているルクセンとレルベンゲルとネル爺が、恐怖の眼差しで二人を見ている。
「どの手が聖女を触ろうとしたのか!」
「まったくです! 生きてても意味がない!」
「とにかく先に進もう」
男達の死体を扉の中に収め、鉄の扉を閉めて中の閂をかける。
「ここにウェステートがいるのじゃろうか?」
「確認しなくてはです」
死んでいる番兵の腰から、牢屋の鍵を取り上げて進んだ。すると鉄格子があり、その向こうが牢屋になっているらしい。
「重罪人の牢のようじゃな」
ルクセンの言葉を聞いて警戒する。
そのまま鉄格子を開けて、牢屋に入っていくと最初の部屋は空っぽだった。更に先に進んで行くと、鉄の扉に窓がついている部屋がある。
小窓から中を覗くと、汚れてはいるが身なりの良さそうな少年が座っている。
「ちょっと。ボク!」
俺が声をかけると、ハッと顔を上げて少年が俺を見る。
そして、つかつかとこちらに歩いて来て言った。
「何者だ」
なんだが言葉遣いが…。
「通りすがりの貴族にございます」
「……一味か?」
一味? とうがらし? 一味って麦〇らの? あれ?
「えっと、あなたが言う一味とは何です?」
「どうせ、我が一族を笑いものに来たのだろう。この不正が明るみになった暁にはお前達は終わりだ」
「えーっと。不正? 何の事か分かりません。もし騒がないとおっしゃるのなら、この扉を開けたいのですが」
「……何を言っている?」
「こんな小さい子を、牢屋に入れるのはおかしいなって」
「貴様…何者だ……」
「ですから、とおりすがりの貴族だと申し上げました」
「……物の怪の類か?」
「いえいえ。生きてますよ! ピンピンしてます」
「開けるというのであれば、開けろ」
「あ、では」
そして鍵を見る。
いっぱいあって分からない。
「どれかな?」
「片っ端から回すしかなかろう」
そして俺が一本一本鍵を回していく。すると五本目でようやくカチン! と音がして開いた。
念のためアンナが先に入る。すると身なりの良い少年が思い切りアンナに飛びかかって来た。アンナはその少年の顔を掴んで、少年がブンブンと手を回している。
「落ち着いて」
抵抗が無駄だと思ったのか、少年が抵抗をやめて俺達を見る。
「なっ。なぜ女だけなのだ? メイドや修道女迄いるではないか! どうなっている?」
「ですから、たまたま通りかかった貴族ですって。ところでボクは何者?」
「不敬であろう! 私をつかまえてボクとは! いや一味であれば見下しているのか?」
「一味って何です? 本当に知らないんですよ。見下してもいません」
「……私を知らないのか?」
お前みたいな、ショタが好みそうな身なりの良いガキは嫌いだよ。
とは言わない。
「えっと申し訳ないのですが、存じ上げません」
「ヴァイネンだ! ヴァイネン・アルカナである!」
おっとぉ。国の名前?
「もしかして王子様?」
「そうである!」
「なぜ王子様がこんなところにいるのです?」
「反逆だ。一部の騎士達が結託をして反乱を起こしたのだ」
「反乱? という事は陛下や妃様も?」
「父と母は……」
ヴァイネンが涙ぐむ。もしかしたら殺されちゃったとか?
「他の王族は?」
「この牢のどこかに姉上もいるはずだ」
「えっと暴れないと約束するなら助ける。お姉さんを探そう」
「えっ。本当にお前達は何者なのだ?」
「えーと、他国の貴族です」
「ど、どうしてこんな城の深くに? 奴らの兵もいただろう!」
「あーと、それはまあ適当に」
「……とにかく姉上を」
「探しましょう」
少年を廊下に出して、一室一室ノックをして行く。すると数回目で反応があった。
「だれ?」
「姉上。ヴァイネンです」
「ヴァイ! どうしたの?」
「助けに来ました」
「嘘」
とにかく鍵を開けなくちゃ。
「えっと、どれだろう?」
「片っ端からやっていくしかない」
「さっきのはこれだよね」
七本目で鍵が開いた。俺達が扉を開けると、ヴァイネンがダッと走り込み、中にいた少女にバフッと抱き着いたのだった。その少女は俺達を見て聞く。
「あなた方は?」
「遠い国から来た貴族です。訳あって潜入したのですが、そこで弟さんを助ける事になりまして」
「奴らの兵がいたと思うのですが?」
「あー、それは倒しました。ちょっとお話を聞きたいのですが」
「倒した…? わかりました」
俺とアンナとシーファーレン、そしてルクセンがその部屋に入って、話を聞き始めるのだった。




